中編6
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動く写真

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「 Kさーん!!( 私の事です ) 」

( この声は、Tだな。) そう思い、

「はいよー」と、私は振り返った。

唐突に、

「 Kさんさー、今日ってヒマ?」

と言われた。

やはり、Tだ。

彼は私と同じ美術科で、1個下の後輩。

多分、今の若い人には分からないと思うが、若い頃の "柳葉敏郎 " 系統の顔立ちだ。

Tは、とにかく歯が白い。

しかも、モテる。

同じ美術科の後輩の、同じ歳の女の子と付き合っていた。

その彼女も、私を慕ってくれていた。

「え、ヒマだけど、どしたん?」

「Kさんにしか、言えないんだよー。

今日さ、講義、何時に終わんの?」

「あー、分かった。

つーか、何時に行けば良いん?」

「出来れば、今から」

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そういう流れで、

私は、その後の講義を、

全面的に自主休講し、

( 代弁、代筆を出来る講義は、

友達に頼んだ。私、後輩思いだなぁ )

Tのアパートに向かった。

「Kさん、何か飲む?」

「ビール」

「はいよー」

……………………

私が、1本目のビール缶を飲み干そうとした

時だった。

それまで、適当な話しをしてたんだが、

急にTが言い出した。

「今日さ、Kさんを呼んだのは、

Kさんに見てもらいたい物があって、、、」

「はい、2本目。

そして、あんたも飲む!」

Tと意味の無い乾杯をし、

「で、どしたん?」

と、私は聞いた。

Tは、ビールを一気に飲み干すと、真面目な顔で話し出した。

「ねぇ、Kさんってさ、何か、、、

その、霊的な物、、、分かるんだよね?」

「分かんねーよ」

「いや、だってさ、

Kさんのアドバイス通りにしたら、

変な、霊的な事が大丈夫になったって、言ってる人いるよ?」

「それは私の戯言だよ、たまたまでしょ」

そう私は答えたが、Tが真剣だったので、

「何があった?話してみ?」

と、聞いた。

「いやぁさ、実は、見て欲しい物があって」

そう言うと、彼は、

机の引き出しをガサガサし始めた。

「これなんだけど、、、」

私は、1枚の写真を手渡された。

見てみると、

写真にはTと、その右側にもう1人、

私の2個下の後輩が写っていた。

そして、写真の左上に、

赤い雲の様なモヤの様なものが写っていて、

私には、それが般若の様に見えた。

額から2本の角が上向きに突き出していて、

目はつり上がっている。

口は耳まで裂け、その口からは獣の様な鋭い歯が何本も生えているのが分かった。

( うん?これは、、、)

「でさ、Kさんを呼んだのは、

この写真を見せたかっただけじゃあ、無いんだよ。」

「これ以上、何?」

「信じて貰えないかも知れないけど、、、

Kさんだから、分かってくれると思ってさ。

実は、その鬼みたいな顔、、、

写真撮った時、

最初は右側にあったんだよね。

その時は白っぽい色で。

今みたいに、はっきり鬼みたいにも見えなかったし。でも、一緒に写ってる後輩が、

『 Tさん、これ、鬼の顔に見えませんか?』

って言い出したから、何となく、引き出しにしまっちゃったんだと思うんだよね。

それが、、、

何日か前に、机の引き出しから

この写真が出てきて。

もう、1年前くらいの写真だったから、

あっ!って思って、見てみたらさ、

そしたら、鬼みたいなヤツが、左側に移動してて。前よりも完全に鬼に見えるし、色も赤くなってるし、気味悪くてさ。

だから、Kさんに見てもらおうと思ったんだよ。」

ふーん、と思いながら写真を見ていた。

私は別に、霊能力者でも無いし、

正直、分かんないものは分かんない。

ただいつも、思った事を言うだけだ。

「ねぇ、Tさー、

この写真、何処で撮った?」

「あー、去年の、" 心霊スポットツアー "

( 私達の美術科には、夏になると、

そう言う行事が恒例となっていた。 ) で、かな?」

「場所は?」

「うーん、覚えてないけど、、、。

確か、橋だったかな。橋から川をバックに撮ったような気がする、、、」

「バカか、あんたは!

