長編20
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地図に無い家

wallpaper:4862

夏の一研究。

私達の住む内儀町を調べよう。

夏休みの宿題。

クラスの班で別れて自分たちの住む町の歴史を調べようと言う趣旨の物です…

よくある宿題ですよね?

だから、私は、こんな結果になるだなんて思わなかったんです。

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10年前…

私、刑部麻琴(おさかべ まこと)は小学五年生でした。

夏休みが始まって10日が過ぎた日の朝、私は班の子たちに電話をかけました。

担任の先生から宿題の進捗状況を尋ねる電話があったからです。

全然進んでないのは私の班だけらしくて…

出来なかったら班長の私が叱られるんです。

えぇ、サボってたんじゃないですよ。

だけど、夏休みって家族旅行とか親戚が来るだとか色々あるじゃないですか?

皆予定があって…

今年は水害で夏祭りは中止になったって言うのに…

先生は班全体でやれって言うけど、そんなの全然無理だったんです。

だから、私はネット検索で手っ取り早くネタを集めようって皆に連絡しました。

その日の夜に…誰だっけ…

まぁ、誰かからメールがあって面白いサイトがあるって…

戦争中にアメリカ軍の飛行機が撮影した日本中の写真で

内儀町も写ってたんです。

まだ、国道も橋も無くって川には渡し船があって…

線路があったから大体の雰囲気は分かったけど…

次の日に今の航空写真をプリントして皆で集まって

何か変わった物が無いか探したんです。

「これ、なんだろ?」

誰だったか、誰かが指差したんです。

舟山の上にある大きな瓦葺の屋根

こんなお屋敷があったら気付くはずなんだけど

そもそも舟山って縁起が悪い場所って言われてて

行くなと大人からも言われてました。

低学年の子達はオバケが出る山って言ってるけど

あそこら辺は昔、亜炭を掘ってたらしくて危ないから大人たちが行かせないようにしてると

…クラスの誰かが言ってました。

「行ってみようぜ!」

班の男子が盛り上がって、明日行く事になったけど

他の二人は家族旅行で来れませんでした。

「ごめんね、麻琴ちゃん…」

美代ちゃんが申し訳なさそうな顔で謝ります。

抜けたのは女子2人で、結局行けるのは私と男子3人でした。

男子ばっかりの中で行くのはつまらなくて

私も行く気持ちが薄れたって言うか…

第一、探検気分で行って何もまとめれないんじゃ

意味が無いですよね?

「お母さん、舟山ってさぁ…」

その夜、私は舟山の上にあった謎の建物が何なのか知ろうと思い母に聞こうとしたんです。

「お前、行くやないぞ!」

その時、居間でテレビを観ていた祖母が言いました。

それも凄い形相で…

危険だから子供を止める為の…ってレベルじゃ無いくらい怖い顔で私を見たんですよ。

あんな怖い顔の祖母は初めて見ました。

翌日、私は気が乗らないままバス停に立ってました。

舟山に行く為です。

祖母には行くなと言われたけど

もう、めぼしい史跡や記念物は他の班が押さえてて

思い付くアテがなかったんです。

「よぉ、麻琴…」

家が近所の鈴木君がフーフー言って現れました。

「はぁ、心臓がえらい…」

鈴木君、太りすぎ…

停留所で座り込み、バスに乗っても座席でヘタリ込んでるよ…

彼はいつもこうだから。

何をやっても「ダルい辛い」でみるみる太って

今じゃ歩くのすら辛いのか学校まで親が車で送り迎えしている有り様なんです。

見ているだけで私も滅入ってきて…

そうだ、鈴木君をダシにして今日は中止にしようかな?

名案だと思いました。

次の停留所で家田君と荒木君が乗ってきました。

「お前、だらしねぇなぁ!」

すぐに2人は面白がって鈴木君を弄りだしました。

鈴木君が、もう一言か二言くらい泣き言を言ったら

「鈴木君辛そうだし今日は中止にしようか?」

とでも言うつもりでした。

「麻琴だけで行けよ!」

突然、鈴木君が叫びました。

はぁ?なんで私だけで行かなきゃなんないわけ?

