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俺は拘置所の面会室で弁護士とアクリル板を挟んで向かい合っている。
俺の2回目の裁判が来週に迫っているため、再度事件の詳細を聞きに来たそうだ。
何度聞かれても俺が返すのは同じ事、事件の全てと自首を決意した理由だけだ。
俺は自分の妻を殺害した事件の容疑者として捕まり、この拘置所に拘留されている。
仕事の事で思い悩む日々に疲れ魔が差した、一度の過ちで会社の部下のS子に手を出してしまったのだが、その事が妻にバレてしまい離婚を迫られた。
訴えられれば俺が負けるのは目に見えていたし、何よりS子の将来が閉ざされるのが怖かった俺に選択の余地はなかった。
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妻の首に縄をかけ渾身の力で締めた。
妻は『死んでも許さない』とだけ呟き死んだ。
俺は遺体を車に積み、3時間かけて田舎の山中に棄てた。
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妻を殺害した後、すぐに会社を辞めて海外へ逃げた。
物価の安い国でほとぼりが覚めるまで隠れるつもりでいたのだ。
最初はうまくいっていた、日本人が比較的多い国を選んだのもあり、怪しまれずに過ごしていた。
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だが、移住してから3ヶ月が過ぎた頃から異変が起き始めた。
風の強い夜、風の音に交じって声のようなものが聞こえるようになったのだ。
近所の人の声かと思ったのだがどうも違う気がした。
ここは日本人の移住者も多い国だが、妻を殺して逃げた俺は近所に日本人がいない街を選んだのだ。
だが、聞こえる声は明らかに日本語であった。
その声は日に日に大きく鮮明になっていった。
そして妻を殺してからちょうど1年目の夜、ついに声の正体がわかった。
風に交じって聞こえるその声は忘れもしない、妻の最期の言葉
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『シンデモ ユルサナイ』
それからは夜に限らず、風が吹けば必ず妻の最期の言葉が交じって聞こえるようになった。
耐えきれなくなった俺は日本へ帰国、そのまま警察に出頭した。
日本に帰ってからも風に交じって妻の最期の言葉が聞こえる。
おそらく俺はこのまま地獄へ落とされるであろう。
拘置所にいても、妻の最期の言葉は必ず聞こえるのだから
作者死堂 鄭和(しどう ていわ)