自動車工場に勤めて、もう10年になろうとしている。
元来飽き性な俺がひとつの職業にこれだけ勤められているのには、理由があった。
それには、俺が少し"見える"体質だということが関係しているが、その前に俺のやっている工程について説明した方がよさそうだ。
俺は自動車の走りに関係する部分、つまり、タイヤやエンジンなどの足廻りの組立を担当している。
足廻りということは、自動車の下に潜り込んで作業するのか?
そうではなく、自動車の方が、俺たちの頭上の高さまで吊り上げられているのだ。
さまざまな車種が一定のスピードで空中を流れていくさまは、いつ見ても面白いものである。
しかし、その光景の面白さだけが俺の三日坊主を克服した理由ではない。
その頭上の自動車、正しくはこれから自動車になろうとしているものにであるが、
本当にたまにではあるのだが、ついている、のだ。
何がって?幽霊だよ。でも、俺の言い分では、あれは幽霊にもなりきれていない、しかしいつかは幽霊になるのかもしれない、そんな存在であった。
ちょうど頭上の金属の集合体が俺たちの手が加えられて自動車となるように、それらも何かのきっかけで、本当に幽霊と呼べるものになれるのではないか、そう思わせるような雰囲気があった。
見た目は人魂のようにふわふわしていて、しかしそれらには人間だった頃の未練を噛み締めているような、意志が感じられた。
たとえばおたまじゃくしがカエルに変態するように、その人魂にはまるで触手というか、ヒダのようなものが生えるときがあった。それらはうねうねと動きながら、やがて引っ込んでいったりした。
俺は幽霊がどんなものかなんて堂々と言えるたちでないけど、でも少なくとも人の形はしていると思うんだ。
そして、人魂のような彼ら、俺はそれを勝手に「ふわふわ」と呼んでいたのだが、それらは人の形になって、幽霊への昇進を待ち望んでいるように思えるのだった。
死んでからなお「昇進」のことを考えないといけないのかと思うと、俺は苦笑いしたくなるよ。
俺は10年勤めているが、いまだにただの作業者止まりで、俺の職位が上がるという話すら出たことはなかった。しかし俺はそれで十分満足しているのだ。
俺はこの10年、プライドを持ってやってきたつもりだ。
特に自分たちの担当しているのは、自動車の走行機能に関わる重要な工程だ。
自分たちのミスは、そのまま自動車の事故に直結する。
俺はこれまで、少なくとも自分の担当している工程についてであるが、ひとつの不具合も出してこなかった。それはこんなちっぽけな俺の、ささやかな誇りであった。
しかし、俺はこれまでに何度も挫けそうになった。労働の辛さに耐えられず辞めそうになった。
そんな時、たまに自動車についてくるふわふわの存在に、俺は怖がるどころか、逆に励まされていた。
なんたってその見た目が、初めは驚いたものの、慣れてくるととても可愛いものに見えて、それを見ることは労働の疲れを癒してくれるのであった。
今では俺はふわふわに対して微塵も怖さを感じることはなかった。
それらには俺を惹きつける何かがあった。
俺はそれらを見たくて、来る日も来る日も工場に通った。そして、気がつけば10年が経とうとしていた。
しかし、それらの存在する意味を知った時、さすがの俺も冷や汗をかいた。そして言いようのない憤りを感じなければならなかった。
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ある日、一年ぶりの新型ワゴンの販売が世間に公表され、その製造に俺は携わった。
いつもの見慣れた車の群れに紛れる、初めてラインの流れの中でつくられる新型車は、街中でもあまりお目にかかれないピンク色に塗装されていて、俺は随分と奇抜な格好をした老夫婦でも乗るのかなと想像を膨らませた。
ライン作業の楽しみの一つに、自分の携わった車に乗る人のことを想像することがあった。
そして、俺の想像は、そのピンクの車の上でふわふわしている、2つのそれに対しても膨らんだ。それらも新型車が気になって見に来たのかと思うと、可愛くて仕方がない気持ちになった。
ところが、後日工場の社内ニュースとして、あのピンクの車の交通事故を知った。その車に乗っていたのは自分の想像とは違って若い夫婦だったが、彼らは即死だったらしい。
