長編9
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ズレた現実

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これは、大学時代の話。

例により、

夏に恒例の、心霊スポットツアー。

「どこ行くー?」

「あそこの橋は?」

そんな、話し合いの末、

まだ、行った事のない、

廃虚となった精神病院に向かう事になった。

ここら辺では、

かなり有名で、かなりの心霊スポット。

しかし、

『屋上には、決して行ってはいけない』

いかにも、

お約束通りの噂があった。

何やかんやで、

12、3人くらいで行ったと思う。

(私の学科では、

新入生を怖がらせる為に、

1度、心霊スポットツアーに連れて行くのが、恒例行事だったのだが。

その場所に着き、みんなが車から降りた後に、

隠れてた先輩が、思いっきりクラクションを鳴らす、と言う、ベタな怖がらせ方をしていた。

しかし、意外にも、新入生は驚き、

怖がる。

まぁ、その結果、、

新入生を含めて、この様な人数に、、、。

今思うと、

そんな大人数で、心霊スポットに行くなんて、有り得ない、、、)

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その廃病院は、

夜中でも、車で40分程かかる。

しかし、

いざ着いてみると、

クラクション効果も有ったのか、

(いやいや、ちゃんとネタばらしは、、した。)

中に入りたくないと言う、ヘタレ続出。

そうして、

結局、私と、女の先輩、

あと、男性が4人、

6人で、

高い柵を乗り超えて、中に入った。

懐中電灯も無く、

しかし、

運の良い事に、月明かりがあった。

まず、入口を開けると、

酒の空き缶、タバコの吸殻、雑誌、、

"夜露死苦" とか、

"〇〇参上!!" とか、

明らかに、

観光地になっていた。

みんな、

ちょっと怖さが半減した、、、

ようにも思えたが、

1階から2階に上る時、踊り場の壁に、

『上には行くな』

と、変な赤いスプレーで落書きがしてある。

一緒ビビったが、

やんちゃな方の

イタズラ書きだろうと、誰も気に止めなかった。

2階に上がる。

そこには大量のカルテやら、注射器、変な瓶、

処置ワゴン?と言うのでしょうか、

それがひっくり返っていたり、、、

と、酷い有り様だった。

( 何で、このままで放置されてんの?)

そう私は思ったのだが、

女の先輩は、私の左腕に、

これでもか、と言うくらいに

ギュッとしがみついて俯き、

怖くて、周りを見れないようだった。

私は、薄暗い中で、回りの様子を伺っていた。

( やんちゃな連中がいるかも知れない、、

そんな、別の意味での警戒心もあった。)

両脇に、部屋が幾つもある。

部屋の扉は開け放たれていたり、半開きだったり。

私は、順々に部屋の中を覗いて行ったが、

窓の無い部屋、

例え、窓があったとしても、鉄格子が取り付けられている、そんな部屋ばかりだった。

( まぁ、精神病棟だしな、、、)

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そして、突き当たりまで来て中に入る。

結構、広い空間に出た。

「ここって、何の部屋なんかな?」

薄暗闇の中で、誰かが言う。

そこには窓があり、月明かりに照らされて、大小様々な椅子が倒れていたり、

訳の分からない紐や、

色んな物が散らばっていた。

( あまり、よくは見えなかったが。)

しかし、

窓には鉄格子は無かった。

「何かの治療部屋だよ」

誰かが言った。

暫くの間、

何故だか、みんなは動こうとしなかったが、

不意に、

「あれっ? Sは?」

誰かが、気付いた。

1個上の先輩である、Sさんがいない。

戻ろう、

Sさんを探した。

「おーい、Sー!!

どこにいんだよーーー!!」

すると、右側にある部屋から、

突然にSさんが、顔を出した。

( Sさんは、

少々、個性的な顔立ちをしていらっしゃり、

余計に、みんなビビった。)

「うわっ、ビックリしたぁー 、、、

つーかさ、何してんだよ!!

心配しただろっ!!」

「あー、

めんご、めんご。

何だか、この部屋が気になってさ、

入ってみたんだけど。

まぁ、何も無かったんだけどね。」

そう言いながら、

Sさんが部屋から出ようとした時だった。

重たそうな扉が、バタンっと閉まった。

( えっ、、、?)

