本作は全てフィクションです。
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10帖くらいはあるだろう広いスペースには毛足の長いベージュのカーペットが、敷き詰められている。
壁沿いにはイタリア製のオーシャンブルーのソファーセット。
白い壁には何が描かれているか分からない抽象画が何点か飾られ、反対側の壁には50インチはありそうな大型の液晶テレビが設置されていて、深夜の通販番組を放映していた。
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部屋中央にある大理石の大きなテーブルの前で男女が向かい合って座り、ワイングラスで乾杯をしている。
カチンと心地よい音が響き渡った。
テーブルの真ん中には、カラフルなイタリアンが盛られた皿が並べられている。
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「ユカ、20歳の誕生日、おめでとう」
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男はそう言って、グラスに入った琥珀色の液体を一気に飲み干した。
歳は40代後半くらいだろうか。
オールバックの黒髪にはチラチラと白髪が混じっている。
角張った精悍な面構えに口髭がダンディーな印象だ。
タオル地の白いガウンの日焼けした胸元からはゴールドのネックレスが覗いている。
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「パパ、今日はユカのために大事な時間を作ってくれて、ありがとう」
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ユカという女はそう言ってにこりと微笑むと、グラスのワインを一口飲む。
栗色の艶やかな髪をアップにし、透き通るような白い肌は薄いピンクに上気していた。
男と同じ白いタオル地のガウンを着ている。
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「何を言ってるんだよ。
私は大事なユカのことだったら、どんなに忙しい時でも一番に駆けつけるさ」
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男は歯の浮くようなことを言いながら、ピッツァマルゲリータの一片にかぶりついた。
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「パパには本当に感謝してる。
まだ出会って3年しか経ってないのに最初からこんな素敵なタワマンに住まわしてくれて、毎月お小遣いもくれるし、もちろんユカの店にも週一回は顔を出してくれるし、そして今日はユカが前から欲しかったBMWのスポーツカーをプレゼントしてくれて」
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ユカは自分の言う言葉に感情がこみ上げてきたのか、いつの間にかその美しい瞳は潤んでいた。
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「それもこれも全て、ユカの笑顔を見たいからだよ」
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男はそう言って、満足げに微笑んだ。
だがその微笑みの裏には邪悪な思いが沈んでいた。
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─フフフ、、そうやって喜んでいられるのも今のうちだ。
好きなだけ旨いものを食って贅沢な暮らしをして、脳ミソからじゃんじゃん幸せホルモンを垂れ流すんだ。
そしたらお前の身体はますます油が乗り、どんどん食べ頃に近づいていくだろう。
そして最後はお前の、その柔らかい頬も華奢な肩も豊満な乳房や太ももも、そして心臓も脾臓も全て俺の胃袋に収まる運命なんだよ。
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男は年商50億の中古車販売会社の社長。
その華やかな表の顔に対して裏の顔は、若い女だけを狙って殺害しその肉や臓器を食らう性癖を持つカ二バリスト(人肉愛好家)なのだ。
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「ああ、少し酔ったみたいだよ」
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そう言って男が大きく伸びをして、ふと視線を動かすと、壁のテレビ画面から、けたたましいマーチソングとともに、きらびやかなスタジオの風景が映し出された。
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拍手と歓声の中、スタジオ中央には、白いTシャツの上にいつもの赤い法被を羽織ったMCスマイル藤田と、黒のロリータファッションに身を包んだアシスタント、ゴスロリ花子が並んでいる
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「さあ、それでは、これからはマニアの方々のための商品をご紹介するコーナーに移りたいと思います!
ところで花子ちゃん、あなたはカニバリズムという言葉を聞いたことがありますか?」
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藤田のいきなりの質問に、花子は少し焦った様子で、
「え?カニ?私、タラバガニは大好きなんですけど、それって食べ物なんですかあ?」と返す。
藤田が苦笑しながら、「タラバガニじゃなくて、カニバリズムです
それでは皆さま、あちらの画面をご覧下さい!」
と言うと背後にある大画面に映像が映りだした。
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映像は緑豊かな山あいの村を上空から俯瞰している。
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「ここは山陰地方の山あいにある人口300人にも満たない小さな村なんですが、こちらの村では、大昔から受け継がれている奇妙な風習があるらしいのです」
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藤田の説明の後、映像は切り替わり、今度は広々とした畳部屋が映し出された。
中央にある座卓の上に、カセットコンロに乗せられた土鍋が二つ置かれていて、その前で男女7、8名が賑やかに談笑しながら、箸をつついている。
ビールを飲んでいる者もいる。
どうやら、皆で鍋料理を食べている最中のようだ。
皆、喪服姿だ。
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「現場のミカリーン!」
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藤田が画面に向かい呼び掛けると、「はーい!」と元気な若い女性の声が聞こえてきて、画面手前に、白いスーツ姿の女子アナ、ミカリンが現れた
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「藤田さん、花子ちゃん、こんばんは~!
