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短編2
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肥満

体重計の電源を付けると、0という数字がTさんの目に飛び込んだ。

体重計は今か今かとTさんが乗るのを心待ちにしているようだった。

できることなら今すぐ、体重計なんか粗大ゴミに捨ててやりたい。Tさんは体重計の前で煩悶する。

だが、現実を見ようとしなければ変わることはできない。

Tさんは深呼吸し、決意を固めた。

 よし

天井を仰みるようにして、体重計へと一歩を踏み出した。

─二秒─三秒─四秒─、沈黙が過ぎていく。

Tさんの視線は天国から地獄へと、天井から体重計へと落とされた。

 Error

エラー表示。

計れていなかった、ようだ。

ほっと胸を撫で下ろすTさん、と同時にTさんは少し情けなくなった。

さっき決意したではないか、現実からは目を逸らさないと。

エラー表示に胸を撫で下ろした自分に腹が立ってきた。

体重計の電源を付け直すと、再び0の表示がTさんの前に現れる。

しかし、先ほどように怖気付くようなことはなかった。

今度ははっきりと目盛りを直視しながら、Tさんは体重計に両足を乗ける。 

0  17  23  31  45  52  67  71  78  87

どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん。

目盛りがありえないスピードで推移していく。

91  102  145  165  179  182  197  200

Error

なんで?

それはまるでエレベーターに乗り合わせるように。

次から、次へと。

体重計へ、人が乗り込んできたように感じ。

全身の毛が総毛立ち、スゥーッと血の気が引く。

貧血の症状のようにクラッと立ち眩んだTさんは、その場にへたりこんでしまった。

体重計に覆いかぶさるような姿勢でTさんは呼吸を整える。

ゆっくりと、吐いて、吸って、吐いて、吸って。

しばらくすると血が巡りはじめたのか、Tさんは現状を把握する余裕ができた。

自分の手の平は煤けて黒ずんでおり、おまけにやけに焦げ臭い。

つんと鼻を突くような匂いに、思わず視線が吸い寄せられた。

体重計があった。

体重計は煤に塗れたように黒ずんでいる。

いや─。

赤ちゃんほどの足跡。

赤ちゃんほどの小さい足跡。

黒ずんでいると思ったのは、その足跡が無数につけられていたのだ。

Tさんは今でも、この出来事がトラウマなのだという。

このことをきっかけにある決心したのだという。

もう、やらない。

もう、やらないんだ。

もう─。

子供は、下ろさない。

そう、決心したという…。

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@アンソニー
😁

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