「どうせ誉められるのは麻琴だけじゃんか!」

私は中止にするのを中止しました。

新町裏の停留所で降りると一面の田園風景で

舟山は水を張った田んぼの真ん中に浮いてるかの様に存在していました。

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「なんだよこれ…!?」

家田君がコンクリートで出来た塀を蹴りあげました。

道から山に入って10メートルも進まない内に山の斜面を削って作ったのだろう塀が現れたんです。

高さは5メートルはあったと思います。

ほぼ垂直で足場になるようなデコボコも無くて

とても小学生に上がれる物じゃありませんでした。

斜面が崩れないように施工した物は近所で良く目にするけど

異質なのは、塀の上に鉄骨が立てられ…

…鉄条網?棘が生えた鉄線が張り巡らしてあって

その塀が人を拒む様な、単なる土留めを目的に作られた物ではないと感じました。

「どーするの?」

荒木君が私に聞いてきました。

「どーするのって…」

「麻琴さんは班長でしょ?班長なのに何も調べずに来たわけ?」

荒木君は女の子っぽい話し方をするオットリな人だけど

気に入らないと急に刺々しくなる。

だから、私は苦手でした。

「こういうのも調べておくとか常識でしょ!?」

「おーい、こっちから登れそうだせ!」

私が荒木君に詰め寄られてる間に辺りを散策していた家田君が登れそうなポイントを見つけたようです。

どうやら古くに作られた石垣のようで拳大の丸い川原石が積み重ねられており

これなら掴んで登れそうです。

鉄線もありませんでした。

さっきの不機嫌さも何処へやらで

荒木君が、さっそく登り始めました。

ナイス、家田君!

据え膳でなければ何も出来ない荒木や

そもそもがお荷物の鈴木とは偉い違いだよ。

「おーい、登ったぞ!」

上で荒木君が手を振りました。

「お、俺は最後で良いよ」

鈴木君が気だるそうな表情で言います。

また、始まった…と私は思いました。

「お前を最後にすると、なんやかんや言って登って来ないだろうからな。」

家田君は鈴木君に行けと言いました。

「…そんなこと…ないよ」

鈴木君は不服そうな顔で言いましたが

家田君は

「そっか、悪かったな」

と言うと鈴木君に行けと指差しました。

家田君、ナイス過ぎ!!今日のMVPは君だよ!

鈴木君がヒーヒー登った次は私、最後に登って来た家田君に私は良い気分で手を貸して彼を引っ張り上げました。

shake

「おい、麻琴のパンツ白!」

思いもしない家田君の言葉に私の頭は、それこそ真っ白になりました。

「スカートなんかはいてるから悪いんだぜ!」

なんのことはない、この男は私を助けてくれる為ではなく

私のスカートを覗く為に登る順番を仕切ってただけだったんです!

思えば平気で他人の持ち物を漁ったりとか平気でする歩く非常識だった事を私は思い出しました。

「マジ!?エッロ!」

さっきまで半泣きだった鈴木がテンション爆上げるし

荒木は無言で私をガン見するし

もう、凄く嫌になって…

「私、もう帰…」

「スッゲ!大発見だぞ!」

またしても家田が何か見つけたみたいでした。

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それは巾5メートルはあるだろう石段でした。

「上まで登れるかな!」

石垣登りで辟易したのか鈴木君が石段を見上げて首を傾げました。

「これって、大発見じゃね!?」

ついさっき、私のパンツの色を公表した口が同意を求めて来ます。

「うん、あぁ」

私は適当に相槌を打ちながら顔を背けました。

背けながら山の下側を見たのですが…

私はおかしな違和感に襲われました。

「ねぇ、なんで石垣から下は石段が無いのかな?」

「そりゃ、石垣作ったからだろ?」

石段発見を称賛されたかったのだろう家田君は不満げに答えました。

「だからって、こんな跡形も無く片付けるものかな?」

となり町にダムで沈んだ集落があるんだけど

以前、お父さんの車で通りかかった時

集落へ向かう道が、まだ幾つか残ってたんですよね。

道の途中に立ち入り禁止のバリケードがあって

その向こう側はそのままダム湖に消えてたんです。

なんで道を残してるのか、お父さんに聞いたら

壊すのが大変だからと言ってました。

だから、石垣で石段を遮断はしても石段はそのままなんじゃないのかな…?

