「ねえ。誰と話してるの?」
妻が突然、そんなことを聞いてきた。
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多忙なせいか、不仲になってしまった私たち。大学時代、あんなに仲良くやっていたのに、社会人になった途端、一面のお花畑だった脳内は一瞬にして荒地となった。現実は悲惨なものだ。時間が取れないと言い訳を重ね、2人はもう冷めきっていた。
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そんな中、久しぶりに彼女が発した言葉が
“誰と話してるの?" だった。
彼女が言うには、夜中に隣のベッドで、私が誰かと話しているそうだ。しかしそこには誰も居なくて、1人でブツブツ喋っていると。
私にその自覚はない。しかし幼い頃から、寝言が多いと言われてはいた。
「昔から寝言が多いんだ。うるさいよね。ごめんよ。」
妻は無愛想に首を傾げると、パンを咥えそそくさと仕事へ向かった。
今日は2人で朝食が食べられるかもと少し期待していたのだったが。
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次の日。
アラームを止めてリビングに向かうと、椅子に座る妻の顔は青ざめていた。
湯気が立っているコーヒーカップを持つ右手は微かに震えていて、とにかく落ち着きがなかった。
「どうかしたの?」
と聞いた。
すると彼女はこう言った。
「あのね…実は昨日のあの話は…嘘だったの。あなたと仲良くしたくて話を作ったの。あなたは夜中に喋ってたりしてなかったわ。」
「そうだったのか…ありがとう。俺も仲良くしたいと思ってたんだ。」
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違和感を感じたのは数秒後だった。
「ん?嘘【だった】ってどういうこと?」
妻は下を向いて黙り込んだ。
そして声を震わせ、こう言った。
「ええ。昨日まではね。嘘だったわ。でも今朝、起きたら知らない男の人が私のベットの側で、
『あいつと何話してたか聞きたい?』
って、何度も聞くのよ…何度も何度も!!!
本当だったのよ…私に見えてなかっただけで、本当にその人とあなたは会話してたんだわ…
私…怖くなって…だから私、答えちゃったの…
『聞きたい』って
そしたら、彼はこう言ったわ」
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『お前をいつ殺すか。だよ』
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顔から血の気が引くのが分かる。
妻が何を言ってるのか見当もつかず、パニックに陥った。
「は??え、ちょっと待って。え、なにそれ。」
すると妻は膝の上から包丁を取り出した。
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「私ね。まだ死にたくないの。」
作者ぎんやみ