私が以前住んでいた地域には、7年ほど前に廃病院となった精神病院があった。
近所では有名な病院で、毎年夜中に抜け出した病人が、交通事故に巻き込まれることが多発したため、廃病院となったという。
施設は解体されることもなく、昼間でも不気味な雰囲気を醸し出しており、手入れも行われていない樹木が、病院全体を暗く覆っていた。
nextpage
この病院にはこんな噂が流れていた。
廃病院となった今でも、当時の患者達が夜な夜な病院に集い、施設を歩き回るという。
nextpage
とある夏の暑い夜のこと。
廃病院に行こうと切り出したN君とその仲間達は、心のどこかで噂が本当なのではないかと不安に駆られながらも、出かける支度をしていた。
N「なにビビってんだよw いざとなったらダッシュで逃げればいいだろ〜頭のおかしいおっさんどもが追いつけるわけねえんだからww」
4人とも身支度が終わり、N君が運転する車に乗り込んだ。歩いてでも行けない距離ではなかったが、「いざという時は早く逃げられるほうがいいだろw」となんだかんだビビっているN君の提案で車で行くことになった。
5分ほどで廃病院に到着したが、当然施設は封鎖されているため、路上に車を停めた。
仲間の1人が、
「もしなんかあったらすぐ出発できるように、車の鍵はかけないでおこうよ。」
と提案し、N君もそうすることにした。
4人は車から降りてそれぞれ懐中電灯を付けると、薄気味悪い病院の正面玄関へと向かった。
「でもどうやって入るよ。どっか入れそうなとこない?」
手分けして入れそうなところを探していると、N君が一階の渡り廊下の窓が開いていることに気付いた。
N「おーい!ここあいてんぞー!」
4人は窓から病院内へと入り込んだ。
施設内はかなりホコリっぽく、真っ暗で何も見えない。そして何か生臭い臭いが鼻をつく。4人とも既にかなりビビっていた。
長い渡り廊下を進んでいくと、階段が見えてきた。ここでN君がこんな提案をする。
N「2人ずつ分かれてそれぞれ上の階と地下、行ってみようぜ。もしなんかあったら車集合な」
ジャンケンで友人2人は地下へ、N君ともう1人は上の階へと進むことになった。
N君達が2階を探索していると、廊下の奥で3、4人の人影が見えた。
出たぁ!!と思って引き返そうとした時、彼らが話しかけてきた。
nextpage
「おーい!おたくらも肝試し?」
ホッとため息が出る。どうやら肝試しに来ていた別のグループのようだ。N「そうなんですよーー!ここ気味悪いですよね!」
彼らも近所から来たらしい。この時期なこともあって、他のグループと遭遇することだってあるか、とN君は納得していた。
6人で楽しく話したあと、またそれぞれ探索を続けることになった。
nextpage
するとペアの仲間がこんなことを言い始めた。
「なぁN。さっきのやつらなんかちょっとおかしくね?なんでこんな暗いのにライト1つ持ってないんだよ。しかもぱっと見全員40代くらいのおっさんだったし…その年で肝試しなんかすんのか?」
彼の言っていることは的を射ていた。
そして同時に寒気が走った。
N「出よう。なんか起きる前に!」
地下で探索しているやつらも気になったが、とりあえず先に車へ戻ろうと早足で階段へと向かった。もう少しで階段という所で、地下を探索していた2人と出くわした。
2人は少し腑に落ちない感じだった。
「ちょっと聞いてくんね?地下は霊安室になっててかなりキモかったんだけど、霊安室の中に15人くらい人がいてさ。なんか肝試しに来た人達だったんだけど、よく見たらみんなおっさんなのw とりあえず探索済んだからここで待ってたんだよ」
N「15人!?肝試しにしては多くね??てか俺らも会ったんだよ。4人組のおっさん。ライトも持ってなかったら気味悪くて。」
そんな話をしていると
shake
ドタドタドタドタドタ
物凄い量の足音が地下から響いた。走っているのか、それはどんどん階段に近づいていく。
4人は一目散に廊下へと走り窓から飛び出て、車へと向かった。
N「やべえよやべえよ!やっぱあいつら患者なんじゃねえの!!」
全員車に乗り込むと、Nは急いでエンジンをかけた。走り出した車内で、友人の1人が叫んだ。
「おいN!あいつら追ってきてんぞ!」
バックミラーをみたN君は驚愕した。
群れになって車へと向かい走ってくる数十人の人達。
かなりスピードを出して大通りへとでた後、息が整ってきた4人はゲラゲラと笑った。
「まじ怖かったわww噂ホントだったんだなw」
N「足音近づいてきた時は死ぬかと思ったわw」
「お前ら足早すぎwふざけんなwww」
「明日みんなに教えてやろうぜwんであいつらも行かせようww」
「明日はこねえよ」
nextpage
え?
車内が唖然とした。
nextpage
N君がフロアライトをつけると、後部座席の後ろに見知らぬ男達がギュウギュウに詰まっていた。
作者ぎんやみ