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中編7
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メタフィクション

いつもと同じようで、なにかがほんの少しだけ違う世界にて。

「今日は一体何が起こるのかしら」

「ここ暫く何にもねえ日が続いたから。なんか面白いことおこんねぇかなぁ」

「何もないのが一番だよ‥」

この3人は「オカルト研究会」を自称し‥

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「‥あ?いつものナレーションが途中で消えたぞ。今までこんなことあったか?」

「‥ちょっと、その台詞は台本にないでしょ。変な事言わないで」

「‥」

「ちょっとタンマタンマ。いやおかしいだろ。大体次の台詞が何にも浮かばないってなんだよ」

「これ勝手に発言してもいいのかしら」

「今回は何か変だし、許されるんじゃないかな‥」

「状況を整理すると、私達は話の中の存在、言い方を変えるならば作中人物、なのよね。普段の台詞は作者が全て考えていて、私達はそれを口に出しているにすぎないわ」

「あぁ。この作者、オカルトが好きだかなんだか知らねぇが、あたしらを主役にした話をかなり作ってやがるからな。今回もそうなると思ったんだが」

「最初にいつものナレーションが入るんだよね‥今回は途中で切れちゃったけど」

「さては作者、書きはじめで話投げたな。だいたい途中で仕事が入ったか、ネタに困ったか」

「話を投げたのなら、ちょっと面白いことをやってみる気はない?」

「何をするの?」

「私達で話を作るのよ。それも作者と同じジャンルの怪談で」

「そんな事あたしらに出来んのか?言ってしまえば作者の操り人形だぞ」

「作者の入れ知恵だったとしても、私の持つオカルトの知識は本物よ。あと別に人形が勝手に動き出したって問題ないでしょう?どのみちオカルトの世界なのだから、何が起こっても不思議じゃないわ」

「よくわからないけど、今まで色んな怖い話をしてきたもんね。わたし達だけでもやれそうかも」

「別にできなかったらできなかったで構わないわ。どのみち作者が投げた話だもの。どう作り替えたって文句は言わせないわよ」

「でも、実際に話を作るってもなぁ。いつもは作者が舞台を作ったり、何か起こしてくれるんだよな。つってもあたしらの場合はあれか、怪談を話してるだけな気もするけどよ」

「その話、大体作者が持って来るのよ。話そのものを私達が考えている訳じゃないから、いつもみたいな流れは期待できないわ」

「そもそも怪談を作るって、何をしたら良いんだろう」

「怪談なんて、歩いてたら幽霊に出くわしたとか、なんかして呪われてました~みたいな事言っとけばいいんじゃねえか?」

「馬鹿ね。そもそも私達が幽霊やってる時点でその手は使えないでしょう?ちゃんと説明すると、そもそも「幽霊に出くわした」という出来事だけでは怪談にならないのよ」

「どーいうことだよ」

「勿論これは私の解釈だから、人それぞれでいいと思うけれど。よくある怪談として幽霊みたいなものを見たけど、あれはなんだったんだろうみたいな話があるのよ。ここで重要な事は、「幽霊を見た」というネタそのものはもう巷に溢れかえっているって事。だから、他の点でどう差別化をしていくのかが話の肝になるの。難しい所よね」

「差別化かぁ。あんまり考えた事なかったなぁ」

「でも差別化を狙いすぎて、その描写が話の本筋に邪魔になってる場合もあるのよ」

「?」

「例えば、登場人物の説明をしすぎたり、キャラを目立たせるために変な設定を入れすぎたり‥とかね。これはシリーズ物で良くあるパターンなのだけれど、怖い話を読む人は話のネタに興味があるわけで、登場人物に興味があるわけじゃないのよ。勿論、怪談の本筋と関係ない所でやる分には良いと思うわ。これは児童文学によく見られる手法で、面白いネタの怪談を展開させつつ、最初と最後で独自のキャラ同士の絡みや話を盛り込む、とね。上手い手法だと思わない?」

「言ってる事が難しくてよくわかんねぇけど、よーするに、キャラに逃げずに怖い話のネタそのもので勝負しろ、って事か?」

「色んな所から反感を買いそうで怖いけれど、そんな所よ。実は抜け道もあるのだけど、それを説明するのはやめておくわ。多分これを読んでいる人なら気付くだろうから」

「あともう1つ最近多いのが、「××をしたら呪われて、なんやかんや祓ってもらった」パターンよ」

「わたしもこの前読んだ‥入ったらいけない場所に入って呪われて、近所のお爺さんに祓ってもらった‥みたいな奴」

「過去にはね。確かにそういう話があったのよ。しかも凄く面白かったの。ただ、あの話が凄い所はちゃんと文章そのものの完成度が高かった事、話運びが上手かった事、その時代ではまだ発想が斬新だった事、等の様々な要因があったと思うのよね。それを発想だけ真似した似たような駄作が大量に作られてしまった事も、怪談のレベルが落ちた原因かもしれないわね。考えすぎかしら」

