長編19
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ゆきおんな

バスの終点にその営業所はあった。

「この車を使って下さい…行き先はコレに書いてありますから…」

我が社の最北端に位置する薄汚れた営業所。

そこのたった1人の女子社員から車の鍵と地図を手渡される。

「今からですか…明日にした方が良いんじゃないですか?」

彼女は達磨ストーブにかけられてたヤカンを取ると

僕にお茶を出しながら呟くように言った。

窓から見える空は鉛色で、いつ雪が降ってもおかしくはない。

「そう言われましてもねぇ…」

僕はお茶に口もつけず苦笑いだけを浮かべた。

僕の名は奥 泰樹

ある企業の社員だ。

ま、そこそこ名前の通った企業だけど

僕には向かなかったようだ。

僕は会社から向かない仕事を押し付けられた。

向かないんだから出来る訳が無いと思う。

当然、出来ないんだが…そうなると青筋立てて怒鳴って来るからさ

医者から診断書もらって労基に出してやった。

チョロもんだ医者なんてさ。

最近眠れなくなって~と言えば鬱の診断書を出してくれる。

おかげで会社から給料もらいながら長々と休ませてもらえましたよ。

何事も行動力だな。

僕は自虐的な笑みを浮かべた。

で、そろそろ休業期間が過ぎるから

先日、会社に顔を出したわけ。

1日でも顔を出せば、また1年以上休める訳でさ

だが、上手くは行かないものだ。

総務から僕は研修に行けと言われたわけね。

面倒な話だが…

まぁ、旅費も会社持ちだし研修の内容が気に入らなかったら帰れば良いだけだしね。

また労基に苦情を言うだけさ。

「でわ、車まで案内しますね」

彼女が席を立った。

歳は25から後半ってとこかな?

顔は普通だったがスラリとした手足と長い髪

制服の上からでも分かる大きな胸元を僕は何時までも眺めていたい気分だったが

時間的にそうも行かないようだ。

研修所は此所から車を走らせても1時間近くはゆうにかかる。

不案内な道だ2時間はかかるかも知れない。

時刻は4時を回っている…夕方になれば冬の山間部は

あっと言うまに真っ暗だろう。

こんな山奥で迷うとか冗談じゃない…

用意されていた車は大昔のアルトだった…

車体にアチコチ錆が浮き、白い車体の艶はとうに飛んでガサガサだった、

前世紀どころか昭和の車が社用車とか物持ちが良いなんてレベルじゃない。

「あの…僕はミッション運転出来ないんですが…」

彼女は困りましたねとだけ言うと営業所に戻り

何処かへ電話をかけていた。

「まぁ、今日は私が送りますから…」

しばらくして、営業所の戸締まりを済ませた彼女はアルトの運転席に座った。

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車は、どんどん山道へ入って行く。

僕は彼女がクラッチ操作をする度に開く太股を凝視していた。

脚を開く度に黒いストッキングが覗ける。

道が悪くなり車体の揺れが大きくなると狭い車内に隣あって座った僕の足に彼女の更に露となった太股が当りそうだ。

ミッション車も良いものだな…

「あの…お姉さんも問題起こして…な人?」

当然話す事も無い関係なのだが退屈を感じた僕は

彼女に話しかけた。

彼女は一瞬チラリと此方を見て

「そう見えますか…?」

とだけ言うと再び前を見た。

周りが暗くなると彼女の脚も見えなくなり

僕は視線を周囲の景色に切り替えた。

葉の落ちた木々が並ぶ冬の寒々とした風景。

それらが闇に侵食されて行く様に僕は不安を覚えた。

こんな道を1人で帰らなきゃならない彼女に

申し訳なく思う。

「なんか、怖いですね」

「大丈夫ですよ、今朝も掃除に行きましたから」

彼女は事も無げに道には迷わないと言う。

そういう話じゃないんだが…

「もう、着きますよ」

笹藪を抜けると旧いコンクリートの建物が現れた。

「ここが研修所になります。」

「他の人は…?」

駐車場に車は一台見当たらない

建物は非常灯以外は点いておらず、人の気配は無かった。

「さあ?私は研修内容までは知らされておりませんので…」

40年以上、もしくはそれ以上は経っているだろう

錆びと汚れで荒廃した研修所の扉を彼女は解錠しながら言う。

金属を擦らせる音を薄暗い山に響かせ扉は解放された。

誰も居ないとか冗談じゃない!