彼らには産まれたばかりの赤ん坊がいて、彼は幸いにも無事だったようだが、それだけに夫婦の死はいたたまれないものであった。
まだ世に数十台しか出ていないであろう新型車で、しかもピンク色なのは俺の見たあの車しかあり得ない。
俺の想像は、乗車人数とふわふわの数に、何かつながりがあるのではないかと勘繰らずにはいられなかった。
それから俺は、たまに流れてくるふわふわつきの車の、車種や色を覚えておくようになった。
それらは一台残らず交通事故に遭っていた。
そして、ふわふわの数だけ、乗車している人が交通事故で死ぬことがわかった。
俺が今まで可愛がっていたものは、人を死なせる疫病神だったのだ。
俺はそれが途端に気持ち悪く見えた。時たま出てくる触手のようなものが、自分を嘲笑っているように思えて腹立たしかった。
そして、自分が汗かいて作業していることを、人の死の手助けをしていると言われているようで悲しかった。
しかし、俺はふわふわの存在を他の人に言ったりはしなかった。俺以外にはおそらく見えていないだろうから、俺が行動に移せば未然に防げる事故もあるのかもしれなかった。
それでも、俺は沈黙した。理由の一つに、ある程度の交通事故は仕方がないという諦めがあった。
この世に自動車が存在する限りは、そして車を人間が運転する限りは、事故はなくならないだろう。
人間は必ずミスをする生き物なのだ。
そして俺のできることとは、車の製造段階でミスをしないことだけなのだ。
俺はふわふわの存在を訴えるかわりに、より一層作業に集中するようになった。
たとえすべての事故は防げなくても、品質による事故だけでもゼロにする。
そうして俺が熱をいれて品質をつくり込むかたわら、ふわふわは数百台に一台の頻度で現れた。俺はその度に、そいつらを睨みつけてやった。
それらは平均して一台に3つくらいついてきたが、一台の乗車人数だと考えれば妥当であった。
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…しかしある日、俺が勤続15年の大ベテランと呼ばれるようになった頃、一台の車に、なんと8つものふわふわがついていた。
その数は今までに類はなく、俺はきっと家族3世代で旅行にでも行った先の交通事故を想像して、苦い悲しみが込み上げた。
ふわふわの意味に気づいたあの時から5年間、相変わらず作業者として働いていた俺だが、その瞬間、手から力が抜けるのを感じた。
俺にはどうしてあのふわふわがみえてしまうんだろう。
事故に遭う車がわかってしまうから、俺はこんなにも悲しい気持ちにならなければならないのだ。
俺は自分の"見える力"が、煩わしくて仕方なかった。
ただひとつ不思議に思ったのが、その車が三列シートのワゴン車などではなく、軽自動車だったということである。
軽自動車に8人も乗っているのは不自然ではないか。いや、8人も乗せてしまうような人たちだからこそ、事故に遭ったのだろう。
俺はその日500台以上つくっていて、おまけに最近は残業続きだったから、随分と疲れていたので、その疑念もしばらくすると忘れさっていた。
そして、その疑念が晴れることになったのは、それから数ヶ月後であった。
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数ヶ月後。
今月二度目の休日出勤を終えた俺にとって、その日はなによりも貴重な数少ない休日であった。
独身の俺は誰かを誘うわけでもなく、午前の早い時間から県内の温泉地へと赴いた。
それは心身ともに溜まった疲れを癒すための小旅行であった。
俺は温泉を小一時間満喫した。その後に、工場の仲間が美味しいと話していた話題のラーメン屋で昼食をとった。
注文したラーメンは評判通りの満足のいく味だった。
俺は空になった器を見ながら、ラーメンも自動車も同じだと思った。
作り手にとっては数えきれないうちのひとつでも、お客さんにとっては大切なひとつなのだ。
俺は腹が満たされただけでなく、このラーメンから元気をもらったように思えた。
気力に満ちて店を出た俺は、せっかくだから温泉街をぶらぶらして帰ろうと考えた。
