小学5年生の時。
祖父が意識不明になり、近所の病院に入院し始めた頃に、「ある」夢を頻繁に見ていた。
それはこんな夢だ。
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白い服を着た5歳くらいの子供達が群れになって、ベッドで寝ている祖父にわーっと駆け寄り、祖父の腕や足に吸い付くのだ。
そしてチューチューと何かを吸った後、フッと消えていく。しばらくすると、また子供達が現れ、同じように祖父に駆け寄ると、またチューチューと祖父の体から何かを吸い始める。
その様子を、隣のベットで永遠と見させられる。
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見させられるという表現を使ったのは、私は祖父のベットの真向かいにあるパイプ椅子に座っていたのだが、その横で、
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大きな鎌を持った黒い衣服の男が、私の頭上に鎌を振りかざしていて、1ミリでも動くとそれを振り下ろさんとばかりに見張っているからだ。
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そんな夢が回数を重ねていくうちに、夢の中と現実の両方で、祖父の体がどんどん痩せ細っていくのが分かった。
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私は祖父にべったりな、いわゆる「おじいちゃん子」で、小さい頃から祖父には色々な所に連れていってもらっていた。休日になると、どうしても祖父の家に行きたい私は、よく両親に駄々をこねて怒られていたのを今でも覚えている。祖父は優しく、いつもニコニコしていて、本当に心の底から大好きだった。
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だから、夢を見るたびにそんな祖父に近づき、体から何かを吸っている子供達に腹が立った。お前らに大事な祖父を渡すわけにいかない。お前らみたいな知らない人が祖父に触ってんじゃねえ。
怒りがピークに達した時、私は泣きじゃくりながら夢の中で祖父に駆け寄ろうとしてしまった。
「私のじいじにさわんn…」
と言いかけた時、黒衣の男が、動こうとした私に向かって大鎌を振りかざした。
空気を切り裂いて、鈍い刃物の音が病室に響く。
その瞬間、私の視界は回転し、気付くと祖父のベットの下に視線が固定された。
ああ、首が落とされたんだという感じがリアルにしたのを覚えている。
悔しさと悲しさのあまり、溢れる涙で視界がぼやけ始める。自分の力不足を痛感した。私は何もしてあげられなかった。
フェードアウトしていく視界が何かを捉えた。
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ベットの下。私の顔を覗き込む子供達。
笑っている。まるで、お前の祖父は貰ったぞと言わんばかりにニヤついている。
そしてそのまま視界が真っ暗になった。
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涙声で私を起こす母の声で目が覚める。
「じいじ、危篤だって。病院いくよ。」
頭のどこかでまだ夢の中の風景が残っている。しかし夢は夢だ。支度をしている間にどんどん薄れていき、私と家族は病院へと向かった。
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病院の入り口に着くと、太陽の光が沈む前に最後の輝きを見せていた。綺麗なオレンジの空が、病院の窓を赤く染めている。ロビーには順番を待っているのか、高齢者たちがちらほら長椅子に腰掛けていた。受付で名前を書いた後、受付横のエレベーターへと向かった。
母、父、私の順でエレベーターに乗り込んだ時、私が乗った瞬間重量オーバーのブザーが鳴った。
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おかしいな、と困惑する私たち。
このエレベーターは10人まで乗れるはずなのに、なぜか私が乗った瞬間、ブザーが鳴った。受付の人も「故障かしら」と不思議そうに近寄って来た。
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困惑している大人たちの横で、私は原因が分かってしまった。
あいつらが乗ってきたんだ。私と一緒にこのエレベーターに。
私はすぐ両親に、「祖父の病室へ行けない」と伝えたが、両親は「馬鹿なこと言ってるんじゃない」と嫌がる私の手を引き、階段へと向かった。
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泣きじゃくる私。2階の階段を上がっていた辺りから子供達の笑い声が聞こえ始めた。
両親にも聞こえているのか、母が笑い声に合わせてえっ?と声を漏らしていた。
私の手を引き、足を早める父。そして3階に着き、角部屋である祖父の病室の扉を開けた。
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そこには静かに眠る祖父がいた。
腕には点滴をつけ、夢でも見ているかのような優しい顔。そばには祖母と叔母がついており、「お父さん。〇〇が来たよ」なんて優しく祖父に語りかけた。
さっきまでのことなんてどうでも良くなった。私も祖父のそばに行き、そっと祖父の手を握った。涙が溢れる。
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「じいじ。死なないで」
すると祖父が何やらボソボソと喋り始めた。
ずっと眠っていた祖父が、最後の力を振り絞って私に何か言っている。
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「…は…なのか…」
「じいじ?なんて言ってるの?」
「…びは…ょうぶ…なのか…」
そう聞くと、またボソボソと何かを喋っている。祖父の口元まで耳を近付けた時。祖父が何を言っているのかが聞き取れた。
「首は…首は、もう大丈夫なのか。」
たしかにそう言っていた。
そしてその瞬間。耳の奥で鈍い刃物が空気を切る音が響き渡った。
そして心電図を測る機械が、ツーーと悲しく鳴った。祖父は息を引き取った。
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この不思議な体験は今でも鮮明に覚えている。あの時もし私が病室へ行かなかったら、祖父はもっと長生きしていたのだろうか。それは今になっても分からない。
私はもう今年で22歳になり、大学の近くで一人暮らしをしている。部屋には笑顔の祖父と私が写っている写真を飾っている。あのことがあってからは白い子供も黒衣の男も見えたことはない。祖父は私を守ってくれたのだろう。
ふとそんなことを思い出して、書かせていただきました。と。
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パソコンに向かいそんなことを書いていたら、
プルルルルルル
プルルルルルル
電話が鳴った。
ガチャ
「はい。あ、お母さん?今ちょっと忙しいから後にしてくれる?」
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もしもし!?今どこにいるの!?今あなたの体に群がる白い子供達の夢を見たのよ!!!!早くそこから逃げなさい!!!
もしもし!?もしもし!?!?!?
作者ぎんやみ