「まぁ、石段の石材を石垣に再利用とかあるんじゃないの?」

今まで黙っていた荒木君が推理を披露しました。

確かに石材の再利用って多かったらしくて、工事で古い石垣を壊したら

土台に明治維新頃に廃仏毀釈で捨てたお地蔵様を使ってたとか

そう言う話が、この地方には結構ある。

「なら、石垣より上だって使うんじゃ?」

「ここの工事とは限らないんじゃない?後になって運び出したのかもだし」

私の反論は荒木君の推理で一蹴され、この話は終わったけど

私は何か違和感を感じたまま石段を上がる事になりました。

石段は異様に長かったと思います。

20分ほど歩きましたが、なかなか頂上は見えません。

放置された期間は相当に長い様で所々崩れ、両端からは山が攻めて来ており

道があるだけマシ程度な物でした。

そうですね、道が無ければ昇らなかったと思います。

それを考えても長いと思いました。

やはりと言うか鈴木君が音を上げました。

石垣の端で座り込むと

「もう、歩けないよ!こんなの横暴だろ!?」

と叫び出しました。

何が横暴なのかは分かりませんでした。

「分かった分ーかった休憩しようぜ?」

家田君が茶化す様に言ったのが癇に触ったんでしょう…

彼は自分の太った体に今回の苦行がいかに有害か?

お前らに俺の辛さが分かるのか!?

