短編2
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行く所は

公園でDSのソフトを拾った。

帰りのチャイムがなって、友達と別れてすぐのことだ。

さっきまでこの辺で鬼ごっこをしている子達がいたので、おそらくその内の誰かが落としたのだろうと想像できた。

僕は周りを見回した。

──誰も、見ていなかった。

開いた手をそっと閉じると、僕はそれをポケットに突っ込んだ。

初めての盗みだった。

もう一度、周りを見回した。

やはり、誰も見ていない。

と思っていたのだが、ふいにどこかから視線を感じた。

僕は目を泳がせながらその視線を探した。

やはり、誰も見ていない。

いや──。

銅像が、こちらを見ていた。

小鬼銅像。

僕は一瞬で、緊張の糸を張り詰めた。

その小鬼銅像には以前から、ある都市伝説があった。

元々は、小鬼銅像に睨みつけられたら不幸になるというものだったらしい。病気になったり、事故に遭ったり。ただでは絶対に済まないというもの。

しかし、この都市伝説が人伝いに話されていく内にやがて、小鬼銅像とは絶対に目を合わせてはいけないという都市伝説に変化した。

当時、小学生でこの都市伝説を知らないものはいなかった。だからこの公園で遊ぶ子供達は絶対に、小鬼銅像と目を合わせようとしなかった。

だが僕は、その都市伝説を知っていたにもかかわらず目を合わせてしまったんだ。

頭が真っ白になって、盗んだDSのソフトのことなんてすっかり忘れていた。

ただ小鬼の銅像から目を離すことができずに、じっとその場に立ち尽くしていることしかできなかった。

すると──。

みるみる、小鬼銅像の表情が変わっていった。

笑った…。

小鬼銅像は福面のような表情を浮かべた。

何がなんだかわからず、ただ恐ろしいという感情でいっぱいだった。

その後、僕は大急ぎで家に帰った。そしてもう二度と、その公園で遊ぶことはなかった。

──という話を先日、高校の同級生に話した。

それまではDSのソフトを盗んだという負い目もあって、この話は口にすることはなかった。

ずっと記憶の片隅に追いやられていたのだ。

しかし、その友人と小学校の思い出を語っていたとき、ふいにその話を思い出したのである。

俺はありのままを友人に伝えた。

話を聞き終わった友人はどこか納得できないようだった。というのも、小鬼銅像が笑ったということが気がかりだったようだ。

なぜ笑ったんだろう?

友人は首を捻らしていたのだが、しばらくしてはっとこう言った。

「鬼が住んでるのは地獄だったね」

俺はその意味を理解できなかった。

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