【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編5
  • 表示切替
  • 使い方

カラスのようなもの

42歳 (農業)

世の中には頭の良い動物ってのが居る…

まぁ、それが犬みたいに役に立ったり

鯨みたいに海の底の関係無い存在ならそれで良い。

だが、敵に回る生き物だと本当厄介なんだわ。

「おーい、山元さの果樹園がやられたみたいだぞ!」

隣の爺さんがボタの上から身振り手振りで話す。

耳が遠いんで俺の言葉は聞こえないんだが

俺は思わず叫んだ。

「ええ!?またかぁ!」

ここ数ヶ月、突如として居座った連中の群れに

俺の村はてんやわんやの有り様だった。

害獣部門被害額、第三位。

鳥に限定したなら堂々一位のカラス様ご一行だ。

日本で毎年16億円もの農作物を食い荒らす連中に居座られてしまっては

俺が住む小さな村は充分に死活問題だった。

最初は罠を仕掛けたんだが、見慣れない物が現れると

連中は警戒し仕掛けた餌には見向きもしない。

狩猟免許を持つ奴に依頼して撃ち落とそうって事になった。

そりゃ、最初は上手く行ったんだけどさ

すぐに散弾銃を持ってる奴がヤバイと覚えてな。

散弾銃を見るや、さっさと逃げるようになった。

逆に散弾銃を持ってなければ、やりたい放題ってのも覚えやがった。

お手上げだわ。

ネットで調べたらカラスって奴は小学生位の思考をしてるらしい。

1人が先生を見張って教室で悪さをするってのは

俺も小学生時分は散々やったがカラスにやり返されるとは思わなかったなぁ。

しばらくして例の果樹園の山元さん(高齢者)が運転する軽トラがガードレールにぶつかり大破…

山元さんは入院となった。

道で轢かれたタヌキだかを啄んでるカラスを見かけた山元さん。

果樹園の恨みとばかりにアクセル全開で突撃したんだが

カラスはヒョイとガードレールのあちら側へ避けてしまった。

怒り心頭でカラスだけ見てた山元さんは、そのままガードレールへ…

一体どうしたら良いのか?

ウチだって山元さんほどではないにせよ馬鹿にならない損害を与えられているのだ。

カラス撃退!農家を襲う凶悪カラスが一目散!!

休憩の合間に携帯から眺めていたネットオークションで、カラスのような物を見かけた俺は

スクロールする指を止めた。

商品はカラスの模型だった。

畑の横に竹竿を立ててロープで吊るし見せしめにする事でカラスを寄せ付けないって昔ながらの代物だ。

既に銀テープを張ったり廃棄CDを下げて何ら効果を得られなかった俺だったが

写真で見る限り、その模型は実に良く出来ていた。

よくあるプラスチック製の物ではなく、羽毛まで生えて細かく再現されている。

送料込みで五千円は痛いが試しに1つ買ってみようと俺は落札した。

三日も過ぎた頃、荷物は届いた。

段ボール箱を開けると厚手のビニール袋に

カラスのような物は入っていた。

重さも実際のカラスぐらいはありそうでズシリと重い。

見た目は期待通り羽毛はもとより、半開きで光る目も細工が細かく

人間だって知らなければカラスの死骸に見えるだろう。

小学生位の知恵があるってんなら小学生並みの騙しには充分引っ掛かるだろうよ。

俺はさっそく竹藪から手頃な竹を一本切ると

荒縄で模型の足を縛り畑の横に晒した。

近くの柿の木に一羽がとまり、ジッと此方を見ている。

「お前もこうなりたくなかったらな!ウチには来るんじゃねーぞ!!」

俺は腕を振り回し言ってやったさ。

「ガァーッ!ガァァーッ!」

カラスは一鳴きすると飛び去って行った。

「ざまーみやがれ!」

俺は気分良く軽トラに乗ると最近出来たホームセンターで買い物を済ませた。

買った荷物を積み込み駐車場から出ようとした時、隣の爺さんの軽トラが入れ違いで入って来た。

軽く会釈をしてスレ違おうとしたが爺さんは慌てた顔を窓から出して何かを言っている。

「どした?草払い機からガソリン漏れたか?」

俺は窓ガラスをハンドルで下げると笑いながら聞いた。

「早く…早く家に帰ぇれ!大変だぞ!」

爺さんは買い物ではなく俺を探していたようだ。

理由を聞いたが、耳が遠いんでどうにも要領を得ない。

帰れと言われるまでもなく帰るつもりだった俺は

爺さんからあれこれ聞き出すより帰った方が早いと軽トラを走らせた。

俺は唖然とした。

あの柿の木には枝が見えなくなるほどカラスがとまり

俺の家を包囲するように電線や農機具小屋の屋根に…

千羽はいるだろうか…無数のカラスが俺を見ていた。

「なんだって…こんな…」

俺は連中の視線の中心に例のカラスの模型がある事に気付いた。

「ギャー!ガァァーッ!!」

カラスどもは化け物じみた怨嗟の鳴き声をあげ

俺を威嚇する。

クラスの誰かがやられたら集団で仕返しをする…

小学生並みの思考を連中はしたのだと俺は思った。

「ギャアァ!グガァアァ!!」

更に威嚇は続き模型に近付く事すら出来ない。

足がすくむ…

今にも一斉に飛びかかって来るんじゃないかと俺は震えた。

小学生とは違い連中にこれは模型だと説明する術は無い…

ダーン!!

一斉にカラスが舞い上がる。

隣の爺さんに呼ばれた猟師が空砲を撃ったのだ。

俺は無数のカラスが俺の家の上空を幾度も旋回する様を

この世の終わりを見るような気分で眺め続けた。

この一件を動画に撮っていた奴が居たらしく

数日後にニュースとなった。

カラスの大群がサークルを描く様は迫力があったのだろう

テレビ局は大学の専門家を呼んで特番を組んだようだ。

昨日、テレビ局の人間がカラスの模型を譲って欲しいと来た。

あれからアチコチに謝って歩き、もうコリゴリだった俺は持って行ってもらった。

その模型が机の上に展示され番組は始まった。

要約すると

村のカラス対策が功を奏して来た時期と農閑期が重なり

それまで増えるに任せていたカラスが一気に餌不足に陥ってしまった事が原因の1つ。

またカラスには共食いの習性があると言うこと。

俺が模型だと思って購入したカラスは海外で防腐剤に漬け込まれた本物だったんだと。

つまり、俺は間抜けにも腹を減らした連中の前に餌をぶら下げたわけだ…

「なにが小学生並みだよ…」

連中は模型だと騙された俺と違って、本物のカラスの死骸だと見抜いたわけだ。

俺よりよほど切れるじゃないかよ…

俺は、ちゃぶ台の上のビールを飲み干すとテレビを消した。

Normal
コメント怖い
0
6
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