さっきまで1人寂しく帰るお姉さんを気の毒と思っていた自分が恨めしい。

「じゃ、私はこれで…」

お姉さんは車に乗り込んだ。

「無理無理!お姉さんも泊まってよ!」

山奥で無人の建物に1人とか冗談じゃない。

「いや、無理ですよ…」

まぁ、普通の反応だろう…

「夕食とかどーするんですか!?」

「私が作るんですか?…冷蔵庫に冷凍食品とかありますから」

研修の内容は本社に聞いてくれとだけ言うと

お姉さんは行ってしまった。

彼女が去って30分もせず外は真っ暗になった。

だが、電気を点けると気持ちに余裕が出るもので

僕はあちこち家捜しを始めた。

建物は二階建てで田舎の分校くらいの大きさはあった。

一階は簡単な事務室と食堂。

食堂の冷蔵庫から僕はペットボトルのお茶と冷凍食品をいただいた。

あとは風呂と便所に洗濯機があり

風呂のボイラーは電気で湯が炊けるタイプだった。

二階には研修室があり机がズラリと並んでいる。

奥には仮眠室と便所があった。

便所が2階にあるのはありがたいな。

僕は荷物を置くために仮眠室の扉を開けた。

「うはっ…」

仮眠室の壁にはアイドルの水着やAV女優のヌードポスターが一面に貼られていた。

テレビとDVDがあり本棚には過去にあった研修資料と混ざって

エロDVDやエロ漫画が何冊もあった。

以前の受講者が置いて行った物だろうが…

だとしても会社の施設だ。

普通なら処分されそうなものだが…?

それくらいお目こぼしをしなければならない位

寂しい研修所なのかも知れない。

僕は荷物を置くと一階に戻り風呂を沸かした。

風呂を沸かしている間に研修の資料を読んだが

日にちが間違っている訳ではない。

僕は試しに本社へ電話をしてみた。

「あぁ…着きましたか?」

まだ定時前だった事もあり総務に電話が繋がった。

「僕以外は誰も居ないみたいなんですが…」

「えぇ、明日からの研修になります。」

総務の奴は、何か問題でも?

とでも言うような風に言いやがる。

僕は夕食が無い事などを総務に話した。

「おかしいですね?そちらの営業所の人が用意してるはずですが?」

そりゃ入ってたが冷凍食品で何とかしろってのか?

「まぁ、車ももらってますよね?」

気に入らないなら食べに行けと言いたいらしい

コイツ、絶対に此処へ来た事が無いだろ…

営業所から研修所へ来るまで自販機一台無かったんだが?

そもそも、車はマニュアルに乗れなかったが為に

此処には無い…

「車は…っ!」

そう叫んだ瞬間、携帯が切れた。

圏外です…

画面に表示された文字を見て僕は唖然とした。

「なんだよ!なんだよコレ!?」

僕は風呂に浸かりながら溜め息を吐いた。

研修に行けと言われ着いたら誰も居ないとかあるか?

風呂の窓から外を見るが灯りの届く1メートルより先は

墨汁で塗り潰したように先は見えない。

その夜、以前の受講者の置き土産で僕は寂しさをまぎらわせた。

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「な、なんだよ!なんなんだよ!!」

朝、研修所の周りは一面の霧だった。

外に出てみたが、1メートルも先が見えない。

これでは、黒か白ってだけで夜中と何ら変わらない状況だ。

電話が鳴る音が響き僕はビクリと体をこわばらせた。

携帯ではない

携帯は相変わらず圏外のままだ…

音は研修所から鳴っていた。

事務室に入ると僕は受話器を取った。

「あぁ、良かった…携帯繋がりませんでしたので…」

電話の主は昨日の営業所のお姉さんだった。

「今、連絡がありまして…講師の方、霧で断念されたらしいです」

断念!?って事は中止か?