私は今、山陰地方のH村にある大田原さんのお宅にお邪魔しておりま~す。
実はですね、今朝のことなんですけどお、こちらの当主である大田原源蔵さんがお亡くなりになられたんですう。
え~ん、、、ミカリン悲しいですう。
それで今晩がお通夜で、こうやってご家族やご親戚の方々が集まっているんです。
それでは、こちらの方に聞いてみましょうか」
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そう言ってミカリンは、一番上座に座っている喪服姿の中年男性に声をかける。
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「こちらは大田原家のご長男である源一郎さんです。
源一郎さん、こんばんは~」
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源一郎は既にかなり出来上がっているようで、耳たぶまで真っ赤にしながら「どうも~」と、答えた。
角刈り頭で恰幅の良い、人の良さそうな感じをしている。
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「あの、今晩は源蔵さんのお通夜ということなんですが、これは、なんだか宴会のような集まりになっていて、皆さん寛いでおられて、とても普通のお通夜という感じではないんですが、これが、この村では当たり前なんですか?」
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とミカリンが質問をすると、源一郎は「亡くなった人を残された者たちで景気よく賑やかにお見送りする、、これがH村のやり方なんだわ」と頭を掻きながら照れ臭そうに答える。
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「ところで源一郎さん、この暖かい季節に皆さんで鍋料理というのは?」
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ミカリンの質問に、源一郎は「ああ、これ?」と言って煮えたぎる鍋を指差した後、体を捻らせ、ピンクに染まった顔で、こっそりミカリンに耳打ちする。
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「これはな、わしの父ちゃんなんだわ!」
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「は?」
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意味が分からずにミカリンが聞き返すと、改めて源一郎が説明しだす。
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「うちの村ではなあ、身内が亡くなったら、埋めたりも焼いたりもせずに、家族や親戚一同で一緒にご馳走になるの!」
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「ええ!!
食べちゃうんですかあ?」
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「そう、そしたらな、ほら、ずっと、その人はわしたちの体の一部になるじゃろ。
そういうことで、この村の衆の体にはな、今までのご先祖様の魂が脈々と受け継がれておるんじゃ。
だからな、今もこうしてみんなで食ってあげてるの。
それがなによりの供養なんじゃ!
でもな悲しいことにな、最近の若いもんはみんなお上品になってしまったのか、形が残っておるから、無理って言う奴がおるんだわ。
全く困ったもんじゃ」
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「形?」
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「うん、例えば、これなんか、そうなんだけどな」
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と言って源一郎は手元にある器を持ち上げると、箸でその中の一つを摘まんで、ミカリンの目前にもってくる。
湯気の立ち上るそれは、まるで何かふやけた白い芋虫のようだ。
彼女はしばらくそれを見ていたが、突然眉毛をしかめると「ゲゲエ!ちょっと、源一郎さあん、これ、『指』じゃないですかあ」と言うと、両手で口を押さえて後ろにのけ反った。
源一郎はミカリンの反応が面白いのか、さらに別のものを摘まんで、彼女の目前に持ってくる。
それは白いオタマジャクシのように見える。
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「ぎゃあああ!目ん玉ああ!」
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ミカリンは耐えきれずとうとう立ち上がり、その場を離れようとするが、源一郎がニタニタしながら、箸に摘まんだものを「ほれ、ほれ」と言って彼女に迫ってくる。
ミカリンは悲鳴を上げながら、畳の上を逃げ惑いだした。
座卓の前に座る家族や親戚は、その様子を見てゲラゲラ笑いこけていた。
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画面はここで、ブラックアウトした。
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スタジオ内はシンと静まり返っていた。
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静寂を破ったのは、アシスタントの花子だった。
深刻な表情で藤田に尋ねる。
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「あの、、、こんな村、本当にあるんですか?」
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「もちろんです。
これはフェイクでもなんでもなく、本当に実在する村なんです。
確かに、この風習というのはある意味、かなり野蛮なものです。
でもこれも立派な日本の地方文化の一つなんです。
ただ一方で、さっき映像の中で源一郎さんが言っていたように、鍋に浮かぶ、その元々を想像させる『形』というものから、この稀少な文化を毛嫌いする若い人たちが現れてきているのも、事実なんです。
これは悲しいことです。
平安の頃からH村で受け継がれているという、この伝統的な文化を、私たちの力によって守ってあげたい!