これは人権侵害だから告訴したら自分が勝てるとか…

一気にまくし立てました。

「うん、分かった」

私も色々と気が滅入っていたので彼を宥めすかすズクはありませんでした。

「帰りなよ」

鈴木君は大きな瞳でキョトンと私を見ました。

これが鈴木君と話す最後の言葉になるとは思いもしませんでした。

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「麻琴さん、マジ冷酷じゃない?」

先を行く荒木君が振り返って言いました。

「そう?無理に連れて行くとコクソされちゃうよ?」

荒木君はコクソが面白かったのか「フフッ」と笑うと黙りました。

「鈴木は、お前のこと好きなんだぜ!」

背後から家田君が鈴木君の告白を代弁してくれました…

「うんうん、言ってたねぇ」

荒木君は、また「フフッ」と笑いました。

あんな辛いとか面倒とかを連呼する鈴木君も

そんな事を考えるんだね…

あまり嬉しくないけど。

「何でも良いから、家田君は前を歩きなさいよっ!」

勾配のきつい石段を数段遅れて上がって来る家田に私はスカートを抑えて怒鳴りました。

鈴木君と別れて数分上がった所で私達は休憩にしました。

「ここで休憩すんなら鈴木のトコで休めば良かったんじゃね?」

家田君がリュックからペットボトル出しながら

そう言うことを言うんですよ。

「帰りたがったのは彼でしょ?」

「うん、でも新学期から話辛くなるんじゃないの?」

癇癪持ちのクセにもっともらしい事を言う荒木君にイラッとしました。

家田君が携帯を鳴らしましたが出ないみたいです。

「どうせ、まだ座り込んでるだろうし見て来るわ!」

家田君はそう言うと立ち上がりました。

「どうせ来ないんじゃないの?」

また駄々が始まるのかと思うと私は暗鬱な気持ちになりました。

「後ろを歩けば麻琴のパンツ見えるぞ!って言ったら来るって。」

家田君は笑いながら石段を走って降りて行きました。

フットワークの軽さは買うんだけどなぁ…

その時、時刻は正午を回ったようでサイレンが鳴り響いたんです。

「麻琴さん、あれ何だろうね?」

荒木君が山の中を指差しました。

藪の中に石柱のような物が何本も見えます。

私達は宿題のネタを発見したとばかりに藪を進みました。

「これ、お墓じゃないの?だけど…」

どう見ても墓石でした。

ただ、奇妙な事に戒名とか墓碑銘の類いは一切彫られてませんでした。

風化したとかじゃなく最初から彫られてなかったんです。

「大昔の石屋さんの展示場ってわけじゃなさそーだけどね…」

荒木君が全ての墓石を隅々まで見てから言いました。

「まだ変な所はあるんだよね」

荒木君が私にクイズを出すような顔で言いました。

「な…何なの?」

「ここは田んぼだよ」

荒木君が水の取り入れだった痕跡を指差しました。

「嘘でしょ?」

「墓場に水は張らないよね」

私達が石段に戻ると同時に家田君が1人戻って来ました。

「鈴木君は?」

説得に失敗したんだろうと思いました。

「そ、それがよ!アイツ居ないんだわ!」

「帰ったんでしょ?」

荒木君が鈴木君にメールを送りながら言いました。

「いやいや、俺もそう思ってしばらく降りたんだけど居ないんだよ!」

家田君が言うには、あんなに速く奴が移動出来る訳がない。

って言うんだけど、だったら隠れてるって話じゃないですか?

私は疲れて座り込みました。

ピンポーン!

「返信あったわ。」

荒木君が携帯画面を家田君に見せました。

「おほっ!」

「これはお熱いよね~」

荒木君の携帯を覗くと鈴木君から私の写真が送られて来ていました。

明らかにさっき撮られたんだろうけど

いつ撮られたんだろう…?

目線は全然違う方向を向いてて…盗み撮りだよね?

気持ち悪っ!

「もう、行こっ!」

私達は、ようやく山頂に立った。

石段の終わりには鳥居があったようですが

倒壊したのか両端に石柱が立つのみでした。

山頂に立派なお屋敷は…

ありませんでした。

あるのは火災の跡って言うか焦げた太い柱が何本か立っていて

倒壊した屋根の瓦が敷き詰めたように

滑り落ちて来ていました。

どうやら、お屋敷は神社であり戦時中か戦後に火災で失われたんだろう…

「見てみ!」

家田君が指差した先に石を詰んだケルンの様な塔がありました。

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ケルンみたいですがケルンとは異なり

小石を積んだ物ではなく

人では抱えられないような岩盤が積み重ねてありました。

「これこれ、ドイツ軍じゃね!?」

家田君が卍の模様が入った鬼瓦を抱えあげました。

「バッカ…それは…」

私は寺と神社のあり得ない組み合わせに言葉を失った。

「おかしいよね…」

荒木君も倒壊した鳥居を見ながら首を傾げました。

「下の墓石も、あれ神式の1つも無かったし…」

神道の墓地なら先端が水晶みたいに尖った墓石が

1つくらいあったって良い。

最近建立される墓石はそうでもないが

昔から住んでる人の家の墓は先が尖っている事は私も知っていました。

「これこれ、これ!」

人の荷物を漁る悪い癖全開で家田君は焼け跡から

焼け残った茶碗やヤカンを発掘しては瓦の上に並べていました。

「これ!」

家田君は六芒星のマークが付いた瓦を何処からか運んで来ました。

「これは…何か凄い発見をしたんじゃない?」

荒木君は携帯で写真を撮り始めました。

私も…と思い携帯を取り出した時、不意に着信が入ったんです。

着信は美代ちゃんでした。

家族旅行で今日来れなかった班のメンバーの1人です。

「あ、もしもし?旅行楽しんでる?」

「麻琴ちゃん…まだ無事!?」

無事って…?

「美代ちゃん…何言ってるの…?」

「…舟山に登ったんだよね?」

「うん、一研究は何とかなりそうだよ!」

私の言葉に美代ちゃんは応えず、電話の向こうで誰かと話す声が聞こえました。

「麻琴ちゃん!?美代の母です!!」

ちょっと、美代ちゃん…お母さんに話したの!?

美代ちゃんの家は代々神主さんの家で美代ちゃんのお母さんは

そこの娘です…

「良い!?今すぐ山を降りなさい!」

「す…すみません…」

私は美代ちゃんのお母さんの剣幕に思わず謝ってしまいました。

「誰か居なくなったり、おかしくなった人は居ない?」

居なくなったと言えば鈴木君が…

「こーれ!これこれこれこれ!」

振り返ると家田君が鬼瓦を例のケルンみたいな物にぶつけていました。

ゲタゲタ笑ながら何度も何度も…

「おい、ちょっと不味いって…!」

荒木君が家田君の肩を掴んで制止しようとしましたが

家田君は荒木君の手を振り払うと尚も石塔を破壊しようと瓦や石をぶつけ続けました。

「その人達はダメだから、無事な人だけで逃げなさい!」

「おい、麻琴来てよ!」

荒木君の悲鳴が聞こえました。

「神社の大人を行かせたから、今は無事な人だけで逃げるの!」

逃げるって…何から?