「じゃ、迎えに来てくれるんですね!?」

「すぐには無理ですねぇ…」

確かに講師が断念した霧の中を彼女に迎えに来いってのは無理な話だった…

だが、ここら辺のイントネーションと言うのか

彼女の感情を抑えた話し方に同情が無いように感じられ

僕を苛立たせる。

「無理って!僕はどうすれば良いんですか!?」

「そうですね…」

天然ってヤツか、それとも地域性なのか

彼女は激昂した僕に「どうすれば良いのか」のアドバイスを始めた。

「建物からなるべく出ないで下さい…戻れなくなりますから…」

確かに…もう少し彼女の電話が遅ければ

フラフラと出歩いた結果、建物を見失ったかも知れない。

そう思わせるほどに霧は深かった。

「いつ…来れますかね?」

「お天気次第となりますねぇ…」

彼女の話では僕と他の受講生、講師の分まで食料品はあるので

1人なら一週間は食べられるらしい。

霧が一週間も続くとか聞いた事は無い。

その他の設備は自由に使って下さい。

との事だった。

特にやる事も無いまま僕は霧が晴れるのを待ったが

そのまま辺りは薄暗くなって行った。

夜間は野生動物(熊)が出るかも知れないので出歩くなとも言われてはいる。

どの道、出歩ける状態でもない。

僕は雑誌やエロ漫画で暇を潰した。

2日目の朝

外は牛乳でも溢したような風景のままだった。

僕は適当に食事を取りテレビを着けたが

テレビの電波の調子は悪いみたいだ。

直す知識は無いし、道具だって期待できない。

お手上げだな…テレビは諦めた。

その日の昼前までに本棚のエロ漫画は、だいたい読み尽くしてしまった。

「なんだこれ?」

何か無いかと探すうちに資料の隙間にノートが一冊放置されているのを見つけた。

ノートは言わば落書き帳だった。

テンションの上がった文がやたら並ぶ

本来なら一瞥して本棚に戻す下らなさだったが

2日目にして僕は、それすら読み漁るほど暇を持て余してしまっていた。

日記の様な体裁だったが後半にもなると

あの女、マジ巨乳!

激しく!あの女とやりたい!

