中編6
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令和の集落

自分を含めた実体験です。

具体的な人名・地名はなるべく伏せます。

また、差別的表現がありますが、当事者の意向、及び時代背景を尊重する為に原文通りとしています。

作者側に差別を助長する意図は一切ありません。

ほぼ一年前の出来事です。

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父親が今年で定年退職という年。

円満?な退職が確定している年度の仕事といえば、事務的なものばかりで、後任への引き継ぎと新人の確認(育成とかも部下がやるので自身はほぼ用無し)といったものだ。

妹も、都会のほうで一人暮らしをしている。

必然的に、第二の人生というキャリアデザイン?を周囲も含めて検討していた。

ある休日。久しぶりに一家全員が揃っていた。

父「確か、ユキエ(母の名前)のほうの祖母さんの実家のもっと奥に、Wっていう地区あったな。 」

母「うん、あるよ」

自分「ど田舎だけどね…」

妹「あたしはあんま覚えてねーけど」

父「ああいう静かな所に格安別荘とか無いか?休みの日は家族でバーベキューとか、いいな!」

一同「グハハハ!!」

(※肉食獣一家です(ΦωΦ))

母「そうね〜、Wに今誰も住んでない旧家あるから、一緒に見に行く?」

父「あー、あの家か。何度か自分で行ったことあるから、次の休みに一人で見に行く。今日は別の用事があってな」

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[説明]

このW地区は恐怖抜きでも凄みがある、紀伊山地某所の集落だ。

標高300〜400m級のちょっと高い山を登った所に、複数の家々が点在している。

所謂ポツンと一軒家、もといポツンと一集落だ。

しかし、少子高齢化によって年々世帯数が減少し、

元号が令和になった時点ではほぼ無人となっていた。

現在は一日に数人、ふもとから野菜や花を栽培しているご老人が来る程度。

交通機関など無く、自動車でグネグネした山道を約30分かけて登るしかない。

(自動車が無かった昔の住民は徒歩でこの道を往来していた…

さぞ大変だっただろうが、それだけ健康だったのだろう。

われわれ現代人は本当に平均寿命が伸びるのか?)

と思ってしまう。

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余計な心配はともかく、件の次の休み。

父「今は午前9時半だから、、向こうには車で昼頃に着くな。まあ、晩御飯までには帰る」

そう言って、弁当と水筒を持参して一人で視察に行った。

母は自宅、自分も休日で自宅だった。

妹は都会に帰っていた。

その日の昼御飯を終えて、自分はイラストを描いていた。

午後2時くらいだったか。

シャーッ。玄関が開いて、

母「あれ!?早いなあ」

父「おお、ただいま…」

ん??ちょっと帰るのが早すぎないか、父よ、、、

それに、どうも浮かない顔をしている…何か嫌なことでもあった?

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父「まず、あの家は悪くないな。古いとはいえ電気と水道、ガスも通っているし、静かで、空気もうまい。ただ…」

自分&母「ただ?」

父「…隣の家が気持ち悪い。」

母「まあ、隣も空き家で、別荘候補の旧家よりも古いからね…」

自分「えっ?隣って」

母「レイヨウは知らないのね。隣にW地区の区長だった人の家があるの。旧家よりももっと早くに空き家になったの。私も隣の人の顔は見たことない」

父「俺も隣に空き家があるのは知ってたが、区長の家というのは初耳だ。今日もその隣家の近くに行ってもいない。だが、

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向こうで弁当を食べてから、旧家の周りの草刈りとかしていると、その隣の家のほうから…誰もいないのに見られている、というような気がしてきたんだよ。初めは一人きりで作業しているからそう感じるだけだろう、と思っていたんだが、だんだん気味が悪くなったきてな。これは長居するとまずいと思って、すぐ切り上げて帰ってきた」