「探したり連れて行こうとしちゃダメよ!」

私は混乱して携帯を耳に当てたまま口をパクパクしているだけでした。

「麻琴ちゃん!呪いなんだよ!!」

美代ちゃんが電話を代わり叫びました。

「荒木君!逃げるよ!逃げよう!」

私は荒木君に駆け寄り叫びました。

何の事かは分からないまま、私は荒木君の袖口を掴みました。

美代ちゃんのお母さんが言った様に鈴木君は忽然と姿を消し

家田君は正気ではなかったからです…

ただ事ではない何かを起こしてしまったのだ

それだけは理解出来ました。

「こーれこれこれこれこれこれこれぇ!!」

ズルッと岩盤が動きケルンが音を立てて倒壊しました。

「だけど家田が…」

「美代ちゃんのお母さんが大人を寄越すから逃げろって…」

「これけれぇ!これぇっ!!」

家田君の声は、もはや奇声でしかありません。

荒木君は青い顔で頷くと石段に向かい走り出しました。

石段を駆け降りる時、私はもう一度振り返ると

家田君は倒した石塔の下を素手で掘り返す最中でした。

「家田君…ごめんね」

これが家田君を見た最後になりました。

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私達は半場、転がりそうになりながら石段を駆け降りました。

「なんで、こんなに暗く…」

荒木君の叫びに私は周囲を見回したんです

空は薄暗くなって来ており夕方…少なくとも六時は回っている感じでした。

夕方を告げるサイレンが鳴り響きました。

「さっき…さっき…お昼になったばかりだよ…ね?」

私の言葉に一言も返さず荒木君は先を急ぎます。

30分は走ったでしょうか?

ですが、いつまで走っても石垣には辿り着けませんでした。

とうとう私達は座り込んでしまいました。

心臓が破裂しそう…

「俺の気持ち…分かってもらえた…?