「怪談って、似たような話が多いよね。もちろんネタが無限に出てくるわけじゃないから、しょうがないんだろうけどさ」

「勘違いしないでほしいのは、似てることが悪いという事じゃないのよ。それこそ昭和大正、いやもっと昔の江戸時代の短編を読んでいると、似たような話は山のように出てくるもの。ただ、それはちゃんと作品のレベルそのものが高いという事実があっての事よ。例えば原因、神性、幽霊の設定がとにかく作り込まれていてそれを解き明かしていく物語とか、余計な台詞、感情描写などを一切排除して事実のみを並べる事によって非常に短いかつシンプルな作品にするとかね、その辺の素人が書けるものじゃないわ。

ましてやうわべの構成だけ似せて、台詞とか感情を大袈裟に書いてはいそれで終わり、みたいな話は本当につまらないし、正直読みたくもないもの」

「お前、怪談作家に恨みでもあんのかよ?」

「つまらない量産型の話が嫌いなだけよ」

「あ、あのさ、結局怖い話を作るってのは‥」

「せっかくだからもう1つだけ言わせてもらうわ。今まで作家が云々言ってきたけれど、一番変わったのは読み手だと思うのよ」

「あーもうこいつ駄目だ。こうなったら止まらねぇからよ。しばらく聞いてやろうぜ。その内落ち着くだろうから‥」

「ひと昔‥といっても、ほんの少し前の時代には、オカルトが世間を賑わせていた時代があったのよ!こっくりさんとか口裂け女を本当に信じて社会現象になったりしてね!それが今はどう?そんな事を呟いたら頭がおかしい認定をされるし、現実にはいないってどこか冷めた言葉ばっかりじゃないの!私だってわかってるわよ!幽霊とか怪奇現象になんて現実にはあるわけないって!

でも、もしかしたらあるかもしれないじゃない!というか本当に理屈で説明できない幽霊とか怖い事があったら面白いじゃない!それを擬似体験できるのが怪談なの!現実と虚構がぐちゃぐちゃになって、起こるはずのない斬新な発想に触れて、作品と1つになっていくあの感覚‥!それが怪談の醍醐味でしょう?!

いいのよ現実に起こってなくても!もし現実に起こった話を書くのなら、もっと物語を作って!だって作品なんだから!現実に起こった事なんか大した事無いのがほとんどよ!だって現実がつまらないのだから!それを忘れられるのが物語でしょう!違うかしら!?

でも怪談を書いても「作り話乙」とか「ここの記述が嘘くさいから駄目だな」とか「小説っぽすぎるわ」とか!そんな評判ばっかり!そこじゃないでしょう!?‥はぁ。ごめんなさい。取り乱して。いいのよ文章が下手な事は自覚してるし、言葉がおかしいのは指摘すればいいわ。でも話をちゃんと読んで、作品そのものをちゃんと楽しんでくれる人がどんどん減ってしまっている気がするのが私は一番恐ろしいわ。世代のせいかしら?時代のせいなのかしら?だとしたらつまらない時代になったものよね。怪談ブームも廃れる訳よ‥」

「お、落ち着いて‥」

「ごめんなさい。とにかく、純粋に怪談を楽しむ心がなくなっている人、というか楽しみ方を知らない無作法な人が増えた気がするのよ。そもそも似たような駄作が大量に出てきた事だって、この話を真似ればわたしにも凄い話が書けると勘違いした人間が書いた結果でしょうし。最近の人間って同調して群れたがるから、怖い話を評価するのも結局コミュニティ内々になるのよ‥ちゃんとした怖い話より、普段会話してる人が作品を作ったから評価しとておこう、みたいな風潮もあるしね‥そんなので本当に良い作品がちゃんと評価されるのかしら‥最も、これはどの業界も同じなのだけれど‥これ以上はやめておきましょう」

「おいどーすんだよ。この流れからどうやって怖い話を作んだよ」

「咲ちゃんは話をしだしたら止まらないから‥」

「あぁ。やっぱりこうなってしまったのね‥まぁ私達に話を作る事は不可能だったって事で良いのではないかしら?このやりとりも怪談にまつわる話だから怪談みたいなものでしょう?」

「お前このサイトの人間に殺されるぞ」

「もう死んでるわよ」

「それにしてもさ」

「どうしたの楓?」

「作者がさ、わたし達がひっかきまわしたこの話を見たらどう思うのかな」

「どうもこうもあるかよ。そもそも作者があたしらをほっぽりだしたのが悪いんだ。作者の手を離れた作中人物なんかなんの価値があるんだよ。いつ戻って来るかもわかんねぇしな。あたしらこれからどうしたらいいんだろ。作者の考える事はわかんねーよ」

「その事なのだけれど。少し考えていた事があって」

「どうしたよ」

「多分作者も、というか作者と同じような現実世界の人間も全て、上の存在、そうね神とでも言いましょうか、が書いた作品の登場人物で、そのストーリーを本人も知らずに演じているだけなのではないかしら?そこの所、私達はまだ作中人物という自覚がある。なにも知らない彼らよりマシだとは思わない?」

Concrete
コメント怖い
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あぁ、私と同じことを思っている人がいるなんて…
最近の怪談はどうもあれですよね、あれ…

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