ある日、クラスの人気者、さおりちゃんが突然話しかけてきた。
「ねえユウくん。ちょっと相談したいことがあるんだけど、明日私のお家で聞いてくれる?」
「えっ。ああ、うん!えっ!お家で!?別にいいけど!今じゃダメなの?」
(余計なこと聞いちゃったーーー)
「うん。周りに聞かれたくないの。」
「わ、分かったよ!俺で良ければ是非!!」
周りがざわついている。それも無理ない。
だって、俺みたいなやつに「あの」さおりちゃんが話しかけてんだから。
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さおりちゃんは成績優秀、なかなかの美人さんで、とっても優しいクラスのマドンナ。
んまぁ、周りから相談相手として少しは頼りにされてる俺だし?たまにはこんなご褒美あってもいいよな〜〜
しかし恋の始まる瞬間って本当に突然なんだな〜うっへっへっへっ
「じゃあユウくん。また明日の放課後ね。」
さおりちゃんは、スクバを肩にかけると、教室を後にした。
なんだか俺も恥ずかしくなって、後を追うように教室を出た。みんなの視線が熱いぜ〜
明日は最高の1日になるぞ〜♪
グーっと背伸びをした。
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家に帰ってから俺はみっともないニヤケ面を家族に振りまき、「女の子との上手な会話方法」「失敗しない2人きりの会話集」などなど、ネット上の情報をかき集め、念入りな調査を開始した。妹はその様子を見て気持ち悪がっていたが、そんなの気になんねえ。
そして最高のコンディションでお届けしたいと9時には布団に入った。
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翌日、さおりちゃんはお休みだった。
恥ずかしさと悲しみ、この2つの感情が頭の中をこれでもかとグルグル回って、とても辛かった。
誰かがクスクスと笑う。そりゃそうだ、今日は普段付けもしないワックスを盛り盛りに付けてるから。この場から消え去りたかった。
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地獄のような1日が終わり、校門を出ようとした時、前方15メートルほど先に、まるで砂漠に咲く一輪の花のように、さおりちゃんが誰かを待っていた。
待ってましたよこの瞬間(とき)を。
俺は周りの奴らに聞かせてやるように、
「さおりちゃーん!お待たせー!」
と言い放ってやった。
さおりちゃんはニコッと笑うと、
「ユウくん。ごめんね今日学校行けなくて。」
さおりちゃんはどこか悲しそうな顔をしている。
「どうかしたの?大丈夫?」
「ううん。大丈夫。そしたら行こっか。」
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20分くらい歩いて、さおりちゃん家に到着した。5階建てのアパート。エレベーターホールはホテルのようだった。さ、さすがはマドンナの居城…
エレベーターに乗ると、さおりちゃんは5階のボタンを押した。
エレベーターが開き、506号室の前で立ち止まると、さおりちゃんはスクバから鍵を出し、扉へと差し込んだ。
「お邪魔しまーす。。」
「パパもママも仕事でいないの。さ、上がって」
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さおりちゃんは、廊下の突き当たりの部屋に案内してくれた。ここが彼女の部屋なんだろう。部屋にはいちいち可愛い装飾が並んでおり、初めて入る同級生女子の部屋に興奮を隠しきれなかった。
ふとベットの横に目をやると、綺麗な鳥籠の中に一羽の文鳥がいた。出来ることならこの文鳥になりたい。。なんて思っていると、さおりちゃんがお茶を持ってきてくれた。
そしてちょこんとベットに座ると、こんなことを聞いてきた。
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「ねえユウくん。私ってどんなイメージ?」
突然の質問に焦ったが、冷静さを装って、
「クラスの人気者、かな〜」
かな〜じゃねえよ!!!とすかさず自分にツッコミを入れる。落ち着け。お前ならできる。焦るなー。
さおりちゃんはニコッと笑うと、籠から文鳥を取り出し、手に乗っけて頭を撫でながら重そうに口を開いた。
「あと少ししか生きられないの。可哀想でしょ?」
「そうなんだ。。もしかして病気?」
「そう。お医者さんが言うんだもの。間違いないわ」
すると文鳥は俺の手に乗ってきた。
鳥が少し苦手だったが、さおりちゃんのペットフィルターが掛かって、全然平気だった。
「ユウくんに懐いちゃったみたい。」
「人懐っこいの?」
「ううん。全然。きっとユウくんの優しさを感じ取ったんだね!なんか安心する。」
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あはははは
部屋に広がる幸せな空気。この瞬間が一生続けばいいのに。そう思った。
それから時が経つのを忘れて、話し込んでしまい、もう外は暗くなっていた。
「いけない!暗くなっちゃった!これじゃよく見えないかな〜…」
「だ、大丈夫だよ!子供じゃあるまいし!1人で帰れるから!」
玄関先でさおりちゃんは、
「今日はありがとうね。ユウくん。お陰で吹っ切れたよ。私やっぱりユウくんのこと好きだったみたい。」
「え!?あ、ありがとう!てかこちらこそ遊んでくれてありがとうね!お邪魔しましたーー」
そそくさと帰ろうとする俺に向かってさおりちゃんは言う
「ユウくん。これからも一緒に居てくれる?」
「も、もも、もちろん。俺で良ければずっと一緒に居るよ!!じゃ!また明日!」
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込み上げる恥ずかしさと嬉しさが俺を早歩きにし、名残惜しく1人でエレベーターに乗った。神様。あれは告白ってことでよろしいでしょうか。
楽しかったさっきまでの記憶を呼び起こす。
あれ?てか結局、さおりちゃんの話したかったことってなんだったんだっけ。思い返してみるも、たわいもない会話しかしてないことに気づく。まあそんなことどうでもいいか〜きっと俺とお話しするための口実だったんだよ、と考えることにした。
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エレベーターが開き外に出ると、冬の冷たくも新鮮な空気が鼻から肺に入る。
一歩立ち止まって、いつもの様にグーーっと背伸びをし、明るい未来へと歩き出した。
shake
ドチャッ
目の前に何かが落ちた。
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エレベーターホールの明かりに照らされ、落ちて来たものが人間だと分かった。
かつてさおりちゃんだった「ソレ」は、首の骨が折れているのか、キューキューと空気の漏れる音を出し、俺を睨んでいた。あと少し前に出ていたら、完全にぶつかっていた。
頭の中が真っ白になり、何かを考えようと脳を回転させると、さおりちゃんとの会話がフラッシュバックし始めた。
「あと少ししか生きられないの。可哀想でしょ?」
「ユウくんに懐いちゃったみたい。」
「きっとユウくんの優しさを感じ取ったんだね!なんか安心する。」
「いけない!暗くなっちゃった!これじゃよく見えないかな〜…」
「今日はありがとうね。ユウくん。お陰で吹っ切れたよ。」
「私ユウくんのこと好きだったみたい」
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「ユウくん。これからも一緒に居てくれる?」
作者ぎんやみ