そんな熱い思いから開発されたのが、これからご紹介する商品なんです!
それでは、よろしくお願いいたします!」
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盛大な拍手と歓声の中、藤田の声とともにスタジオ袖からは、大人の背丈ほどの高さの巨大な炊飯器らしきものが、台車に乗せられて現れてきた。
台車を押す二人の若い女性スタッフの後ろからは、白衣姿の男性が二人付いてきていて、そのうち一人は、大きな白い布袋を乗せた台車を押している。
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白衣の男性二人が、藤田の隣に立つ。
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「さあ、それでは、皆様にご紹介致します
私の隣の男性が、株式会社ホタテ電気 開発部長の、岸川昇さんです!」
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盛大な拍手の中、アフロヘアーを緑色に染めた銀縁メガネの中年男性が、微笑みながら礼をした。
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「そして、その隣で台車の前に立っているのが、皆様お馴染みの、町立歌舞伎町大学医学部の上席研究スタッフ、毒島さんです」
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阿部○似の長身の毒島が、爽やかな笑顔で礼をする。
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「それでは、ホタテ電気の岸川さん、商品のご説明をお願いいたします」
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藤田に言われて岸川は、巨大な炊飯器もどきの傍らに立ち、説明を始めた。
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「日本の大事な地方文化の灯火を絶やしてはならない!
私たちはその熱い思いだけで8年もの間、この商品の開発に没頭してきました。
問題は、どうすれば元々の片鱗さえ想像させないくらいに形を無くしてしまうか、ということでした」
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「そこで出来上がったのが、この究極の圧力鍋『トロトロくん1号』なのです。
ご存知の通り、通常の圧力鍋というと、単なる日常料理のお手伝いをする程度のものなんですが、この『トロトロくん1号』はそんな生易しいものなんかではありません。
こいつはどんなに固い食材でも、ごく短時間で簡単にトロトロにしてしまい、元々が何だったのかさえ分からなくしてしまうという超優れものなんです」
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─おおおお!
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スタジオ内に、大きなどよめきが起こった。
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「それでは、毒島さん、よろしくお願いいたします」
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岸川に言われて毒島は、大きな白い布袋を台車に乗せたまま、「トロトロくん1号」の傍らに移動する。
そこには、脚立が準備されていた。
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「あのお、すみません、その袋には何が入ってるんですか?」
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ゴスロリ花子が恐る恐る毒島に質問する。
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彼は「ご覧になりますか?」と言ってニヤリと笑う。
花子は毒島の側に寄って、開かれた袋の口から中を恐々覗き込んだ。
とたんに彼女は小さな悲鳴を上げると、両手で口を押さえたまま、スタジオ袖に走り去って行った。
スタジオ内にどよめきが起こる。
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「毒島さん、その中には、何が入ってるんですか?」
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改めて藤田が質問する。
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毒島が爽やかに微笑みながら説明を始めた。
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「はい、この袋の中には、先日、都内の某所で発見された男性のバラバラ死体の一部が入っております。
関係者から特別に許可をいただき、今日はお持ちしました」
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スタジオ内がまた、シンと静まり返った。
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説明を終えた毒島は、その布袋を片手に提げて脚立に足をかける。
そして、おもむろに袋の口に手を突っ込むと、中から人の腕と思われるモノを取り出してきた
それは既に皮膚が紫に変色しており、切断部に赤い肉片が覗いていて生々しい。
スタジオ内のあちこちから、悲鳴が聞こえてくる。
彼は、鍋上部の蓋を開くと、その腕を中に放り投げた。
そして次々と、人体のパーツを、鍋の中に放り込んでいく。
最後は生首の黒髪を掴んで放り込み、蓋を閉じると、笑顔で親指を立てて、岸川に合図を送った。
