中編6
  • 表示切替
  • 使い方

蟻の行列

wallpaper:1063

私が小学生の時の話です。

たぶん、小学3年生くらい。

同じクラスに、M君と言う男の子がいました。彼は、クラスに馴染めずに友達もいませんでした。

しかし、彼は何らかのきっかけで、

急に怒り出し、机やイスを蹴り飛ばしながら、ハサミを振り回すと言う、少し異常な面を持っていました。

それは、クラス中を怖がらせていました。

彼が暴れている、そんな時に限って担任はいないんですよね。

誰かが「先生、呼んでくるっ!」と言って、先生が来た時には、もう落ち着いてますから。

なので担任は、彼が暴れてる場面を1度も見ていないんです。

タイミングが良いのか、悪いのか。

女の子達が、いくら担任に訴えても、

あまり素知らぬ感じでした。

今になって考えると、当時の担任は、

かなり頼りない若い女の先生だったなぁと。

separator

ある日、M君が校庭の隅にしゃがんでいるのを見ました。

何してんのかなぁ、、、

その時は、あまり気にしませんでした。

しかも、うかつに声を掛けて、また暴れ出されたら怖いですし。

それから数日経ったある日、

M君が、また校庭の隅にしゃがんでいるのを見ました。

また、あそこにおるわ、、、

その時も、あまり気にも留めませんでした。

separator

それから、幾日経っても、幾日経っても、

M君が校庭の隅にしゃがんでいるのが、

目に入ります。

私はとうとう気になり、M君に近づきました。M君はしゃがんで地面を凝視しているようでした。

「あの、、、M君、、、」

M君が振り向きました。黙ったままです。

「あ、あの、いつもM君が、

校庭の隅っこの場所でしゃがんどるし、

何してんのかな、って思って、、、な、」

そうするとM君は黙り込み、

しばらくして、指を指しました。

そこには、蟻の行列ができていました。

「あ!M君、蟻の行列見とったん?」

何だかホッとしました。

「ほんなら私、みんなのとこ行くし。じゃあね、」

そういって走り出そうとした時に、

右手をグッと掴まれました。

( え、ヤバイんやない? )

そーっとM君を見ると、M君は笑顔でした。

良かったぁ、、、と、思いました。

M君は、1匹の蟻を指に摘んでいました。

そして、口に入れました。

( えっ?食べたん?)

初めて、M君が喋りました。

「蟻のお尻、甘いから美味しいんや。

食べてみ?」

ニヤっと笑った前歯には、黒い物が沢山、

挟まっていました。

そして、よく見ると、

M君の口の中には、黒いウヨウヨとしたものが、所狭しと入っており、

そして、それらは全部、蟻でした。

まだ動いている蟻もいて、口の隙間から這い出して来ている蟻もいます。

蟻の身体の一部だと思われる、

黒くて小さな物や、

噛んで潰れた蟻から出たのか、黒っぽいような変な液体も、口の周りにベタベタくっ付いていました。

そうして、

蟻の行列から1匹つまみ出すと、私に差し出して来ました。

私は、気持ち悪くて、

「私は良いわ、

早くみんなのとこ、行かんなんし。

それ、M君が食べてや」

そう言って立ち去ろうとすると、

今後は、かなり強く右手を掴まれ、

そうしてM君が、蟻だらけの口で嬉しそうに、

「早く、食べてみ?」

と、もはや私にしたら、蟻としか思えないM君の顔が迫ってきて、私の口に蟻を近づけました。

蟻の足が、うじゃうじゃ動いています。

( こんなん、無理やわ、、、)

しかし、蟻は私の口の中に運ばれました。

M君の手によって。

「なっ?美味しいやろ!甘いやろ?」

M君は、かなり興奮していました。

私は涙目で走り出し、すぐに口の中の物を吐き出しました。

私の口から出て来た蟻は、私の吐瀉物の中で、藻掻いています。

それを見て更に嗚咽がし、その後も何度も吐きました。

separator

ある日の給食の時間、

クラスのイジメっ子的な存在の男子が、

2、3人、M君の机の前に立っていました。

菓子箱を持っています。

しかし、蓋の隙間にはガムテープが何重にも貼られています。

M君は給食を食べていました。

イジメっ子の中のボスである男の子が、

笑いながら言いました。

「なぁ、M、腹減っとるんやろ?

