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私が1人暮らしを初めてから、最初の年末に
実家に帰った時の話です。
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夜遅く実家に着き、家族と軽く話をし、母が用意しておいてくれた夕食を食べ、
その日は、早々に寝ようと思いました。
その年は大雪で、例年以上に寒く、
( 実家は雪国なので )
2階に用意されてた布団の横には、
石油ストーブが置かれており、部屋を暖かくしてくれていまた。
(寒いし、おかんがストーブつけといてくれたんや)
と、有難く思いつつ、
電気を消し布団に入りました。
(久しぶりに帰ったしな、
明日は弟と、何処か行くかな、、、)
などと考えているうちに、
電車で5、6時間かけて帰って来た疲れのせいもあり、知らぬ間に寝てしまいました。
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夜中に、寒いなぁと思い、
(布団、ちゃんと掛かってないんじゃないんか、、、?)
と、布団を首元の方へ、グッと引っ張りました。
その瞬間、布団の右裾を、
逆に、思いっきり引っ張られました。
私が引っ張った掛け布団が、足元の方へ引っ張られて、
私の上半身には、毛布だけが残りました。
( えっ?
誰が、引っ張ったん、、、?)
途端に私は目が覚めました。
体を起こして、足元を見ましたが誰もいません。
ただ、そこには、
仏壇が入る訳でも無かった、仏壇入れの扉が
閉まっているだけです。
ヤバい、、、怖い、、、
私は、1階に下りて行こうかとパニックになりましたが、恐怖で身体が動きませんでした。
暫く、怖さのあまり硬直していましたが、
暗闇の中で、ぼやっと見えている仏壇入れを、
何故だかじっと見ていました。
その内に、
先程の出来事は頭から消え失せていて、
( 何でこんな仏壇入れ、作ってんろ、
何も入れる物なんて無いのに、、、)
と、意味の分からない事をボンヤリと考えていました。
( あぁ、確か、
亡くなったおじいちゃんが、この家の設計したって言うとったわ、
設計士に頼むと、お金かかる言うて。
こんな事言うて悪いけど、ケチやな。
そんなんやし、この家の造りは変なんやとか、おかん、言うとったな、、、
まぁ素人が設計してんしな、
でも、設計出来るって凄いなぁ、、、
って、
そんなんどうでも良いわ、眠いし。
何を考えとってんろ、、、)
そうして、私はまた眠りに落ちました。
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次の朝、目が覚めました。
( うん? 此処どこや?
あぁ、そうや、実家やったわ、、、)
何となく寝惚けながらも、身体を起こそうとして、
私は一瞬で目が覚めました。
私の掛け布団のシーツの、表面全体が黒く焼け焦げています。
1ミリも残さず、隅々まで。
( っ!!
布団、焦げとる!私、大丈夫やったんか!?)
私は呆然と、黒く焼け焦げたシーツを見ていました。
怖い、、、
私、死ぬところやったんかな、、、
それと同時に、
( あっ、寝る前、ストーブ消したっけ、、、)
すぐに、横のストーブを見ましたが、
火は消えていました。
ストーブ、、、
布団の、やたら近くに置いてあったんやな、
私は、放心状態でした。
その後、軽く恐怖を感じながらも、
暫く経ってから、1階に下りて行き、母にシーツが焦げた事を伝えました。
母は、分かったよ、とだけ言って、
2階に上がって行きました。
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台所で、椅子に座りながら思い出していました。
( 、、、夜中に誰か、布団を引っ張ったよな?
で、暫くの間、
仏壇入れを見とったよなぁ、、、)
そして私は、
何となく、空っぽの仏壇入れが気になりました。
私は霊能者でも、
御札を貼るようなお寺の住職でも、
何でも無いんですが、母に言いました。
「 何も入ってない仏壇入れは、
何かを入れたがるんやよ、
やし、本でもダンボールでも何でも良いから、
隙間も無いくらい、何か入れた方が良い 」
何故、そう思ったのかは分かりませんが、
そうした方が良いと思いました。
母は、分かったわ、と急いで2階に行きました。
暫くして、私も2階に行くと、
母の姿はありませんでしたが、
仏壇入れの扉が開いており、
その中には、弟の読まなくなった漫画や、
いらない服が入ったダンボールが、所狭しと詰められていました。
それを見て、私はホッとしました。
その3日後に、私は1人暮らしのアパートへと戻りました。
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それから何年も経って、
私は1人暮らしをやめて、実家に戻りました。
ある日、母と話していた時に、
" シーツ黒焦げ事件 " の話になりました。
「私、あの時、
よく火達磨にならんだなって思うわ」
と、笑いました。
母は何も言いませんでしたが、軽く笑っていました。
「あと、仏壇入れに、
何でも良いし、物を入れた方が良いって、
インチキ占い師みたいな事言うとったけど、
おかん、それ聞いて、仏壇入れに物を詰めてくれやん? 信じてくれたんか?」
すると、おかんが、
「 それまで気付かんかったけど、
あんたに言われて、おかんも自分自身、
そうした方が良いと思ったしね 、
やし、すぐに、いらん物を詰め込んだんや 」
「 あ、そう、、、
私が真剣にそんな事言うたし、気使って、
とりあえず、物を入れたんかと思っとったわ 」
すると母が言いました。
「 おかんがお嫁に来た時から、
あの部屋ってあるんや。
やけど、何の部屋なんか分からんのや、
おとんに聞いても、知らん って言うし。
なんで仏壇入れあるんや?って、
不思議やろ?
それで、たまに掃除しに行くと、
必ず仏壇入れの扉が、少し開いとるんやよ。
建付けが悪いし、所詮、素人が設計した家やしやって最初は思っとったよ、
やけど、行く度、行く度、扉開いとったら、
気味悪いやろ?
だから、それから掃除の回数も減ってって。
まぁ今回、あんたが帰って来るって言うんで
久しぶりに掃除したけどね。
あんたが、そんな事言い出すし、びっくりしたわ、
やけど、それが正解やって、おかん、思ってん。中には物が詰まっとるし扉は閉まらん、
だから、変に開く事もないし。
なんか、スッキリして、今は洗濯物を干す部屋にしとるわ」
と、母が笑いました。
私は、胸騒ぎがしました。
自分の焦げた掛け布団を思い出しました。
同じ部屋です。
「 ねぇ、
冬にストーブ焚いて、洗濯物を乾かしとらんか?」
「 あぁ、そうやね 」
「 絶対に、やめて!
乾かんのやったら、私がコインランドリーで乾かすし、絶対にそれだけはやめて!」
母は、分かったと言い、
それからは、
乾きにくい物はコインランドリーで乾かしました。
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その後、その部屋では、1度も寝てはいません。
相変わらず、洗濯物干し場です。
勿論、冬にストーブは使っていません。
しかし、私にとっては、
今でも気になる事があります。
私の掛け布団を引っ張った誰かは、
私を火事から助けようとしてくれたのか、、、
それとも、
丁度、私の足元に在った、何も入る事の無い、
空っぽの仏壇入れが、
寂しくて、私を入れようとしたのか、、、。
神様か、死神か、
どちらだったんでしょう?
作者退会会員
今回も、長文と方言、すみませんです。