藪の奥から声が聞こえました…鈴木君の声です。

「走ると心臓が辛いって分かってもらぇたぁ?」

「鈴木…?居るの?」

荒木君が声をかけますが返事はありません。

藪の中は例の墓場でした。

その墓石の1つに腰をかけ鈴木君はニヤニヤ笑いながら

携帯の画面を操作していました。

「麻琴さぁ…お前、隙だらけ…隙だらけだから家田にパンツ見られるんだぜぇ…」

私の携帯が鳴り、メールの着信が通知されました。

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もう、鈴木君はこの世の人ではないと私は思いました。

「これっ!これこれこれこれぇっ!!」

山頂から家田君の叫びが聞こえます。

「こっちに降りて来るぅ!」

荒木君が叫び走り出しました。

「隙だらけ…好き…好き…」

背後から鈴木君の声が追いかけて来ます。

私は荒木君の後を走りました。

もう、辺りは暗くなり携帯のライトを使わなければ

石段を踏み外しかねない状態でした。

しかし、バッテリーの残量は既に5%を切っています。

だけど、全然石垣は見えて来ないし

美代ちゃんのお母さんが言った大人の人達が来る気配はありませんでした。

ただ、狂ったようにメールの着信音が鳴るばかりです。

メールが鳴り響く度に残量はどんどん減っていきました。

「待って、荒木君…私…もうライトが…」

私は荒木君の肩に手をかけました。

「離せ!離せよっ!」

荒木君が私の手を振り払いました。

「こんなんなったのは、君が電話して来たからでしょ!?」

目を見開き口を尖らせて彼は叫びました。

「バッテリーのチェックをしない!此処だって何も調べないからぁ!こうなるんでしょ!!」

荒木君が私の携帯を指差した瞬間、携帯はブーっと一揺れし切れてしまいました。

「バッテリーが…」

「こーれ、これこれこれこれぇっ!」

すぐ近くで家田君の叫び声が聞こえました。

「俺は鈴木や家田と違って君の事とかどーでも良いから!!」

荒木君が走り出そうとします。

「まっ…待って!」

「うるさぁい!!」

私は突き飛ばされ石段を頭から転落しました…

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「おぉい!居たぞ!!」

ライトに照らされて私は眩しさで顔を背けました。

光から目を逸らすと消防団の人や警察、美代ちゃんのお母さんが言った神社の氏子さんが見えました。

私は石垣から落ちたのだと思いました。

石垣…近くにあったんだ…

「山の北側で少女を保護しました…車を回して下さい!」

お巡りさんが無線で連絡したあと、私に近付いて来ました。

「他の子は何処に居るのか分かるかな?」

「石垣の上…石段に…」

私は山の上を指差しました。

お巡りさんは困った顔で消防団の人と顔を見合わせたあと

私の前から立ち去りました。

車には美代ちゃんのお母さんと神社の人達が乗ってました。

「まだ、三人居るんです…石段の所に…」

私は必死で私を抱き抱えている美代ちゃんのお母さんに訴えました。

「石段…」

乗り合わせてる誰かがボソリと言いました。

「深くまで呼ばれたみたいですね…」

神社に着くと私は服を脱がされ冷水をバケツで何杯も浴びせられました。

塩水を飲まされては吐かされ…

疲労と打撲で朦朧としていた私はすぐに意識を失いました。

意識を取り戻したのは布団の中でした。

美代ちゃんが座ってました。

「お母さーん!麻琴ちゃんが目を覚ましたよ!」

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あれから3日が過ぎていました。

私の頭は霧が立ち込めたようにハッキリせず

ただ、美代ちゃんに謝るばかりでした。

「ごめんね…旅行、台無しになっちゃったよね…」

お昼が過ぎた頃に私は美代ちゃんの家の客間に呼ばれました。

客間に通されると両親と祖母が居ました。

お母さんが私を見て何か言いかけたのを祖母が止めました。

荒木君と荒木君のご両親も座っていました。

荒木君は

ただ、空中の一点を見続けていました。

後ろには鈴木君のご両親が座っていましたが…鈴木君は居ません。

私は神主様(美代ちゃんのお父さん)から見付かったのは私と荒木君、家田君で

鈴木君は、とうとう見付からなかったと言われました。

鈴木君のご両親の啜り泣く声を私はボーッと聞いていました。

「そんなはず…無いです…石段に居ます…」

私はやっとそれだけ言いました。

「あの山に石段は無いんだよ…」

「嘘ですよ、私は歩いたんですから…」

今日も朝から警察と消防団が山中を探しているが

石段の痕跡すら無いと神主様は言いました。

家田君は状態が悪く専門の場所へ移された。

多分、二度と会う事は無い。

鈴木君は恐らく亡くなっていると…

鈴木君のお母さんが泣き崩れる音を私はボンヤリ聞いていました。

あの山には元々はお寺があったんだそうです。

明治維新の時に藩主は新政府へ従う意を示す為に

仏教を廃し領民を神道に改宗させたと…

もちろん世話になった僧侶には理由を話し

礼を尽くして納得してもらったのだと

だが、寺男の1人が怒り狂い僧侶を追って出て行ってしまった。

その後、廃藩置県を経て大正の終わり頃…

60年近くも過ぎてから

その寺男の子孫と言う家族が移り住んで来た。

