中編7
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エレベーター。

去年の話、私は7月の初めから9月の終わりまでの三ヶ月間。北海道のとあるホテルで住み込みのリゾートバイトをしていました。

詳細を言うと場所が解ってしまうと思うので、若干っぼかして話そうと思います。そのホテルの周りには他にもいくつかホテルがあって私が働いていたホテルはその中でもだいぶ安いホテルだったようです。

三ヶ月でも私には結構な重労働でしたが、他のホテルはその倍は大変なんだと他で働いたこともあるらしい男性の先輩が言っていました。満室になることも滅多にないようなホテルでした。

まぁ、満室にならない理由はホテルどうこうではなく他にあったんですがね。私最初の三日間ぐらいはまずは周りの環境に慣れてねって事で四日目から勤務だったんですが、寮の部屋が準備途中だったこともあり初日はホテルの一室に泊めていただきましたよ。

まぁ、素泊まりみたいなもんでしたがね。でも、温泉は最高でしたよ。

あと、朝食はバイキングでそれも食べさせていただきました。で、泊まった日の晩に夢を見たんです。

祝詞の方と会ってから、様々な夢を見ていたのであまり驚かなかったんですがね。夢でも私はホテルの中に居てでも少し違っていて、それが従業員も宿泊客もみーんな人間じゃなかったんです。

まるでジブリの千と千尋の世界に迷い込んだ気分でしたよ。これ言ったら、わかる人はわかるかもしれないんですが、そのホテル入口に大きな玄関マットが敷かれていて鬼の絵が書かれてたんです。

その鬼が夢の中での私の案内役をしてくれました。鬼の彼いわく、そのホテルは表向きは普通に人間用だけど実は半分が妖や神様が泊まるホテルらしいんです。

と言っても、人と違って人数が少ないので1つの階に2、3組程しか来ないそうですが。夢とはいえ、黄泉竈食《よもつへぐい》が怖かった私は水すら飲みませんでしたが楽しく案内してもらいました。

そして、最後に鬼の彼はそこで一番偉いと言う初老の男性の元へ私を連れて行ってくれました。初老の男性いわく、私を夢で招いた理由は霊感の強い私は良くないものに魅入られる恐れがあるので先に警告しておきたかったんだと……まぁ、基本は妖や神様が泊まるので良くないものは滅多に来ないそうだが。

そして、私はそれから三ヶ月。風邪になったり、職場の人間関係のあれやこれやに悩まされながら何とか頑張りました。

でも、諸事情で9月の初めに実家に帰ることが決まり何とか月末まで働きました。その最後の一ヶ月に私はまた奇妙な体験をしたのです。それも、今度は夢ではなく現実で……

その日、私は五階の客室担当でした。でも、その日 五階に泊まるお客様は少なく担当も私と先輩の2人だけでした。

全ての客室に夕飯をお出しして下げてスタッフルームの清掃も終わると、日誌を書いている先輩から

先「じゃあ、私はこれを書いてから行くので林檎さん先に七階へ行ってもらって良いです?」

私「わかりました」

私は頼まれた先輩の荷物も持って先に七階へ行くことに。スタッフルームには、一台だけエレベーターが設置されていました。

旧式のエレベーターで稼働音も振動もそれなりでだいぶ狭かったですが、ないよりはマシな感じでした。そして、エレベーターに乗った私は七階のボタンを押しました。

そして、エレベーターの扉が閉まってすぐ私はあることを思いつきました。どうせ七階に行くのなら六階の様子を見て行こうと。

いつもなら、言われたこと以上のことはしない私にしては珍しい考えでした。でも、実際そう言うことをする先輩は何人かいたので私は六階のボタンも押して壁にもたれました。

エレベーター内部には、機種によりますが扉の上か階数ボタンの上に電光の表示板があって今何階を通過したか分かりますよね?私は昔からその電光表示板を黙って見つめる癖があって、その時もボーッと見つめていました。

そして、電光表示板に6と表示されエレベーターが止まった時。私はある事実を思い出しました。

その日、六階はお客様泊まっていなかったんです。もちろん従業員もその日は六階にいません。

しまったと思いましたが、旧型のエレベーターは扉が全開きにならないと閉められません。なので仕方なく、閉めるのボタンに指を添え扉が開くのを待ちました。

開いた扉の向こう、六階のスタッフルームはやはり真っ暗で誰もいませんでした。やっちゃったっと思いながら、早く七階に行かなければと扉を閉めようとした時。

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何か奇妙な、気配のような視線のようなものを感じました。私は意を決して、頭だけ扉から出すと