等の猥褻な文章が書き殴られだす。

あの女…

最後のページは破り取られていた。

「あの女…ねぇ?」

意図的に破られたのかは分からないが

あの女とは営業所の彼女だろうか…

多分そうだろう。

アイドルや女優ってほどの容姿ではない。

コンビニでスレ違ったって目で追うほどじゃない。

だが、僕も彼女を考えない日は無い…

外界から隔絶された世界で最後に見た若い女性ともなれば…だ。

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3日目

霧はまだ晴れない。

相変わらず窓の外の風景は白一色だ。

僕は営業所に電話を入れた。

電話機なんだが奇妙な形をしており、まずダイヤルが無い…

受話器を取り横に付いているハンドルを回して下さいと書かれたシールが貼られていた。

「はい、今日も駄目なようですね…」

彼女は事務的に答えるだけ。

「もう、退屈しちゃったよぉ…」

僕は話し相手欲しさにフレンドリーに彼女に接した。

「…テレビがあるじゃないですか…忙しいのでこれで」

ガチャリと切られる無情の瞬間。

僕の耳は「フフッ」と彼女が小さく笑う声が聞こえた。

僕には、その笑いの意味がすぐに分かった。

彼女は研修所の食料手配や掃除も仕事にしている。

つまり、テレビは仮眠室にしか無い事も

室内の惨状も知ってるわけだ。

壁中に貼られたポスター

本棚に溢れたエロ漫画とDVD

見てるんだろ?って意味の笑いな訳だ。

こんな山奥の研修所に監査なんて入らない。

彼女は仮眠室に残されたエログッズを捨てもせず

エロ部屋を維持し続け、時折来る僕みたいのを通しては

淫らな笑みを浮かべているのだ。

夕方、事務所の電話が鳴った。

彼女だった。

「明後日には霧は晴れるみたいですよ…」

相変わらず事務的。

仏頂面が受話器の向こうから見えるようだ。

「それと…朝はあんな切り方をしてすみませんでした…」

明後日には僕が帰ると決まり

本社の総務にあれこれ言われたくは無いって事だろう…

仮眠室がエロ部屋だったとか言われたくはあるまい。

「怒ってなんていませんよ!」

僕は笑いながら言った。

「でも、まぁ悪いって思ったならお姉さんの名前を聞きたいなぁ」

「…樋口美里と申します…」

「オッケー!じゃ、明後日は楽しみに待ってるよ!美里ちゃん!」

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四日目

彼女の予報を裏切り快晴だ。

あの鬱陶しい霧は微塵も無い。

僕は清々しい気分で紅葉を過ぎた山々を見た。

彼女は明日迎えに行くと言ったが、この快晴なら前倒しで今日来るだろう…

僕は身支度を済ませ彼女が来るのを待った。

あのエロ部屋に彼女を連れて行き事の次第を聞く

そして口外しない条件として

彼女と色んな関係を結ぼうと、昨夜エロDVDを見ながら

そんな妄想に浸っていた訳だ。

「まぁ、出来るわけないか…」

車が上がって来る音が聞こえる。

さらば忌々しい研修所!

だが来たのは食品会社のトラックだった。

「いやぁ、宴会でもしますので?」

初老の運転手が額の汗を拭いながら荷箱の扉を開ける。

食堂に段ボール箱に入った冷凍食品と飲料水が大量に運び込まれた。

聞くと定期的な納品だと言う…

量がやたらと多い以外は…

確かに1人だけなら1年以上は食いつなげれそうだ。

久々に人と会えた事もあり、僕は運転手に話しかけた。

「お疲れ様でしたね…」

「いえいえ、大変贔屓にしていただいております…」

出入り業者の悲しさだねぇ。

父親ほど歳が離れた運転手が敬語で話してくる姿に

僕は憐憫とも嘲りともつかない気持ちになった。

ま、ろくに働いてもいない会社の名前で優位に立った気分になっている訳じゃないが…

自分の現状に苦笑しつつ暫し彼と歓談する。

「だけど多いよなぁ…岬ちゃん間違ってなきゃ良いけど…」

運転手は、たたんだ段ボール箱の山を見ながら

不安げに言った。

「岬ちゃん…?美里ちゃんじゃないんですか?」

「いえ、岬ちゃんですよ…」

運転手は不思議そうな顔で僕を見た。

運転手は帰り際に何度も乗って行かなくて良いのか?