村は歓待し所縁がある廃寺を家族に渡した。

寺は一時、神社に改装されていたが最終的に中止された状態でした。

あの寺とも神社とも言えないチグハグな作りは、そう言う事なのだろう。

だが、その家族は積極的に村人と関わろうとはせず。

当然のように神社の行事は無視する有り様で

村の葬式にも顔を出さずでした。

困った村の助役が僧侶の子孫に檀家だろう件の家族に一言言ってもらおうと

他県にまで赴きました。

帰って来た助役が言うには確かに昔、寺男は僧侶を追って現れた。

僧侶は喜び、寺男として再び彼を雇ったのでした。

しかし

彼はすっかり言動が過激になってしまっており

やれ天皇を殺す政府を転覆させると、平気で発言し僧侶を困らせたらしい。

秩父で発生した大規模な農民反乱に寺男が参加すると

寺はやむなく彼を解雇したのです。

それから男と家族は仏教ではない宗教を信仰するようになり

結局、その地域から出て行く破目になったと

そして大正の終わりに…その家で死者が出ました。

男の嫁でした。

お産のあと力尽きたのでした。

村人が男の家にお悔やみに集まったけど男は凄い剣幕で村人を追い払い

あろうことか嫁の遺体を田んぼに埋めたのだそうです。

それから男の家で死者が出ると決まって埋葬場所は田んぼだったようです。

数年後には男も亡くなりましたが残った息子も父親同様な人物で

やはり父親を田んぼに埋葬しました。

村人は気味悪がり、もう舟山に近付く人は居なくなりました。

そして時が過ぎ昭和となり戦争が勃発しました。

息子は徴兵年齢でしたが召集令状が来るや

ヒョイと逃げ出して姿をくらませました。

そして戦争が終わった頃にノコノコと姿を現しました。

村では何人も戦死者を出しており戦死者の遺族は

敗戦もあって処罰もされずノウノウとしている息子に面白くありません。

誰かが息子が通りがかった時に嫌みを言ったのが発端でした。

彼は父親譲りの荒い気性でしたから負けずに言い返したのです。

「神道なんぞ信じたテメエ等が馬鹿だろうよ!」

「天皇が何をしてくれた?アホな奴が死んだだけだ」

「これからは天助じゃねえ!マッカーサー様の時代よ!」

その日、舟山の屋敷が炎に包まれました。

焼け跡から息子の焼死体が発見されました。

駐在所は寝タバコだろうで終わりにしましたが

神主様のお爺さんは村人を集めると誰がやったかを聞きました。

村人の数人が名乗り出ました。

喧嘩になり殴り殺してしまったのだと…

「殺した思って火をかけたんじゃろが死んではおらんかったぞ」

凄まじい怨念を感じるのだとお爺さんは言ったそうです。

そして埋葬の方法を間違えてはならないと

殴られ昏倒し、気が付けば火炎に舐められ生きたまま焼かれる。

その苦痛と恐怖は想像できません…

全く神仏を信じてなかった彼に弔いは無駄だと

お爺さんは言って

怨霊を封じる措置を行ったのでした。

寺の庭に穴を掘り遺体を埋め、上に岩盤を重ね封印し

寺に続く石段を全て撤去させ、怨霊が山から降りるのを防いだのだと

そして夏祭りを盛大に行い怨霊を慰めたと

だが、今年は夏祭りは無かった。

だから引き寄せられたのだろう…

60年が過ぎて、まさかここまでの怨念を持っているとわ…

あの家族は怨みを持って帰って来たのだろう…

そういうと神主様は深く息を吐いたのでした。

子供だった美代ちゃんは、この話を知らず

たまたま旅行先で私達の行動を話した事で

私は難を逃れたのでした。

数日後、舟山の山頂に祭壇が作られ再び封印がなされました。

壊れていた石塔は再び建てられポンプで汲み上げられた何トンものコンクリートは

石塔を固めたのでした。

それ以降は私の霧がかかったような頭も治り

荒木君も正気を取り戻しました。

あれから10年が過ぎました。

高校を出た私は隣町に就職し引っ越しました。

入れ違いで家田君と家族が町に戻って来たと聞きましたが

あの奇声を思い出して会う勇気はありませんでした。

それから暫く過ぎた今年の夏、同窓会の通知がきました。

世間はコロナで自粛ムード一色ですが

久しぶりに美代ちゃんと会いたいと思った私は彼女に電話をしたのでした。

「駄目だよ麻琴ちゃん…」

「どうしたの?都合つかない?」

何とか会いたいと思った私は同窓会でなくても良いからと電話を続けました。

「あのね、麻琴ちゃん…」

彼女は言いました。

「今年は夏祭りしてないんだよ」

Concrete
コメント怖い
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17
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@林檎亭紅玉 さん
ありがとうございます。
田舎は訳の分からない物が多くて怖いです。

返信

小学生時代の冒険……と、思いきや……
キャラクターがそれぞれ立っていて面白かったです。ドラマを見ているような感覚でした。

返信

@rona さん
ありがとうございます
よろしくお願いします。

返信

@アンソニー さん
ありがとうございます。
よろしくお願いします。

返信
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ネタバレ注意
返信

怖い。マジで怖い。触らぬ神に祟りなしですね。

返信