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私が小学生の時の話です。
たぶん、小学3年生くらい。
同じクラスに、M君と言う男の子がいました。彼は、クラスに馴染めずに友達もいませんでした。
しかし、彼は何らかのきっかけで、
急に怒り出し、机やイスを蹴り飛ばしながら、ハサミを振り回すと言う、少し異常な面を持っていました。
それは、クラス中を怖がらせていました。
彼が暴れている、そんな時に限って担任はいないんですよね。
誰かが「先生、呼んでくるっ!」と言って、先生が来た時には、もう落ち着いてますから。
なので担任は、彼が暴れてる場面を1度も見ていないんです。
タイミングが良いのか、悪いのか。
女の子達が、いくら担任に訴えても、
あまり素知らぬ感じでした。
今になって考えると、当時の担任は、
かなり頼りない若い女の先生だったなぁと。
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ある日、M君が校庭の隅にしゃがんでいるのを見ました。
何してんのかなぁ、、、
その時は、あまり気にしませんでした。
しかも、うかつに声を掛けて、また暴れ出されたら怖いですし。
それから数日経ったある日、
M君が、また校庭の隅にしゃがんでいるのを見ました。
また、あそこにおるわ、、、
その時も、あまり気にも留めませんでした。
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それから、幾日経っても、幾日経っても、
M君が校庭の隅にしゃがんでいるのが、
目に入ります。
私はとうとう気になり、M君に近づきました。M君はしゃがんで地面を凝視しているようでした。
「あの、、、M君、、、」
M君が振り向きました。黙ったままです。
「あ、あの、いつもM君が、
校庭の隅っこの場所でしゃがんどるし、
何してんのかな、って思って、、、な、」
そうするとM君は黙り込み、
しばらくして、指を指しました。
そこには、蟻の行列ができていました。
「あ!M君、蟻の行列見とったん?」
何だかホッとしました。
「ほんなら私、みんなのとこ行くし。じゃあね、」
そういって走り出そうとした時に、
右手をグッと掴まれました。
( え、ヤバイんやない? )
そーっとM君を見ると、M君は笑顔でした。
良かったぁ、、、と、思いました。
M君は、1匹の蟻を指に摘んでいました。
そして、口に入れました。
( えっ?食べたん?)
初めて、M君が喋りました。
「蟻のお尻、甘いから美味しいんや。
食べてみ?」
ニヤっと笑った前歯には、黒い物が沢山、
挟まっていました。
そして、よく見ると、
M君の口の中には、黒いウヨウヨとしたものが、所狭しと入っており、
そして、それらは全部、蟻でした。
まだ動いている蟻もいて、口の隙間から這い出して来ている蟻もいます。
蟻の身体の一部だと思われる、
黒くて小さな物や、
噛んで潰れた蟻から出たのか、黒っぽいような変な液体も、口の周りにベタベタくっ付いていました。
そうして、
蟻の行列から1匹つまみ出すと、私に差し出して来ました。
私は、気持ち悪くて、
「私は良いわ、
早くみんなのとこ、行かんなんし。
それ、M君が食べてや」
そう言って立ち去ろうとすると、
今後は、かなり強く右手を掴まれ、
そうしてM君が、蟻だらけの口で嬉しそうに、
「早く、食べてみ?」
と、もはや私にしたら、蟻としか思えないM君の顔が迫ってきて、私の口に蟻を近づけました。
蟻の足が、うじゃうじゃ動いています。
( こんなん、無理やわ、、、)
しかし、蟻は私の口の中に運ばれました。
M君の手によって。
「なっ?美味しいやろ!甘いやろ?」
M君は、かなり興奮していました。
私は涙目で走り出し、すぐに口の中の物を吐き出しました。
私の口から出て来た蟻は、私の吐瀉物の中で、藻掻いています。
それを見て更に嗚咽がし、その後も何度も吐きました。
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ある日の給食の時間、
クラスのイジメっ子的な存在の男子が、
2、3人、M君の机の前に立っていました。
菓子箱を持っています。
しかし、蓋の隙間にはガムテープが何重にも貼られています。
M君は給食を食べていました。
イジメっ子の中のボスである男の子が、
笑いながら言いました。
「なぁ、M、腹減っとるんやろ?