と、聞いたが…

僕は美里ちゃんだか岬ちゃんが来るのを待った。

トラックが走り去る姿に不安を感じながら僕は研修所に戻り

仮眠室でヌードポスターに囲まれる。

「お帰りなさい」

彼女等が笑顔で僕を出迎えた様な気がする。

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電話が鳴った。

待ちくたびれ寝てしまったようだ…

僕は一階に駆け降り電話に飛び付いた。

美里ちゃん…だった。

「トラックの人と帰らなかったんですか…?」

「あぁ、美里ちゃんにまた会いたかったしね」

「あの…大変申しにくいのですが…」

「どうしたの?」

「外…見えてますか?」

事務室の窓を開けると…外は一面の銀世界だった。

「雪だ…」

雪は昼過ぎからいきなり降りだしたそうだ。

既に吹雪いて来ており、開いた窓ガラスをガタガタと叩きだす。

つまり、僕はトラックに乗らなかった事で年内に帰る術を失ったのだった。

「信じられない!マジかよっ!」

僕は思わず窓を叩いた。

「食料だけは幸いでした…」

「幸いじゃないよ!」

「どうすりゃ良いんだよ!なんで美里ちゃんは今日来なかったんだよ!」

「明日の予定でしたので…お休みをいただいてました…」

僕は膝をついた。

「もう、来年まで降りられないのか…?」

「お気の毒ですが…」

「どうすんだよ!テレビも携帯も駄目でさ!」

「アンタが用意してくれたエロ漫画もDVDも見尽くしたしな!」

電話の向こうで彼女の息が止まったのを感じた。

暫くの沈黙のあと

「私は知りませんよ…受講者の方達が置いて行っただけです」

明らかに動揺しているみたいだ。

「勝手に処分とか…出来ませんから…」

「じゃポスターは?」

会社の施設にエロポスターは貼る方がおかしい。

剥がされたとしても文句は言えないだろう。

「落書き避けですよ…消すの大変なんで!」

彼女はイラついてる様だ。

「とにかく、本社に連絡して指示を仰ぎます!」

「本社なら自分で連絡しますよ!」

「その電話機でですか?」

そう、電話機にはダイヤルが無い。

前回は携帯でかけたんだった…

あれ以来、携帯は圏外のままだ…

電話機は大昔の物を連絡用に利用しているだけで

糸電話の様に営業所と繋がるのみなのだと

彼女は言った。

「くれぐれも建物から離れないで下さいね!」

そう言って彼女は電話を切った…

離れるなと言われても…まだ、雪は降り出したばかりだ。

下山を強行したなら麓まで行けるんじゃないのか?

僕は玄関を開け外に飛び出した。

先程まで紅葉の終わりを見せていた山々は

真っ白に変わり、蒼い風が轟々と吹き僕を瞬く間に凍えさせた。

積雪は、既に足首を越えている…

底に滑り止めの無い革靴、背広に薄手のコートでは

数キロも歩けず行き倒れとなるだろう…

何か防寒になる服は無いのか…!?

既に仮眠室はエログッズが無いか調べ尽くしている。

事務室のロッカーにはペラペラの合羽があった。

少しは役に立つかもだ…

ゴム長靴はありがたい!

事務室の机を漁ると軍手が出てきた!

三段の引き出しを下から開けると使い捨てカイロを発見だ。

これは行けるんじゃないのか!?

少しは希望が出てきた。

二段目の扉を開けた瞬間、僕の手は止まった…

それは1枚の写真だった。

写っているのは間違いなく美里だ。

彼女が研修所の前で立っている写真なのだが

彼女はバスタオルを1枚身体に巻いた姿で微笑んでいる…!

shake

wallpaper:5321

間違いなくタオルの下は裸だろう…

情事の後と考えて間違えは無い。

裏に何か書いてあるようだ。

①~⑩

写真裏には、こう書かれていた。

多分、写真は10枚ある。

この写真は、そのうちの1枚目なのだろう…

上段の引き出しには何も入ってはいなかった。

鉛筆だけだ。

だが、あと9枚…何処かにあるはずだ。

僕は2階にあがると研修室の机を一つ残らず調べたが何も無かった。

諦めかけた僕の目に壁に掛けられた賞状の額が目に入った。

額を下ろし裏蓋を外すと

①~⑩

剥がして表を見る。

「マジかよ…!」

僕はゴクリと喉を鳴らした。

美里は近くに小川があるのか、そこにビキニ姿で立っていたからだ。

乳房も股間もかろうじて隠れる程度の黒い布。

僕は時間を忘れて写真を見続けた。

その後、他の額も下ろしたが他は外れだった。

①と③の写真。

間違いなく、あと8枚が隠されているはずだ…

外の電気室はどうだろう?

