短編2
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引き込む肖像画

「絵の中の女が動く」

数年間何のやりとりもなかった俺の友人____仮にMとしよう____から電話がかかってきたかと思うと、いきなりそう言われた。なんでも突然、衝動的に女性の美しい後ろ姿を描きたいと思い立ったMは画家でないのにも関わらず何日も部屋に籠って絵を描いたらしい。

「で、一週間前やっとその絵を完成させたんだけどさ~。どんどんこっちを向こうとしてるんだよね。もうすぐ顔が見えそうなんだ。」

そう言いきった後、Mは「俺は後ろ姿だけを描きたかったのになぁ~。」とのんきな事を抜かす。俺は幽霊とかの怪談系があんまり好きではないので何とも言えない気持ちになりながらも一応話に付き合う。

「それ、ヤバイんじゃね?ほら、よくあるだろ。前を向いた時には~っていうやつ。」

「やっぱヤバい?でも…不思議だよなぁ。何で動くんだろ?俺、なんか不思議な力でも持っているのかな?」

「それは知らないけどさぁ…とりあえず塩でも撒いとけば?塩撒けば大体のものはどうにかなるだろ、うん。」

「そうか?まぁ、やってみるわー。あんがと。」

プツリ。言うだけ言った後、いつもアイツはすぐ電話を切る。何だか眠くなってきたのですぐ布団のなかに潜った。

次の日の早朝。Mからまた電話がかかってきた。

「なぁなぁ!塩かけたらめっちゃ怒ってきた!一気にこっち向いたし、何か顔中から血を垂れ流してるし。絶対意思持ってるって~というか俺、今絵のなかに入れられそうなんだけど。」

「は?」

「あ、ヤベ。」

ガンッとスマホが床に落ちる音が響き、急に静かになる。俺は恐る恐る

「え…M?」

と名前を呼んだ。返事は返ってこなかった。

あの後、俺は慌ててMの住んでいる家に行ったが、Mの姿はどこにもなかった。

もう一つ。Mが描き、何故か意思を持ったという女の肖像画も見つからなかった。一体どういうことなのだろう?これ以上のことは俺には全く分からない。

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