みんな、呆気に取られた。

Sさんは、悪戯好きで、

そこに居たみんなが、

" Sの事だから、

また、わざと怖がらせようとしてんだろ? "

と、あまり気にして無かった。

「おぃ、もう良いからさ、

こんな所で冗談とか、やめろよ。

もう、帰るぞ!?」

誰かが、そう言ったのだが、

Sさんは一向に、出て来ない。

「Sっ!いい加減にしろよっ!!」

その瞬間かも知れない。

ドンドンドンドンドンッ!!

ドンドンドンドンドンッ!!

ドンドンドンドンドンドンッ!!

と、部屋の中から、

扉を激しく叩く音が聞こえた。

私達は正直、怖かった。

例え、Sさんの冗談だったとしても。

誰かが、ブチ切れた。

「笑えねぇんだよっ!!

早く出て来いよっ!!」

そう言って、誰かがドアを開けた。

みんな、部屋の中を見た。

窓も無い、真っ暗なその部屋の隅っこで、

かろうじて見えたSさんは、

膝を抱えて座っていた。

「おぃ、S!大丈夫かっ!!」

誰かが、2、3人駆け寄る。

そして抱えられながら、

Sさんは、部屋から出て来た。

薄暗がりの中で、よくは分からなかったが、

Sさんは、かなり無表情だったように思う。

「もう、帰るぞ、

Sも心配だし、、、。

とにかく、早くここを出るんだ、」

Sさんを抱えているらしき、誰かが言った。

すると、

「大丈夫だよ、

Sは、ちょっと動揺してるだけだって。

それよりさ、

せっかく来たのに、

3階とか、

行ったらヤバいって言う屋上とかさー、

みんな、行きたくないの?

その為に来たんじゃん?

ここで帰るって、つまんなくない?

なぁ、行こうよー」

誰かが言う。

「そんな場合じゃ無いだろっ!

お前、バカかっ!!

みんな、帰るぞ。良いな!?」

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私達は一目散に、今来た道を戻る。

壁の落書きも、ゴミも目に入らない。

そして、男の先輩達が、

何とかしてSさんの身体を、

持ち上げ、引っ張り、高い柵を乗り越えさせて、敷地内から外に出した。

( Sさんは、

個性的な顔な上に、身体がでかかった。)

外では、ヘタレ達が心配気な顔をして、

車の前に立っていた。

「帰るぞー!」

みんな、4台の車にそれぞれ乗り込み、

急いでその場を離れた。

私は、みんなが車に乗り込む時に、

「みんな!後ろ、振り返らないで!!

絶対に、振り返ったらダメだからっ!!」

とだけ、叫んだ。

私は、Sさんとは違う車に乗ったので、

その間、どういう状態だったのかは知らない。

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その後、誰かの家に、、と言うのも、

正直怖かったので、

新入生達を帰らせ、

私達は、途中のファミレスに寄った。

そこには、

廃病院に入った6人と、

1個下の女の後輩1人だけが残った。

みんな沈黙だった。

ウェイトレスのオーダーにも、

後で、、、と、

みんなの前には、

水の入ったグラスだけが、置かれていた。

誰も喋ろうとしない。

Sさんは俯いていて、

軽く震えてたように思えた。

(おぃおぃ、

誰か、Sさんに、声を掛けないのかよ?

このまま、誰も喋らないんだったら、

あんたらは、一生、

このファミレスにいるつもりなんかいっ!?)

と、私は思い、、、

話を切り出した。

「ねぇ、Sさんさ、

あの部屋で、何かあったん?」

沈黙が続く。

きっと、みんな、

Sさんの身に起きた出来事を知りたかった。

「ねぇ、Sさん、、、

扉?叩いたのって、Sさんなん?

でも、私達が扉を開けた時には、

Sさんは、部屋の隅っこにいたよね?

何か、あったん?」

「Sさ、オレら、

かなり心配したんだぞ?

オレは2浪して、Sと同じ学年で入学した。

お前とは、何でも話した仲だろ?