お前の大好物、持って来てやったぞ 」

そう言うと、菓子箱のガムテープを一気に剥がし、中身をM君の給食の上にぶちまけました。

それは、恐ろしく大量の蟻でした。

「嬉しいやろ?早く食えよ、ほら、」

と大笑いました。

私は、M君が蟻を食べてた事を、

彼らに告げ口したと思われてたらどうしようと、内心ドキドキしていました。

「オレ、この前見たんや、

Mが、蟻を美味しそうに食べとるとこ。

だからプレゼントしようと思ってな」

その男の子達からは、

「た・べ・ろ! た・べ・ろ!」

と、はやし立てるように、

『たべろ』コールが始まりました。

女の子達が、

「やめなよ!

可哀想やん、先生呼んでくるしね!」

またもやその日、出張か何かで担任はいませんでした。

静まり帰った教室の中で、『たべろ』コールだけが、聞こえていました。

separator

しばらくして、

黙ったまま俯いてたM君が、顔を上げました。

蟻はそこら中に、ウヨウヨと動いています。

するとM君は、ニタァと笑うと、

動いている大量の蟻達を手で集め、給食のお皿に入れました。何度も何度も。

もはや、お皿は蟻で溢れています。

そして、スプーンで何度も何度も、お皿の中の蟻を潰しながら、美味しそうに食べ出しました。

異様な光景でした。

からかってた男の子も、身動き一つ出来ずに黙って見つめていました。

蟻のお皿を平らげて、

まだその辺をウロウロしている蟻を、

一つ、また一つ、摘んでは口に運びながら、

M君は彼らに言いました。

「ありがとう、

今日、夕飯食べれんくらい、お腹一杯や」

そして、またニタァと笑いました。

からかっていた男の子達は、恐怖で顔が引きつっていました。

「や、ヤバいって、、、

こいつ、おかしいんやない?」

そして、逃げ出そうとしましたが、

丁度そこに、隣りのクラスの担任が来ました。

女の子達が呼びに行ったんでしょう。

「おい、どうしたー」

「あ、あいつが、、、

オレら、からかっただけなのに、、、」

M君の方を指先しました。

「M、大丈夫かー」

先生が声をかけながら、近づいて行きました。

そしてその時に、机から落ちた蟻達が集まっている所を、先生は気づかずに踏みました。

その瞬間、M君は叫び出し、いつの間にか手にはハサミを持っていました。

キャーッと言う、誰かの声を皮切りに、

教室内は大パニックとなりました。

「おい、M、落ち着け、」

先生が必死に説得しますが、ハサミの標的は先生でした。

「おい、他の先生呼んでこい!」

そう言って、先生は抵抗していました。

separator

それから暫くして、男の先生3人がかりで、

M君は取り押さえられました。

そして、保健室へと運ばれて行きました。

その先生は、

「前にもこんな事があったのか!?」

と、半分キレながら言いました。

女の子達は泣いています。

私が言いました。

「はい。

でも、担任の先生は知らないんです。

たまたまなのか、M君が暴れている所を見た事が無いんです。

みんな、担任の先生に、必死で言いましたが、無視されました。」

そうか、、、

とだけ言い、その先生は教室を後にしました。

separator

それから1週間後、私達の担任の先生は、

結婚すると言う理由で、学校を辞めました。

以前からも保護者から、抗議の電話が頻繁にかかって来てたそうです。

そして、その出来事の後も、M君は同じクラスにいました。相変わらず、誰とも馴染めずに友達もいません。

しかし、クラス全体が暗黙の内に、

M君を刺激しないようにしていました。

それからは、暴れる回数も少しは減ったような気がします。

separator

4年生になり、M君とは違うクラスになりました。

他のクラスの友達からも、あまりM君の話は耳にしませんでした。

M君の家は、

裕福では無い事は知っていたのですが、

給食をすごい勢いで食べていたり、

友達の残した給食まで、貰って食べていたので、家では碌に、ご飯を食べる事が出来なかったのでしょうか。

小さい弟も居たそうですから。

あぁ、そうか、、、

当時の彼にとっては、蟻がご馳走だったんだなぁと、

今頃になって、私は気付きました。

Normal
コメント怖い
5
10
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信

怖い!グロテスク。
しかし、心に染みるお話です。蟻を口に入れられたあひるさん、その時の心情は計り知れないですね。

返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信