まだ正午も過ぎたばかりで、俺の休日は十分に残っている。ラーメン屋で労働への意欲を取り戻したものの、もう少し休日の気分に浸っていたいという気持ちもあった。
俺の足取りは軽かった。独身でも、安月給の重労働でも、俺の人生は満ち足りていると感じるような午後だった。
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そんな時、俺の背後から無理な速度で悲鳴を上げるタイヤの轟音が迫ってくるのがわかった。
一瞬にして人の多い温泉街に叫び声が入り乱れた。
俺は自分が何をすべきなのかもわからないまま、気がつけば車にはねられていた。
俺だけでなく、周りの何人かが同様に被害に遭っていた。
そして俺は朦朧とした頭で、走り去っていく車を見て、戦慄が走った。
-あの軽自動車だ。
そうわかったのは、車の上に8つのふわふわを見たからであった。
それらはすべて、伸び切った触手のようなものを下に垂らして、まるで項垂れているような格好で存在していた。
轟音は遠ざかっていく一方で、様々な叫びや泣き声が周りに溢れていた。それは俺以外の7人の友人や家族の声であった。
俺は拳を強く握り締めたかったが、それも叶わなかった。
俺はもうすぐ自分が死ぬことを直感した。
俺は悔しい気持ちと後悔でいっぱいだった。
自分の浅はかな思考に恥ずかしさが募った。
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どうして俺は、ふわふわの数を、乗車人数だと決めつけていたのだろう。
あれは、この自動車によって死ぬ人の数だったのだ。交通事故で亡くなるのは、何も乗車する人に限られるわけではない。
そして。
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俺はもしかしたらこの事故を防げたのかもしれないのだ。
交通事故をこの世からなくすことはできないだろう。しかし、粗暴な乗り方しかできない奴の手に自動車を渡さないことはできたかもしれない。
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俺はこれまで頑張ってきたことが、すべて無駄のように感じた。
俺が配属されていたのが走行機能に関する工程だからこそ、俺の意識は車内にいる者にしか及ばなかった。快適で安全な走りを実現するために、必死に品質をつくり込んできた。
しかし、自分たちのつくった車によって人がはねられることなど、自分には関係ないことだと高をくくっていた。そして、まさか自分が事故に遭うなんて、この時まで思ってもいなかったのだ。
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しかし、今更気づいても、もう何もかもが手遅れだ。
俺は再び悔しさを噛みしめた。唇から滲んだ血は、おそらく頭からのであろう出血に混じって、滴ってコンクリートへと落ちた。
そうして俺の意識は、次第に遠のいていった。
そこに倒れた8人は、ふわふわの数が示すように、数時間後には全員が息を引きとった。
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…目覚めると、俺はいつもの自動車工場にいた。
いつもの工場なのに、何かが違う。
俺は何が違うのか考える。そしてやがてその答えにたどり着く。
俺が見ている場所が違うのだ。工場の様子は普段と何も変わりなく、ただ自分のいる位置が、いつもとは違うのであった。
それも、いつもならあり得ない場所だ。
俺は工場を、鳥の目線で見ていた。普段は見上げている空中を流れる自動車を、俺は見下ろしていた。
工場内をよく観察してみると、俺の見知った人はほとんどいなくなっていた。
少なくともラインで作業する者は、俺と面識のない者ばかりであった。思えばその過酷な労働ゆえに、その工場では人の入れ替わりも激しかった。
ただひとり、俺をよく慕ってくれていた若者が、今は中年の監督者となって全体を指揮しているのを見た。
俺は懐かしさを覚えて、彼に向かって手を振った。
同時に、彼の存在によって、今があれから10年以上は経っていることを確認することができた。
あれから?