、、話してくれないか?」

先輩のNさんが、優しく語り掛けた。

それから、少し経って、

Sさんが、顔を上げた。

そして、ポツリ、ポツリ、と話し出した。

「オレ、さ、、、

、、みんなと歩いてて、、、

何か、左の部屋を見たんだよね、、、。

、、そしたらさ、

中に入ってみたくなった、と言うか、、、

何でか分かんないけど、

入っちゃってたんだよ、、、。

中、真っ暗でさ、、

何か気味悪いって思って、

すぐに、部屋から出ようとしたんだけど、

変に、、居心地良いんだよな、、、。

でさ、隅っこに座ったんだよ。

だけど、、、何か変だなって。

急いで扉を開けようとしたんだけど、

開かないんだよな、、、

扉が。

オレは、必死に扉を叩き続けたんだけど、

パニックになって。

部屋の外からは、

全然、音とか聞こえないし。

オレが音を立てなきゃ、

静か過ぎて、

キーーーンッて、耳が鳴るんだよ。

だから、オレは、

部屋の中をウロウロと歩き回りながらさ、

どうやったら、助かるんだろって。

そればかり考えてた。

何でか、

みんなの存在も、頭から消え失せててさ。

、、、

、、そしたら、、、

いきなり扉が開いて、、、

みんながいたんだ。」

病院の中に入った6人は、状況が上手く飲み込めない。

Sさんの話と、現実が違う。

しかし誰も、Sさんの話に対して、

提言する者はいなかった。

いや、出来なかった。

それから、、

少し間を置いて、

Nさんが、言った。

「そういえばさ、

Sが大変な時に、3階に行こうとか、

バカな事、言ったヤツ、、誰だ?

男の声だったから、

お前ら2人の中の誰かだろ!?

悪いが、オレはかなりムカついてるから、

説教するからなっ!!」

しかし2人は、

そんな事は、絶対に言っていないと言う。

「ウソつけっ!

誰かが言わなきゃ、誰が言うんだよっ!!」

私達の他に、

7人目がいた、と言うのだろうか、、、。

私は、そう思わざるを得なかった。

2人の様子を見て、

ウソをついているようには、

到底、思えないし、

しかも何故、あんなにも、

3階や、屋上へ誘ってたのか、、、。

更に、私には、

あまり聞いた事の無い声色だったように思えた。

どこか腑抜けてて、、

しかし、惑わすような意思を持った声。

突然、

後輩の女の子が、

声を震わせながら言った。

「わ、わたし、、、

病院から帰る時に、、、

Kさん ( 私の事です ) に、

振り返るなって、い、言われたのに、

一瞬だけ、

ふ、振り返っちゃったん、です、、。」

みんなは、黙って後輩の女の子を見た。

「そ、、したら、

あ、あの、、、

いやっ、見間違えですよ?絶対に!!」

「何か、見たん?」

私が、そう聞くと、後輩は頷いた。

「何を見たんか、話せる?」

後輩は、躊躇いがちに言った。

「、、、

あ、あの、、窓から、、、

た、ぶん2階の窓から、

誰かが、、、

こっち、見て、たんです、よ、、。

あっ、ほんと、見間違えだと思います!!

すみません、余計な事を言って、、」

重たい空気が流れた、、、

、、、、、、

と、思ったが、

女の先輩が (1番最年長 )

「ま、良いじゃん?

とりあえず、Sも大丈夫そうだし。

あっ、すみませ〜ん!

ビール下さ〜い!!」

その一言で、雰囲気は変わった。

運転手のNさんともう1人の先輩以外は、

軽くビールを飲み、

あ、勿論、Sさんも。

( Nさん達は、非常に悔しがっていたが )

そして、

何となく、意味不明のまま、

その出来事は終わった。

もっとも、

これ以上、あれこれ考えてみても、

結局は、明確で納得のいくような答えなど、

出やしないと言う事を、

みんな何となく理解していたからだと思う。

separator

それでも懲りずに、

私達は、

心霊スポットツアーに出かける。

後に聞いた話だが、

あの廃病院には、精神病棟ならではの、

内側からは開ける事の出来ない部屋が、

存在するらしい。

鍵も無くて、外からしか開けられない。

あくまで噂だが。

Sさんの入った部屋が、

その部屋だったのかも、

と考えてはみるものの、よくは分からない。

そして未だに、私を混乱させるのは、

あの時の、Sさんの話と、

私達の体験とのズレ、、違い、、、。

何だったんだろうと、たまに思い出す。

あの廃病院が、

取り壊されずに残っているのは、

取り壊す資金が無かったとの事で、

しかし、2、3年前に、

あの廃病院が取り壊されたと言う話を、

大学時代の友人から聞いた。

何故か、私は安堵した。

そして、

私だけが知っているのだが、、、

例の、その女の先輩は、

威勢が良く、いつも強気なのだが、

かなりのビビりで、怖がりだ。

よく、あの時に、

病院の中まで入って来られたなぁと、

ビックリするくらい、

心霊スポットや幽霊、云々、、大の苦手だ。

だから、あのファミレスで、、、

耐えきれずに、ビール??

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