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「どうやら準備が整ったみたいなので、この液晶パネルで設定を行いたいと思いますが、その前に藤田さん、普段のお料理は、辛口、甘口、どちらがお好みでしょうか?」
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いきなり岸川から質問をふられた藤田は、少し戸惑いの表情を見せた後、「そうですねえ、どちらかというと、辛口ですかね」と答える。
「分かりました、辛口ですね」
そう言って、岸川がスタジオ袖に向かって合図をすると、若い女性スタッフが、台車に乗せたポリタンクを押しながら持ってきた。
中には八分目まで、液体が入っている。
岸川は鍋の蓋を開け、脚立に足を乗せて、そのポリタンクに入った飴色の液体を、中に流し込んでいく。
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「あの、岸川さん、この液体は?」
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藤田が尋ねると、岸川は「弊社が独自に作った特製スープです。
これにより食材の臭みが消え、味にコクが出てきます」と答えて全てを流し込み終えると、さっさと蓋を閉じる。
それから先ほどの液晶パネルに数回、指でタッチした後、「さあ、これで、セット完了です」と言って、最後にもう一度タッチする。
すると、「ピ~~~!」というけたたましい電子音がして、無機質な女性の声が聞こえてくる。
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「これより高速圧力調理に入りますので、3分ほどお待ち下さい」
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「さあ、これで準備完了しました。
後は、出来上がるのを待つだけです」
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岸川の言葉の後、藤田が続ける。
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「岸川さん、毒島さん、ありがとうございます。
それでは調理が終わるまでに、商品のお値段をご紹介させていただきます。
どんな食材もあっという間にトロトロにするハイブリッド圧力鍋『トロトロくん1号』
この商品は、日常の料理の手助けはもちろん、殺人後の遺体の処理、そして日本の稀少な地方文化の担い手という歴史的な役割まで、幅広くお役に立つこと間違いなしです。
さてお値段ですが、メーカー希望小売価格128万円のところ、今回はホタテ電気さんの暖かいご配慮により、ジャスト100万円、100万円でのご提供ということになりました!」
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スタジオ内に大きな拍手が巻き起こる。
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「分割も、120回までオーケーです。
しかも、只今より30分以内にご注文いただいた方にはもれなく、非力なお年寄りでも簡単に遺体を切断出来る『楽々解体セット』も、お付けします。
こちらのセットに入っている刃物は全て、飛騨高山の刀匠、人間国宝 井原助佐衞文さんの手によるものとなっております」
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ユカがテレビ画面から視線を外した時には、正面で座っていた男は椅子から崩れ落ち、カーペットの上に横たわっていた。
どうやら完全に意識を失っているようだ。
彼女は一回大きくため息をつくとタバコに火を点け、咥えると、立ち上がり、男のところまで歩く。
そして頭部に軽く蹴りを入れ、独り言のように呟き始めた。
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「オッサン、あんたとの腐れ縁も、もう今日で終わりね。
ホント、あんたには色々と美味しい思いをさせてもらった。
ホントだよ、ホントに感謝してるんだよ。
でもごめん、アタシ、新しい男が出来たんだ。
だからもう、あんたは用無し。
ヨ、ウ、ナ、シ!」
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「え?俺をばらしたら、警察に捕まるぞって?
いやいや、世間体を気にするあんたは、アタシとの関係がばれないように、今まで最大級の注意を払ってきたんでしょ。
このマンションの金も車も、如何にもアタシの自己資金から払ったように細工してくれたし、このマンションを出入りするときも、ご丁寧に変装までしてくれていた。
つまり、あんたとアタシの接点は、表向きは、店のキャストと客以上のものはなかったということ。
だから、あんたが、ここでバラされても、誰も気付かないということなの」
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ユカは男の両手を握ると、ズルズル引きずりながらバスルームに向かった。
そして脱衣室の床に男を横たえると、壁にある姿見の一ヶ所を押す。
それは隠し扉になっていて、奥には、細長いうなぎの寝床のような部屋があった。
突き当たりには、ピラニアの泳ぐ巨大な水槽。
右手の壁には、大型の業務用冷蔵庫が二つ。
左手の壁には腰丈のシンク台があり、その上の銀のトレイに、刃先が鈍く光るナタ、小型のドリル、外科用のメスなどが、きちんと並べられていた。
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Fin
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Presented by Nekojiro
作者ねこじろう
その後のユカの活躍を詳しく知りたい方は、過去作、キャバ嬢ユカの高貴な性癖
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