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中編5
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私の住んでいる地域にある橋。

私は子供の頃、その橋の存在を知ってから

ずっと気になる事がありました。

1つは、かなり立派な橋でありながら対岸は山であり

橋を渡った途端、車一台がやっと通れる山道しか無いこと

もう1つは、橋のこちら側に廃車が不法投棄されていることでした…

不法投棄が問題視された頃でもありましたが

変わらず車はそのままで

本来なら観光客が車を停め、橋の上から景観を楽しむ為だろう目的で作られた駐車スペースには

ガラスは割れ車体は錆び朽ち果てた残骸が恨めしそうに睨んで居ます。

まぁ、対岸は山道しかなく地元の人間ですら滅多に使わない橋です。

そんな橋の駐車スペースが廃車に占拠されていようがいまいが

誰も気にしないのだろうな…と思っていました。

しかし例外も居るようで都会から越して来た人が警察に通報したそうです。

田舎の私達からしたら使い物にならない橋でしかありませんでしたが

都会の人からしたら非常に残念な光景だったのかも知れません…

その人が車の撤去を申し出た事は、すぐに町の話題となりました。

「都会者は、つまらん事に口を出しおる!」

私は警官だった祖父が吐き捨てるように言った言葉を今でも覚えています。

「ゴミの車が無くなるなら良いんじゃないの?」

と、子供なりに思いましたが祖父の機嫌が悪くなったので話すことはありませんでした。

結局、警察に通報するも

「持ち主が分からないので…」

「税金未納の車を廃棄には…」

「まぁ、善処します…」

と、ダラダラはぐらかされた様でした。

そこで諦めれば良かったのでしょうが…

その人は田舎に過度の期待を持って引っ越して来た方だった様でした。

区長に始まり市議会議員と町の有力者に陳情して回り始めました。

ですがこれも

「警察が対応すると言ってますし…」

の一点張りで誰一人良い返事をしなかったのでした。

喜ばれると思ってした事が疎ましがられる。

期待した田舎暮らしで張り切ったものの空回しとなり

周囲から孤立しだしたその人は、ついに強硬手段に出てしまいます。

その人は身銭を切って他県の解体業者を使い車を運び出してしまったのでした。

他県の業者に依頼した理由は地元の解体業者もやはり

異口同音にのらりくらりと逃げてしまったからです。

その後、何かの用事で橋を通った時

さっぱりとした駐車スペースを見た私は都会者の正しさを感じたのでした。

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それから十年ほど過ぎて私は地元の三流大学で自堕落な生活を送っていました。

その日は卒業した先輩方の送別会で私は破目をはずし

しこたま痛飲してしまったのでした。

さて、そろそろ帰る頃に私はあろうことか

お目当ての男子に車を出せとせがんだのです。

「◯◯君の車、乗りたいっなぁ♪」

今思えば浅はかを通りすぎてますが

当時の私は馬鹿でした…

彼もバイトで買った軽の四駆を誉められ満更でも無いようです。

「大丈夫だって!私、検問無い道知ってるからさぁ~」

馬鹿な私は元警官の孫である事も忘れて猫なで声で

彼の車に乗り込みました。

私達はお酒と真夜中のテンションのまま山道をどんどん進みました。

「あのさ、この道って橋行く道じゃね?」

彼は車を停めると私を見て聞いて来ました。

「そうだよ、山道回って帰ろうよ」

「いや、橋かぁ…」

彼は急に深刻な表情になり車のスピードが落ちるのを感じました。

ははぁん、オバケが怖いタイプか~

もちろん、出来る女を自称していた馬鹿な私は

男のプライドを折るような発言はしません。

「気分悪くなっちゃった?橋の前の駐車スペースで休む?」

我ながら完璧な受け応え、朝まで駐車スペースでイチャイチャする作戦ですよ。

「駐車スペースなんて無いよ…」

「いや、あるでしょ!?」

だが、彼は私に返事をしませんでした。

車が坂を降りきると川にかかった霧の中に灯火に照らされた橋がボウッと姿を見せたんです。

「ほら、あそこに…」

しかし車のライトが照らし出した先には白いセダンが姿を表したのでした。

私はイラつきながら間の悪い先客を睨み付けましたが

近付くにつれ、その白いセダンの異様さに気付いたのです。

車体は水垢にまみれ一部は緑色となり

あちこちに錆が浮いている。

タイヤの空気は4輪共抜け、昨日今日ではない

間違いなく長い年月を放置されている!

彼が駐車スペースは無いと言ったのは

こういう事だったのです…

「せっかく撤去したのに…」

ガタガタと音を立てながら車が橋を渡りきったあと

彼は私に言いました。

「あれ、撤去した人の車だぞ?」

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彼は山道から出た所の道の駅で知ってる全てを話してくれました。

彼の祖父は当時の市会議員で件の人物から投棄車の撤去を要請された一人だったらしい。

だが、撤去の要請は警察同様に聞くだけ聞いたと言うだけでした。

都会から来た人は、その時に気付くべきでした。

警察も市議会も…いや、この町全体が

あの車を動かしたくないと言う事に

今から30年ほど前、日本が好景気の最中だった頃

私の町に一大歓楽街を作る計画を市議会議員の一人が提案しました。

彼は議員はもちろん、地元商工会から役人や警察まで巻き込んで

強引に事を進ませました。

表向きは町の活性化だとかでしたが、内実は二束三文で雑木林を山主から無理やり買い上げ

歓楽街に進出したい業者に高額で売ると言う

地上げ屋紛いの銭稼ぎでした。

もちろん無理やり先祖伝来の山を奪われた人は酷い行いを訴えましたが

警察までグルの議員には勝てるはずもありません。

その旨味に町全体の有力者や権力が群がっていた訳です。

ついに県議会にも金をばら撒き予算をもらい立派な橋を作り上げました。

橋の向こうの山に重機が入り一大歓楽街がスタートするはずの所で

バブルは終了したのでした。

借金して山を買っていた人々の大半は破産しました。

中心だった議員も役人や警察、県議にバラ撒いた金

山の中腹に建築中だったパチンコ屋の資金が焦げ付き

ついにある日、橋から飛び降りてしまいました。

遺体は引き揚げられ、数日かからず駐車スペースにあった彼の車も片付けられたのですが

翌週には再び駐車スペースに車を停め破産者が投身したのでした。

これも翌日には片付けられましたが、その翌々日にもまた一人…

四人目で自動車屋が気味悪がり車の回収を拒否。

どっぷり議員の企みに漬かっていた役所や警察も

やはり気味が悪いのか

誰が指示したでもなく四台目で車は放置されてしまったのでした。

山を騙し盗られた山主の恨みだとか、議員がパチンコ屋を建築しようとした場所が

古戦場だったとかな噂も流れたらしいですが

役所から警察まで絡んでるとなると…

じきに誰も橋にも車にも言及する事はなくなったのでした。

その車に手を出した件の人は当然と言うか周りから人が離れてしまい

疎外感に耐えきれず自殺してしまったとの事です。

あれから数年、私はあの橋には行ってません。

今あの白いセダンはコンクリートで固められ

駐車スペース自体が無くなったのだと聞きます。

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@アンソニー さん
田舎は本当にヤバイ事は皆口を閉ざしてしまいます。

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