そうだ。俺は交通事故に遭って、死んだのだ。
…では、俺はいったい、なんなのだ。
そこでやっと、俺は自分がどのような存在なのかを考えた。
俺は自分の体が、これもまた懐かしい、あの時のふわふわのようであることに気づいた。
そこでようやく、俺は自分が本当に死んだことを認めなければならなかった。
俺がさっき監督者の彼に向かって振っていたのは、手ではなく触手であった。正しくは人差し指であった。
そう、あの時は無数の触手のように見えたそれは、人間の人差し指であった。
しかし、どうして俺はこのような姿で、再び工場にいるのだろうか。
俺は生前、ふわふわに対して、現世への未練のようなものを感じたことを思い出した。
俺はおそらく、この世から立ち去れきれないのだ。何かやるべきことがあると信じて、俺は死ぬに死にきれないのだ。
俺はもう一度工場内を徘徊した。
俺のやるべきこととは、何なのだろうか。
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そこで、ふと、嫌な予感がした。
ある一台の自動車、正確にはまだ自動車になりきれていない何かが、とてつもなく不安げなオーラを放っていることに気づいた。
俺はこのオーラのようなものこそが、交通事故の可能性を秘めている何かであることを直感した。
ふわふわの存在は、疫病神なんかではなかった。
ふわふわとなった俺の役割は、この車の危険を、生きている者たちに伝えることであった。
俺はそのためにこんな姿になってまで現世にとどまっているのだと、やりがいに溢れて懸命に指を伸ばした。
…しかし、俺に気づく者はなかなか現れない。皆、自分の作業に没頭し、なんとかラインを遅らせまいと汗をかいていた。
それでも、俺はひたすらに誇張し続けた。俺は単純作業の大切さを知っているから、同じことを繰り返すことが苦ではなかった。
ただひたすらに、オーラつきの車を何本もの人差し指で指し示し続けた。
俺に指が何本もあるのは、おそらく誰かの想いを背負っているからだと思った。
ふわふわにすらなることができなかった、交通事故で亡くなった人たちの分まで、俺は自分の責務をまっとうしようと決意した。
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そのとき。ひとりの青年が、こちらを見ていた。
どう見ても未成年の彼は、作業の手をそのままに、確かに俺を見ていた。
しかしその目は、負の感情でいっぱいであった。
憎しみのような、悔しさのような、若い青年には相応しくない感情が、その瞳の奥に渦巻いていた。
俺は彼のヘルメットの名前を見て、青年の瞳のすべてを理解した。
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彼は、あの夫婦の赤ん坊だ。
彼の苗字は、社内新聞に並んだ2人のそれに一致していた。
そして俺は、触手のような指を動かすのをやめた。
俺は彼のことを思わずにはいられなかった。
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彼はきっと、両親の死を背負って、事故のない車を作る覚悟でここにいる。
俺のような存在に負けないように、必死に頑張っている。
そして俺は震える思いで、再び指のようなものを伸ばし続けた。
自動車は、危険な乗り物なんだ。事故は、車が存在する限り、なくなりはしないんだ。そんなに思い詰めた顔をしないでくれ。
彼はやがて後方へと過ぎていく。
俺は落胆して、触手の指を引っ込める。
もういっそのこと、車なんて存在しなければ…。そんな投げやりな気持ちになる。
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いや、違うか。
この世に存在すべきでないのは、車ではなく、俺だ。
俺たちがつこうがつくまいが、オーラつきの車は必ず事故に遭って、それによって人は死ぬ。
俺たちがいなくなっても、この世から事故はなくならない。
しかし、俺たちがいなくなれば、少なくとも彼のように罪悪感を抱きながら自動車の製造に携わる者はなくなる。
