僕はよく夢を見る。必ず一週間に一回は見る。これだけの短い頻度で夢を見ることが出来る僕は、これまで様々な夢を見てきた。暗闇に立っているだけの夢や蝶々に囲まれるだけの変な夢とか可愛い女の子とデートする夢とか……予知夢らしきものも見たことがある。そして今、僕は6日間ずっと夢を見ていない。これは今晩夢を見ることになるな…と思いながら僕は眠りについた。
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ザクザク……。僕は情けなく泣きながら山の奥に繋がる道を歩いている。後ろには赤く染まった包丁を握った男が包丁に負けず劣らずの鋭い冷酷な目で僕を監視している。
今まで僕は様々な夢を見たけど、夢で泣いたことはなかった。今日の夢は最悪だ。あの…後ろで僕を監視している男がお母さんとお父さんを殺す夢だった。そして偶然、犯行現場を見てしまった僕は男に脅され両親の遺体を埋める手伝いをしているという……わけだ。夢とはいえ、殺されそうになったり犯罪に手を貸しているなんて…。早く目覚めてほしい…。僕はそう思いながらも必死に両親の入っているビニール袋を引きずる。
それから何分…いや、何時間歩いただろうか。急に男が「ここだ。」と言った。
男が僕が右手に持っている袋を指す。お母さんが入っている方だ。
「…埋めろ。」
決して感情的な声ではない。だが、逆らったら容赦なく殺す。そんな響きを伴った声に、僕は涙でグシャグシャの顔で何度も頷いた。ああ…早く覚めろ…。
遺体を埋めるのは大変だった。一方で男は、難なくお父さんの入った袋を地面に埋めていた。まるで何回もそれをしたことがあるような慣れた手つきで…。
うぅ、いつになったら覚めるの…?
「……俺のことを警察に喋ったら殺すからな。言うんじゃないぞ。」
「はっ、はい…。」
男が包丁を僕の首にあてて言うものだから僕はさらに涙を流して男の要求を承諾した。包丁の冷たい感触…。ゾッと背筋が凍ったよ…。
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気づいたら僕は朝を迎えていた。ああ、やっと覚めた!あの恐怖の夢から覚めれた!僕は嬉しさのあまり夢の中で散々流した涙を目から溢す。
それから僕は時計を見る。針は8時を指していた。
(は……8時!?もう学校が始まる時間じゃん!)
僕は慌ててベッドの中から飛び出した。
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ダダダダと一階に通じる階段を僕は駆け降りる。このままだと遅刻まっしぐらだ!!僕はリビングのドアを勢いよく開けた。
「お母さん!ごめん!今日は朝御飯……は…。」
そこには真っ赤な液体がこびりついていた。…え?何?あっ、お母さんってばイチゴジャム溢したのかな?ドジだな…。
僕の鼻に独特のあの臭いが入る。この臭いを僕は知っている。例えばアスファルトの道で思いっきり転んだときに出来る傷から臭う…。
僕の体がガクンと崩れ落ちる。体に力が入らない。
そんな…あれは……夢じゃなかったのか?夢でなく現実…だったの?じゃあ、じゃあ…僕の…両親は……。
作者りも