窓から電気室を見た僕は陽がとっくに沈んでいる事に気が付いた。

その夜、美里から電話がかかって来た。

本社からの指示は建物から出ないこと

帰れない間の日数は給与として支払われる…

とか、そんな話だった。

「頑張って下さいね…」

彼女は責任を感じているのか申し訳なさそうに言う。

「えぇ頑張れますよ!美里さんのセクシー写真探して!」

「…はい?」

「見付けるとなしに見付けちゃったんですよ…」

「何をですか?」

「アナタの水着写真ですよ」

暫くの沈黙のあと僕は続けた。

「凄い趣味ですよね、会社の施設にこんな写真を隠すなんて」

「あと8枚あるんですかね…?」

「楽しんでもらえましたか?」

観念したのか彼女はクスクスと笑いながら聞いてきた。

「えぇ、最高ですよ。」

「なら、もう1枚プレゼントしますね…」

冷凍庫の一番下の開きの天井。

彼女が言った通り、さっき運転手が冷凍食品を放り込んだ開きの上に

茶封筒が貼り付けられていた。

①~⑩

見覚えのある布団の上で彼女が下着姿で横になっている…

間違いなく仮眠室だった…。

separator

多分、40日目…

僕は朝食を簡単に済ませると服を着て外に出た。

雪は腰の辺りまで積もっている。

昨日、物置小屋まで幾らかでも除雪しといて正解だった。

僕は小屋の探索に向かった。

あれから僕は、ただひたすら彼女の写真を探し続けた。

だが、調子よく見付かったのは初日だけで

あれから30日以上かけて見付けたのは二枚だけだった

見付けた写真は②と⑦…

②は電気室で早くに見付かった。

水着の後ろ姿だったが、尻が半分見える様な水着に

僕は堪らず彼女に電話した。

そして、ようやく先日になって⑦が発見された。

物置小屋で投げ出された社史を記した本に挟まれた形で…

写真は研修室に掲げられた社旗の前でガーターベルトとストッキングだけの彼女が立っている写真だった。

今までと違い明らかに過激になっていると分かる。

たわわな乳房に黒々とした陰毛…

「見付けたんですか…」

全裸の写真を見られたと言うのに彼女は淡々としていた。

「どうして、こんな写真隠したんですか…?」

見つかれば懲戒免職物だ。

彼女の様な大人しい女が何故…?

散々、写真で抜いといて言うのも何なんだが…

風俗へ行ったオッサンが一発抜いた後に

嬢に説教するってのと変わらないよな。

「田舎はね…退屈なんですよ…」

彼女が遠い目をした…んだろうと感じた。

「このまま、こんな感じで暮らしていくのかな…って」

僕は下半身を弄りながら彼女の話を聞いていた。

女の全裸写真を眺めながら本人の声をBGMにするオナニーは最高だった。

「全部見付けて私に渡してね…」

「え…渡すって…」

それまでの話を聞き流していた僕は写真を返せと言う彼女の言葉に驚いた。

せっかく苦労して集めても回収されてしまうのかよ…

「プレゼントなんじゃ…」

「楽しみだね…!」

彼女の声が少女の様に弾んだ。

「楽しみって…」

「抱いてくれるんでしょ?」

僕は思わず姿勢を正した。

「全部集めたらセックスしようね!」

separator

多分、5十日後

年を越したんだろうと思っているが

2人の会話にはセックスの話しか存在しない。

僕の日常は写真の捜索と美里とのテレフォンセックスに費やされた。

写真⑩は社旗の裏側にあった。

社旗の前で美里は、しゃがむと

下着を脱ぎ捨てた下半身を開く…

早く山から降りたい降りて美里を抱きたい!

「あと何枚だっけ?」

美里の問いに僕は写真を事務室の机に並べた。

①②③⑤⑦⑧⑩

あと④⑥⑨

⑧燃料貯蔵庫の梁に隠されていた。

写真は制服に身を包んだ彼女で⑦の全裸を見ていた僕は拍子抜けした。

「なぁ?この写真、誰に写してもらったんだよ」

女に前の男の話をするのはダブーだが

1枚、また1枚と見付かる内に僕は自分に嫉妬の火がついたのを感じていた。

「自撮りだから…信用して」

僕はセックスだけでなくヌード撮影まで彼女に要求したのだった。

さて、あと三枚だ。

あと三枚を見付けて彼女を抱く…

だが、何処だ?

もう、ほとんど調べ尽くした。

何処かに埋めたとかだったら、おしまいだ…

あと三枚…僕は社旗の前で身体を晒す彼女の写真を見ながら…

分かった!あそこだ!

あそこしかない!

何で今まで気付かなかった!?

僕は事務室を飛び出すと仮眠室に飛び込みポスターを引き剥がした。

写真⑨は⑧の続き制服姿の⑧と寸分変わらない姿勢と位置で

美里は一糸纏わぬ姿で立っていた。

⑥は営業所だろう部屋でスカートを腰まであげて

下着を晒し

④は研修所をバックに全裸を晒していた。

やった!コンプリートだ!