自分「マジで⁉」

母「それ、本当?」

自分にとっては、父の発言は想像の遥か斜め上を行くものだった。

父は典型的な職人気質。

高校でも大学でも建設工学を専攻し、「芸術とか宗教とか、意味がわからん。信じるな」と言ったこともある。

土建屋らしい豪胆な男でもある。勿論悪いことはしていないが、ヤ○ザと間違われた事も1度や2度ではない。並の修羅場では動じない。

父の霊感はゼロどころか、マイナス。

霊も、神も仏も、国内外の奇妙な風習も、精神病も、理論では説明できない。そんなものはこの世界にはない、というのが信条だ。

それほどの人間が、「誰もいないのに見られている」「気味が悪いから帰ってきた」。

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隣家とは一体、、、

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その話を聞いて、自分自身の記憶が蘇ってきた。

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まだ幼い頃、歳が近い親戚の子2人〈ユミコとケン〉と自分とで、あの旧家で遊んでいた。

あの時はまだ旧家に母方の曾祖母が健在だった。W地区全体でもそれなりの人が住んでいた。

3人であちこち駆け回っていて、ふと気づくとあの隣家のそばにいた。

少しの間周りを見渡すと、あるものが目についた。

物干し竿、のようなものだった。二本のY字型の縦棒があり、それを支えとして長い鉄の横棒が掛けられている。

異様だったのは高さ。洗濯物を干すには高すぎる。2m以上あった。子供だったからそう見えただけかもしれないが…

だが、さらに異様なものがあった。

先端を輪っかにしたロープ。

この時はまだ首吊りという言葉も知らなかった。が、子供心に恐怖感を抱いた。

自分「これ!おかしなのがある!」

他の二人を呼ぶ。

ケン「えー、レイヨウ、なんにもないじゃん」

ユミコ「これはあれ、せんたくものを干すやつだよ」

自分「それはそうだけど、ほら、ここ、、、なんかがひっかかってる」

そう言ってロープを指さしたが、

ユミコ「うん?何にもないよー」

ケン「おいおい、ヘンなこというなよ!」

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それから十数日くらいが経った。

あの旧家は住むべきではないのか、父と顔馴染みのYさんという人に視てもらう事になった。

Yさんは見た目は普通のおばちゃんだが、実はかなりの霊感があるらしい。

占いも当たる、らしく地元では評判が良い。

ただし父が信頼しているのはそういう方面ではなく、「占いが当たる、霊感がある、でもそれを商売にしたくはない」というYさんの気前が良い人柄の方なのだが…

Yさんは旧家に着いてすぐに

「うん、確かにこの旧家は問題ないわね。間取りも方位も適当だけど、住むだけなら大丈夫。

でも、アキオ(父の名前)さんが言った隣の空き家、あそこは問題ありね」

父「あー、やっぱりそういうことですか…」

で、旧家に上がり、件の隣家を近くで視たYさんが言った。

「うわあ、田舎って凄いねえ」

父「凄いというのは?」

Yさん「この家…奥の蔵のあたりに座敷牢があるよ。知能に問題がある人かな?そういう人が閉じ込められていたね」

父「!?」

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この話を読まれている方なら、ご存知の方も多いだろう。

座敷牢…閉鎖的な集落で、世間体を保つ為に、今で言う障害者や難病者を隔離し、面倒を見るために設けられた、自宅内の牢獄のような部屋。

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一連の出来事の後、母方の祖母は昔話をしてくれた。要約すると

祖母「私は高校生くらいの時まであの旧家に住んでた。その隣の区長の家は、大きな蔵とかがあって、住んでた人も別に悪い人では無かった。でも、良くない噂があった。

あの家には知恵遅れ(今で言う知的障害)の人がいて、座敷牢に閉じ込められている、と。

実際に見た人はいない。でもW地区のどの家もそう言っていた」

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Yさんはやはり視える人だった、という事だろうか。

なぜなら、隣の空き家の件は、父が相談したのだが、「奥の大きな蔵の座敷牢に、知的障害がある人を閉じ込めていた」という話は、母の祖母以外、誰も知らなかった。

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結局、曰く付きの家がすぐ隣にあるのは気が引ける、ということで、父の格安別荘の計画は無くなった。

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時代が変わっても、社会や人間の本質は変わらない。

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