俺は自分が生前、自分の"見える力"を憎んでいたことを思い出した。俺は今、彼に俺と同じ思いをさせてしまっている。
そして、俺がこれまで目にしてきたふわふわたちも、今の俺と同じ思いを抱いていたのかと思うと、俺はやるせない気持ちになった。
交通事故は、時に一瞬で人の命を終わらせてしまう。人によっては、何が起こったのかわからないうちに死んでしまって、自分の大切な人に別れを告げることもできずに、ただ未練だけを残してあの世へといってしまう。
俺もまた、この世に未練だらけのふわふわの1人だった。
俺は1日でも早く、自分が成仏することを願った。俺がいなくなることが、彼のためにできることであると思ったから。
俺が車をつくるために必死に頑張ってきた日々はなんだったのか。そんな気持ちは捨てなければならない。
車への未練をなくすことが、俺の最後の意地であり、プライドだ。
しかし、成仏するためには、俺の思っていたような、人型の幽霊にならなければならないらしいことを、感覚的に悟った。
俺は、幽霊への昇進の方法を知らなかった。
生前もいち作業員止まりの俺にとって、一人前の幽霊になることは、夢のまた夢であった。
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俺の眼下で、今日も自動車は生産されていく。
俺は戻ってきたばかりの工場で、生前に見ていた下からの景色を思いながら、一定の速度で進むライン作業を俯瞰していた。
やがてある一台が、異様な雰囲気であることを察すると、俺は必死になってその上に乗り、指をさした。
俺は気づかれなかった。そして気づいた者には、俺がかつてしていたように悪意のある目で睨まれた。
…そうして俺の車は、とある公道を走っていた。俺の他にふわふわは2つ、乗車人数は1人だった。
サラリーマン風のその男は、明らかにスピードの出し過ぎだった。どうやら仕事に遅刻しそうで急いでいるようだった。
やがてその車は交差点に差し掛かろうとしていた。
信号は黄色になるが、構わずその車は直進する。
その時、対向車線で右折待ちしていた別の車がハンドルを切っていた。右折を許可する信号の矢印はまだ出ていなかった。両者は正面から衝突しようとしていた。
右折の車には、2人の女の子が乗っていた。
初心者マークがついているから、きっと免許証をとりたての大学生で、友人である2人は、これから買い物にでも行こうとしていたのだろうか。
その車の上にも、3つふわふわはついていた。
そして、俺は、彼らが死ぬ瞬間を見た。
死ぬ間際まで、俺は指を伸ばし続けた。
そんな俺の努力も虚しく、自動車は今日も、人を死なせた。
伸び切った触手の指は、俺の意思に反応して、だらりと項垂れた。
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俺が次に目覚めると、俺には新たに3人の後輩ができていた。
俺はこの姿でもベテランになろうとしているが、俺が成仏する方法は、いまだにわかっていなかった。
俺は諦めなかった。
もう生前のような後悔はしたくなかった。
俺は何としてでも、幽霊の姿になって、成仏してみせる。
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だから。
もう少しだけ、俺がこの工場にいることを、どうか許してくれ。
俺の下で青年から中年となった彼は、いつものように鋭い視線を投げかけていた。
もう何度目かわからない睥睨に、それでも俺は新たに生産されつつある車の危険を合図した。
俺のできることは、これしかなかった。
やがて彼の背後まで車は流れていった。
もう彼の目は見えなかった。
俺はまた、誰かの死に目にあわなければならない。
そしてその瞬間、俺の存在は、彼に俺以上の深い悲しみを与えなければならなかった。
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どんどん小さくなっていく彼の背中に、俺の体から伸びる触手のような人差し指は、まるで謝っている人のように、何度も何度も、その先端を下げた。
俺の指の数は、いつのまにか数えきれないくらいに、増えてひしめきあっていた。
作者こわこわ