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私は定年退職した元警察官で宮島と申します。
今は地元のタクシー会社に再就職して週3日ほど仕事をさせてもらっている。
退職金で充分暮らしていけるのだが、タクシー運転手としてお客さんを乗せて色々な場所に行く、この仕事が中々に楽しい。
警察官時代に散々夜勤もやってたので深夜帯の仕事もそれほど抵抗なく出来た。
今日も日付が変わった頃から数人のお客さんを乗せて市内近郊を走らせていた。
ちょうど3人目のお客さんを下ろしたのが市内でも大きい総合病院の前だった。
私はこの辺りで休憩時間をとろうと思い、近くの自動販売機でコーヒーを買って車内でくつろぐことにした。
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ラジオをかけて文庫本を読みながら車内で休んでいると、視界の端に何かが見えた。
ん?と思ってそちらを向いたが小さな公園があるだけだ。
気のせいか?と思い再び文庫本に視線を戻したのだが、またもや視界の端に何かを感じた。
気配の感じた方を向くとやはりあの公園だった。
いや、正確には公園にあるトイレから何かを感じたことに気付いたのだ。
何の変哲もないトイレだが…何が気になったのだ?
しばらくわからなかったが、トイレの方をじっと見ていると違和感の正体がわかった。
白いモヤのようなものが人の形になってトイレの中へ入っていくのだ。
あれは…何だ?!霧やモヤというには形がはっきりしすぎている…
私は怖さよりも興味本位にかられ、そのトイレへと近づいた。
入り口から中を覗き込むが、どこにでもあるような公衆トイレだった。
あの白いものはどこに?と思ったときだった、トイレにある鏡を見て私は凍りついた。
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トイレには私しかいないのに…鏡には私の後ろに何人もの顔が映り込んでおり、その全てが私を見ていた。
後ろを振り向いてもそこにはトイレの壁があるだけだが、鏡を見ると何人もの顔が私を見ている!
私は半ばパニック状態になりながら急いでタクシーに戻りその場を離れた。
後で調べてわかったのだが、あの公園はかつて病院の敷地の一部であり、遺体安置所として使われていたそうだ。
病院の改築により取り壊されて公園になったと
あの白い何かは、かつてここで亡くなった人だったのだろうか…
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)