僕は美里に電話をかけた。

「見付かったよ!美里ちゃん!」

「そう…ザッザザッ…私ザッザザッ…しみ…」

電話は切れてしまった。

外を見ると猛烈な吹雪が研修所を襲っている。

まさか、電話線が切れたんじゃ…?

バッン!

と、電気が消える…ブレーカーが落ちたのか?

だが、夜間に外へ出る訳にも行かない。

僕は懐中電灯代わりにしかならなくなった携帯を握り

仮眠室へ戻った。

ライトの灯りにポスターが剥がされた壁がうつる。

さっきは興奮のあまり気が付きもしなかったが

落書きが見えた。

何が書いてあるのか…?

たすけて おれは かんきん されてる

ハハッ大袈裟な奴だな…

僕はライトで美里の裸体を拝みながら、そのまま寝てしまった。

夜中にギリギリと鉄が擦れる音に僕は起こされた。

何かが軋む音…?

いや、玄関が開く音だ。

耳を澄ませると間違いなく誰かの足音が聞こえる…

救助隊とは思えない。

会社は雪が溶けたら勝手に下山しろだったはず。

仮に救助隊だったとしたら彼女が電話で知らせてくるはずだ。

登山の遭難者だろうか…?

僕はソッと仮眠室の扉を開け階下を覗き込む。

だが、階下にライトの灯りは無い。

熊か…僕は静に扉を閉めた。

「奥さーん」

階下から声が聞こえた。

「奥 泰樹さーん…」

美里だ。

救助隊が来たのか!?

だが仮眠室の窓から外を見ても、ただ暗闇が果てしなく続いているだけだ…

ギィ…ギィ…

階段を上がって来た。

「泰樹さん、セックス…」

扉の前にいる…

「美里…ちゃん…どうやって来たの?」

「私、凄く楽しみにしてたんだよ!早くしようよ…」

「どうやって!来たんだよ!?」

雪は腰まであるんだ。

ヘリコプターでも使わなきゃ…

いや、真夜中だぞ…

「開けて…開けて…欲しいなぁ…」

彼女は扉を叩き出す。

「なんで?レイプしたい位、私のこと好きになってたんだよね?」

「だから、、どうやって来たんだよ!お前わ!?」

「美里ちゃんは魔法少女なのでした」

「ふざけるなぁあぁ!」

僕は扉を力一杯開け美里を跳ね飛ばした。

が、なんの感触も無かった。

隣の研修室のガラスは全て割れておりボロボロの社旗が

強風に煽られはためいている。

その向こうに彼女は居た…

何一つ身に付けていない全裸の姿で!

僕は一階に駆け降りた。

食堂も事務所も荒れ果て何十年と放置されていたのだと感じる。

とにかく逃げなければ…

玄関の扉を開け…開かない…

扉の前は雪で埋まって…

あれは美里ちゃんじゃない!

美里ちゃんじゃない!

僕は事務室に入ると、電話の受話器を取った。

出てくれ美里ちゃん!

助けを呼んでくれ!!

「私は此処だよ…」

すぐ後ろで声が聞こえる…

「暖めて欲しいなぁ…」

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事故報告

先日、社員である奥泰樹が山中で遺体で発見された件。

新設された研修所ではなく、旧研修所へ誤って向かい結果的に遭難した物と思われる。

死因(餓死)

旧営業所までバスで行った事は足取りが分かっているが

現在、物置となっている旧営業所から

どうやって旧研修所まで行ったのかは不明。

(距離40キロ)

不可解な点として行方不明から数日後に

食品納入会社のトラックが食品を運び込む様

営業所の女性社員からの注文を受けて旧研修所に運んでいる。

(女性社員は当日、年休取得)

運転手は建物の状況から間違えだと判断し帰っているが

その時に奥泰樹と会っている。

運転手は彼に乗るように言ったが放心したように反応が無く

運転手が下山後に営業所へ連絡をして発覚。

すぐに迎えを手配したが急に降り出した雪により阻まれ。

結果的に救助が出来なかったものである。

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