中編4
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赤のセダン

これは俺が大学の同級生Hと、休みの日に釣りに行った帰りに遭遇した、恐ろしくて不思議な体験だ。

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朝方から県境の山あいにあるダムに、俺の軽自動車で出掛けた。

12月も半ばを過ぎた頃だったからダム周辺は結構寒かったが空は澄みきっていて、旨い空気と穏やかな景色を眺めながら、日の沈む頃まで心行くまでバス釣りを楽しんだ

釣果は十分に満足なものだった。

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「そろそろ、撤退するか?」

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Hの一声で俺たちは釣り道具をまとめると、駐車場まで歩き、車に乗った。

太陽は既に西の彼方の山の端にその姿を隠そうとしていて、だだっ広い駐車場はかなり薄暗くなってきている。

俺はヘッドライトを灯し、駐車場を突っ切ると、山道を走りだした。

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昨日深夜のバイトであまり寝ていないというHは隣で、早々と寝息をたてている。

話し相手を失った俺はFMラジオでも聴きながら山道をひたすら走っていた。

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左手は岩肌が迫り、右手はガードレールという二車線の道で、すれ違う車はほとんどなかった。

ガードレール越しの遥か彼方に、煌めく街の夜景が微かに瞬いている。

あそこまで行くには、あと1時間はかかるだろう。

俺は背筋を伸ばした。

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何度めのカーブを過ぎた頃だろうか、いつの間にか一台の車が真後ろについている。

何気にバックミラーを見た途端、目が眩んだ。

どうやら後ろの車、ハイビームにしているようだ。

そして煽るかのように、車間距離を近付けたり、離したりしている。

面倒くさかったから俺は車を減速させ、左に寄せた。

すると後ろの車は右車線に侵入して、俺の車の真横を通り過ぎだした。

見るとそれは、昭和の昔の映画に出てくような赤の角ばったセダンだ。

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─すげえ、今時こんな車乗ってる人間がいるのかよ?

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変に感心しながら、ふと後部座席を見ると、数人の子供が身を寄せ合うようにして、ウインドウからこちらをじっと見ている。

二人や三人とかではなく、四、五人はいると思う。

ウインドウいっぱいに並ぶ顔は皆一様に何だか悲しげで、どこか物言いたげだ。

子供たちは通り過ぎる間ずっと、俺の方を見ていた。

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そのセダンは俺の車の前方に出ると、すぐ先のカーブを左折して、姿が見えなくなった。

俺も左に大きくハンドルを切る。

この先はひたすら下りの直線道だ。

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しばらく真っ直ぐ走り続けて、ようやく次の交差点の信号が見えてきた時、ふと思った。

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─あの赤のセダン、いったいどこに行ったんだ?

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次の交差点までにかかった時間は約5分。

途中は左手に岩肌が迫り、道路を挟み右手にはガードレールが隙間なく続いていて、曲がるところなど一ヶ所もなかった。

路肩らしきところも、、、

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ぞくりと背中を冷たいものが突き抜けた。

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そろそろ山道を抜けるかというとき、Hがトイレに行きたいと言い出したので途中、コンビニに立ち寄った。

黄色と赤の看板のローカル色満載のコンビニ

駐車場には一台、軽トラが停まっている。

店先に生花と野菜が置いてあるところが何処か田舎くささを感じさせる。

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店内はがらんとしていた。

Hが店内奥のトイレに行っている間、俺は陳列棚の間を何気に歩いていた。

賞味期限切れの食材なんかもあったりして、密かに苦笑する。

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ふと見ると、レジ向こうの壁に貼り紙がしてある。

画用紙くらいのサイズで、あちこち破れたりシミがあったりして、かなり前のもののようだ。

レジ前のワゴンに山積みされた値引き商品を見るふりをしながら、その貼り紙の内容を見る。

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人を探しています!

※※※※※※※※※※※※※※

平成元年12月○日、F市の町立○○小学校の5年生5人が、この近くの山林で山菜採りをしている最中に、消息を断ちました。

5人の写真と名前は下の通りです。

心当たりのある方は、末尾記載電話番号にご一報ください

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画用紙下に貼ってある5枚のセピア色の写真を見た瞬間、ハッと息を飲んだ。

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─あれは、さっきの、、、

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すると俺の視線に気付いたのか、レジ後ろに立つバーコード頭の中年ぶとりの店主が困り顔で言った。

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「あ、これですか?

もう随分前の話ですよ。

いい加減に剥がさないといけないのですが、子供たちの親たちが今もこっちに来るんですよ。

皆さん、もう結構良いお年なんですがね、、、

未だに何か変わったことがないか?って

もう何十年も経っているというのに、、、

だから、中々捨てられずにいるんですわ」

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悲しげにうつむく店主を前に、俺は何か言いかけたが、途中で止めた。

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店内に鳴り響く安っぽいBGMがどこか寒々しかった。

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Fin

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Presented by Nekojiro

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