お前の大好物、持って来てやったぞ 」
そう言うと、菓子箱のガムテープを一気に剥がし、中身をM君の給食の上にぶちまけました。
それは、恐ろしく大量の蟻でした。
「嬉しいやろ?早く食えよ、ほら、」
と大笑いました。
私は、M君が蟻を食べてた事を、
彼らに告げ口したと思われてたらどうしようと、内心ドキドキしていました。
「オレ、この前見たんや、
Mが、蟻を美味しそうに食べとるとこ。
だからプレゼントしようと思ってな」
その男の子達からは、
「た・べ・ろ! た・べ・ろ!」
と、はやし立てるように、
『たべろ』コールが始まりました。
女の子達が、
「やめなよ!
可哀想やん、先生呼んでくるしね!」
またもやその日、出張か何かで担任はいませんでした。
静まり帰った教室の中で、『たべろ』コールだけが、聞こえていました。
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しばらくして、
黙ったまま俯いてたM君が、顔を上げました。
蟻はそこら中に、ウヨウヨと動いています。
するとM君は、ニタァと笑うと、
動いている大量の蟻達を手で集め、給食のお皿に入れました。何度も何度も。
もはや、お皿は蟻で溢れています。
そして、スプーンで何度も何度も、お皿の中の蟻を潰しながら、美味しそうに食べ出しました。
異様な光景でした。
からかってた男の子も、身動き一つ出来ずに黙って見つめていました。
蟻のお皿を平らげて、
まだその辺をウロウロしている蟻を、
一つ、また一つ、摘んでは口に運びながら、
M君は彼らに言いました。
「ありがとう、
今日、夕飯食べれんくらい、お腹一杯や」
そして、またニタァと笑いました。
からかっていた男の子達は、恐怖で顔が引きつっていました。
「や、ヤバいって、、、
こいつ、おかしいんやない?」
そして、逃げ出そうとしましたが、
丁度そこに、隣りのクラスの担任が来ました。
女の子達が呼びに行ったんでしょう。
「おい、どうしたー」
「あ、あいつが、、、
オレら、からかっただけなのに、、、」
M君の方を指先しました。
「M、大丈夫かー」
先生が声をかけながら、近づいて行きました。
そしてその時に、机から落ちた蟻達が集まっている所を、先生は気づかずに踏みました。
その瞬間、M君は叫び出し、いつの間にか手にはハサミを持っていました。
キャーッと言う、誰かの声を皮切りに、
教室内は大パニックとなりました。
「おい、M、落ち着け、」
先生が必死に説得しますが、ハサミの標的は先生でした。
「おい、他の先生呼んでこい!」
そう言って、先生は抵抗していました。
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それから暫くして、男の先生3人がかりで、
M君は取り押さえられました。
そして、保健室へと運ばれて行きました。
その先生は、
「前にもこんな事があったのか!?」
と、半分キレながら言いました。
女の子達は泣いています。
私が言いました。
「はい。
でも、担任の先生は知らないんです。
たまたまなのか、M君が暴れている所を見た事が無いんです。
みんな、担任の先生に、必死で言いましたが、無視されました。」
そうか、、、
とだけ言い、その先生は教室を後にしました。
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それから1週間後、私達の担任の先生は、
結婚すると言う理由で、学校を辞めました。
以前からも保護者から、抗議の電話が頻繁にかかって来てたそうです。
そして、その出来事の後も、M君は同じクラスにいました。相変わらず、誰とも馴染めずに友達もいません。
しかし、クラス全体が暗黙の内に、
M君を刺激しないようにしていました。
それからは、暴れる回数も少しは減ったような気がします。
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4年生になり、M君とは違うクラスになりました。
他のクラスの友達からも、あまりM君の話は耳にしませんでした。
M君の家は、
裕福では無い事は知っていたのですが、
給食をすごい勢いで食べていたり、
友達の残した給食まで、貰って食べていたので、家では碌に、ご飯を食べる事が出来なかったのでしょうか。
小さい弟も居たそうですから。
あぁ、そうか、、、
当時の彼にとっては、蟻がご馳走だったんだなぁと、
今頃になって、私は気付きました。
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