私「誰もいないですよね?」

っとイントネーションも発音もおかしな言い方で暗闇に向かって話しかけました。ですが、やはり返事はありません。

気の所為だったんだと自分に言い聞かせ、私はエレベーターを閉めました。再び動き出すエレベーター。

最近のエレベータはあまり乗る機会ないのでわからないんですが、古いエレベーターって上に向かってるのか下に向かってるのか振動(?)でわかりますよね。何より、私は間違いなく電光表示板に表示された【7】って数字をちゃんと見ていました。

そして、再びエレベーターの扉が開いたのですがこの時再び謎の違和感。理由は分からないのですが、何かが引っかかり私は一瞬その場に固まってしまいました。

すると、近くに居た男性の先輩から

男「何してんの?早く手伝ってよ!」

っと促され急いでエレベーターを降りました。そして、一通りの作業が終わった時。

ふっとゴミ箱が目に付いたのです。そのゴミ箱には【4F】っと油性ペンで書かれていました。

最初は、四階のゴミ箱七階に持ってきたの誰?って思った私でしたが、今にして思えばその時点でおかしいと気がつくべきでした。だって、ゴミを回収して下の集積所に持っていく時は必ずゴミ袋だけで持っていくんですからゴミ箱が入れ替わることなんてそもそもありえないんです。

そして、私は言い表せない様な不安を拭いきれずホワイトボードに目を向けました。ホワイトボードには、各階部屋の番号が印刷されていてその横に人数やアレルギーの有無などが記載されています。

私はホワイトボードを見て再び固まってしまいました。だって、そこに書かれていた部屋番号は四階のものだったから……先に言った通り部屋番号はホワイトボードに印刷されているので書き換えなんて出来ません。

でも、私はまだ意味が分からなくて固まっていました。すると、先程の男の先輩が

男「よし。じゃあ、次は七階に行くか!」

その言葉を聞いて私はようやく自分が四階に居ると気が付きました。意味がわからなくて、だいぶ混乱していましたが仕事終わりに一緒に五階にいた先輩にもこの事は話したのですが信じて貰えませんでした。

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そして、9時の就業時間になり私は寮の自分の部屋へ戻りました。次の日も仕事でしたが、なかなか寝付けなかった私はコーラが飲みたくなり寮の1階に置かれた自販機に向かいました。

自販機にお金を入れコーラのボタンを押すと、取り出し口からコーラを取り出そうと私はしゃがみ込みました。その時でした。

目の端を女性が通り過ぎました。白いワンピースに黒い長髪の女性が、エレベーターホールへ向かって行ったのです。

寮には色んな人が居たし、従業員の家族も住んでいたのであまり気にはしてませんでした。そして、コーラを持って私もエレベーターホールへでもそこに女性の姿はなく、エレベーターも止まったままでした。ほんの少しの悪寒を感じましたが、気にするのは止めエレベーターに乗って急いで部屋へ戻りました。

自分の階へ戻った私は、気になってエレベーターとは反対にある階段を覗きに行きました。姿は見えませんでしたが、直感で居るとわかり私は走って部屋に戻ると鍵をかけて祖父の形見の【身代わり鈴】と言うのを鳴らさないように抱きしめました。

その日の夜、また夢を見ました。鬼の彼と初老の男性が申し訳なさそうな顔をしていました。

あの女性は、私の体を乗っ取ろうとしていたそうです。エレベーターでの出来事も、私を人目につかない場所へ連れ去ろうとして失敗したのだろうと言っていた。

女性の詳細は聞きませんでした。でも、何時だったか部屋に案内したお客様が

客「お姉さん知ってる?このホテルの傍で昔、火事があったんだよ」

っと話してくれたのを思い出した。

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この話とは関係ないのですが、八階は夜に行くと線香の匂いがする事があったり誰も乗っていないエレベーターが五階のスタッフルームに来たりする事がありました。五階の無人エレベーターについてはある派遣のパートさんが

派「私はね。エレベーターが開いて誰もいなかったら「いらっしゃい」って言うのよ」

っと言っていた。

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そして翌日も五階のフロア担当だったのですが、その時は誰も居ないのにバケツの水が勝手にひっくり返ってました。

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