いくらお気楽な、心霊スポットツアーでも、写真とったらダメだろうよ!」

「いやぁ、盛り上がっちゃって、

後輩が『写真とりましょうよ!』って言うし。」

「それを止めるのが先輩でしょうが!」

「すみませんでしたー。

オレが悪かったですよー。

、、、、、、。

、、、でさ、

Kさん、その写真、、、ヤバい?」

私は暫く写真を見ながら、

そして、Tの話も思い出していた。

( 最初は右で、白い。次は左で、赤い。)

「ねぇ、この写真撮った後、その後輩には、何かあった?」

「いや、何も聞いてない」

私は、ふと思った。

「ねぇ、Tはさ、

この写真、捨てる気無いでしょ?

例えば、お寺に持って行くとか。」

「、、、Kさんさ、やっぱ、分かる?

実はそうなんだよ。

何故か、捨てる気になれなくてさ、

何でかは自分でもよく分かんないんだけど。」

「そっか。

私は、『絶っ対に、お寺に持って行った方が良いと思うけど!!』って思ってるけど、

でも、所有者である、

あんたに何も起きて無いし、

いや、実際、何かしら起きてるかもよ!?

それは分かんないけど、

だけど、

Tが、手放したく無いなら、

手放したくなる時まで、持っとけば?

あんたの物なんだから。」

Tの顔が、びっくりした表情をした。

「えっ?何?

私、変な事言った?」

「いや、絶対に、

『今すぐに寺に持ってけよっ!!

バカヤローめ!!』

って、言われると思ったから。」

「そう言って欲しかったん?」

Tは、黙って首を振った。

「ま、この話はこれで終わりと言う事で。

鑑定料の、ビール」

その後は、2人で酒盛りだった。

よほど安心したのか、

Tは、ビールが無くなると、

何処からともなく日本酒を出てきた。

大学生とは全くもって、モラトリアムである。

無論、酒に強い私より、Tが先に潰れるのは当たり前の事だったが。

……………………

Tは、潰れて寝てしまったようだ。

そうして私は、例の写真をもう1度見た。

罰当たりかも知れないし、これが正解なのかも分からない。

だけど、今まで私は、

何となく『こうしたいな』と、自分の思った様にやって来た。

しかし幸いな事に、

その事が原因で、逆効果になってしまった人も居なかったので。

まず、その鬼の顔に、

日本酒を垂らした。そして、つまみのピーナッツの底に溜まった塩を、塗りつけた。

最後に、私も何故だかは分からないが、

自分の唾を鬼の顔に吐き、それらを全部拭った。

そうして、部屋を後にした。

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何故、私が、

意地でも『寺で供養してもらえ』

と言わなかったのか。

それは、左に移動した鬼の顔の目線が、

写真の左端を向いていたから。

最初は、右に居て、

後輩2人を見ていた状態。

つまり、あの顔は、

ずっと左を向きながら、移動していたんだと思うのだ。

だから、ヤバかったのは、逆に、

右側に居て、後輩達を見ていた時なんじゃあ無かったのかと。

しかしもう、あの顔の、あの視線は、写真の外を見ている。

後輩達を、白い顔で見ていた時よりも、

呪いたい?相手が現れて、

写真の中で、その者に近づきながら移動し、段々と赤い色になっていったのでは、と。

とにかく、その鬼みたいなヤツは、

Tの写真から早く出たかったんじゃあ無いのかなって。

その様な、呪いたい相手が現れてくれて、

助かったなと正直、思った。

( まぁ、その相手には悪いですけど。でも、知らない人だし、知りようも無いし。)

だけど、今回は、

『 写真を渡り歩くとは、すげぇな、』

と、かるくビビりました。

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それから2、3日経ったある日、

「Kさーん!」と、呼ばれた。

私は、Tだと気付き、

「ねぇ、あれから、どう? 」

気になって聞いてみた。

「いやぁ、

Kさんに見てもらって、良かったっすよー!」

「何?その変な敬語。」

「あの後、あの顔が消えたんですよっ!!」

「マジで!?」

「うん。でも、変な後が残ってたけど 。」

( あ、私の唾だな )

「で、その写真、どうしてんの?」

「机の引き出しの奥に、しまってあるよ。」

( あー、何で、手放さないかなぁ、、、)

とか思いつつも、

「Tさ、何かあったら、すぐに言いなよ?

分かった?」

「分かってるよ、Kさん!」

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その後、Tは、学生時代からの彼女と結婚し、今や2児のパパだ。

仕事は忙しいらしいけど。

でも、たまぁぁぁに来るメールは、元気そう。

あの写真を、

まだ持ってるのかは知らないけど、

私の唾を付けといたから、たぶん大丈夫だろう。

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