中編3
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丑の刻参り

コン、コン、

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藁人形にアイツの写真を重ね、五寸釘を打つ。

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コン、コン、

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聞こえ無い筈の、土台のサクラの悲鳴が聞こえる。

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…嗚呼、煩い。

木の癖にこんなに騒ぐなんて……、だから定番通り神社の杉の木でやらなきゃ駄目だったのかな。

別に木なら何でも良いと思ったんだけどなあ。

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…どうせ僕にしか聞こえやしないだろうから、構わないけど。

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コン、コン、

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そんな事より、アイツへの恨みを金槌に込める。

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コン、コン、

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アイツだ、アイツが僕の手柄を横取りしなければ、アイツが根も葉もない噂を流さなければ、アイツが、アイツさえ居なければ……

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腹の内に溜まったドス黒い感情が、釘を打つ右腕を気炎立たせる。

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コン、コン、

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アイツが僕の立場を惨めにさせた、アイツが僕を社内のストレスの捌け口に仕立て上げた。

社会人にもなってイジメだなんてみっともない。だが、厭にアイツは他者を取り込むのが上手かった。社内の雰囲気を固めるのが上手かった。

僕へのいびりはパフォーマンスへと変換され、取り上げた手柄も我が物にして、穴埋めに無能の偽エピソードで非難の的を作り上げた。

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思い出すだけで僕の頬を涙が伝う。

金槌を振り上げ、振り下ろす。燃え盛るように、氷を砕くように。

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コン、コン、

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お陰でこっちはろくに仕事も与えられず、入社数年にして窓際族だ。会社に居る必要さえ奪い去り、他の社員の陰口だけを窓辺で一身に浴び続ける毎日。

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……もう、限界だ。

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コン、コン、

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硬い円柱形に、長い釘はゆっくりゆっくりと沈んでいく。

ズブズブと、一振り一振り、ゆっくりと。

僕を非難するように、サクラの木は赤い液体を垂れ流す。

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コン、コン、

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そういえば、サクラの下には死体が埋まっているんだっけ。だからサクラそのものが妖怪扱いされることもあるのだとか、何処かで聞いた気がする。そんなの、どうでもいいけど。

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コン、コン、

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……嗚呼、煩いなあ。

本当に頭へ響く。割れてしまいそうだ。

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コン、コン、

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一振り一振り、恨みを込めて金槌で叩く。

不幸になれと、不幸になれと。

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早々に死んでくたばるな。

四肢を刻み取られるように、ゆっくりゆっくり暗い不幸の海へと沈め。

生きたまま地獄を味わい続けろ。

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コン、コン、コン、コン……

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恨み、願い、願い、願う。

不幸になれと、不幸になれと。

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コン、コン、コン、コン……

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藁人形には、既に幾つも釘が貫いている。

両手、両足、両肩、両腿、関節、脇腹……

致命傷になる場所は避け、何本も何本も釘を打ち付ける。

不幸になれと、不幸になれと。

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コン、コン、コン、コン……、

コン、コン、コン、コン……、

……、

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壊れた心で、無心に打ち続けた。

サクラはもう悲鳴も上げず、ピクリとも動かない。

それに気づいて、ようやく手を止める。

東の空を見ると、もう朝日が昇っていた。

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「あーあ……

でも、アイツが悪いんだよ。

アイツが、君の旦那さんが僕に言ったんだ。

『お前は“葛見”で“クズ”だから、なにをされても仕方ないんだ』って……

ねえ咲良(サクラ)さん。だったら“咲良”さんも、“木”と同じだよね」

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別に木なら何でもいいのなら、杉の代わりにアイツの身近なのを使った方が、呪いの効果がありそうな気がした。

本当に効果があるかはわからないけど。

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そんな事を思い、頭部に幾つもの釘が刺さった女を見やる。

朝日に照らされ、明るみになった顔面と、ドス黒い血溜まり。

その上に固定された藁人形はひしゃげたようにボロボロで、アイツの写真は、赤く汚れて貼り付いている。

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…だけどまあ、もしこれでアイツが不幸になったなら、もう一回、別ので試すのも悪くない。

確か、アイツの妹、“モモ”って名前なんだっけ。

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朝明けの光に目と口元を細く引き伸ばし、そんな事を思い馳せる。

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爽やかに吹いた風が、咽せる匂いを拭い去っていった。

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とても独創的なアイデアですね
ただただ驚きました

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