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短編2
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父の秘密

子供のころに外国人を初めて見たときは、天狗は本当に実在していたのかと驚愕したものだった。

酔っ払って顔を真っ赤にした鼻の高い生き物、子供心にはそれが天狗に思えたのだ。

その人はよく家を訪ねてきては、父と二人だけの静かな酒宴を催していた。

ふだんは無愛想な父がそのときだけ無邪気に笑っていた。

その人はお酒をあおっていくうちにやがて天狗へと変身を遂げる。

父の顔色もそのころには真っ赤なのだが、それは天狗というよりもどちらかといえば鬼だった。

酔っ払った父の目は血走っていて、私はそれが心底恐ろしかった。

これが幼いころの思い出。

父についての思い出の全てだと言っていい。

それ以外に思い出はなかった。

 来年の春、私は高校生になる。

今までは自室で勉強していたのであったが、その年は父の書斎を勉強部屋として使うことにした。

今まで以上に勉学に集中するために、それがベストな環境だと考えた結果だった。

母によれば、仕事中の不慮の事故により父は亡くなったらしい。

父はどんな仕事をしたのかと尋ねても、なぜか母は教えてくない。

母は頑なに喋ろうとしなかった。

私に決して嘘をつかない母のその態度をみるに、何か言うことのできない事情があるのは確かだろう。

私はそれ以上、追求はしなかった。

だが思わぬきっかけから、これは進展を見せることになる。

 それは書斎で勉強をしていたときのことだ。

かつては書斎に本が溢れていたのだが、今ではそれらの全てが段ボール箱で埃を被っている。

空っぽの本棚に囲まれながら、私は参考書の問題をだらだらと目で追いた。

 わからない

いざ参考書というものを買ってみたのだが、これは学校の教科書と何が違うのか。

わかりやすい、それが売りなのだろうか。

だが、その違いも判別できないほど私は頭は出来が悪い。

受験なんて無くなってしまえばいいのに、そんな独り言をぶつくさと呟く。

全てを投げ出すように伸びをした私は、ふと天井にうっすらと浮かぶものが目に付いた。

 模様?

椅子に飛び乗った私は、もっと顔を近づけて確認した。

 羊と星

どこかで見たことがある紋様だった。

私は椅子に座り直しながら、Googleで検索をかける。

 羊 星 模様 検索

時が止まったように、私は呼吸するのを忘れた。

 悪魔崇拝

検索して出てきたものは、そんな言葉だった。

書斎に緊張の糸が張り詰めた気がして、私の全身は刹那に総毛だった。

いったい…。

父はいったい…。

父はいったい、何者なのか…。

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