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中編3
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漆憐幻燈

「夜空の星は、皆死者の魂なんだ」

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私の耳元で、そう囁く声がする。

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私はオカルトなんて信じない。ちゃんと自分の目で見たものしか信じない。星というのは恒星が燃えた光だ。魂などというものでは無い、そんなのは小学校だって知ってる常識だ。

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「そう、星の光は死者の魂だ。これは間違い無いことさ。

しかし多くの人間はこれを出鱈目だと言う。あれは天体の燃焼だと、お前の言葉は嘘なのだと。

だが本当に星の正体をその目で見たものは、一体どれだけ居るのだろうね。

私はね、本当の本当にあの光がヒトの魂では無いと断言出来る存在は、未だ地球上に存在しないんじゃ無いかと思うんだ。

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常識だから、科学的に証明されているから、だから当たり前のようにそう信じている。だがヒトは自分の目で見たものしか信じないとも言う。

しかし、写真で、映像で、教科書で見るそれらは、ちゃんと“自分の目”で見たと言えるのかな。

レンズを通して、フィルムを通して見たそれは、インクで描かれた、液晶に写った偽物のそれは、本当に見たと言えるものなのかな。

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例えば、天の川の存在は誰もが知っている。しかし、この文明が進んだ国で、肉眼で天の川を観測したヒトは 一体どれだけ居るのだろう。

夜空を見上げ、星空を見上げても、そこに見える星々はせいぜい一等星かニ等星しか無い。琴座のベガ、鷲座のアルタイル、織姫と彦星に擬(なぞら)えたこれらを観測する事は出来ても、電灯に紛れその間に存在する小さな光達を観測出来ない明るい夜空では、天の川を見る事なんて出来やしない。

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星の光というのはね、この天板に写った死者の魂なんだ。

しかし、夜空の微細な光が文明の発展と共に見えなくなったように、この霊魂を信じる者は科学の発展と共に減ってしまった。

その魂は、“彼ら”は、見えないだけで今だって存在している。地上を見守るように、この漆黒の天板を煌びやかに埋め尽くしている。その数がどれは程あるか、現代人は忘れてしまっている」

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声の主は直立したままグニャリと身体を曲げ、二本足で立ったまま足元に転がる私に囁く。

真っ暗なこの崖の底で、煙みたいに白い顔を、裂けた様に歪ませながら。

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空を見る。

高い崖に縁取られた上空の亀裂には、見た事も無いほど見事な星空が覗いている。

もしかしたら此処は、この国で最後の、偽りなく綺麗な星空が見える場所なのかも知れない。

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突如現れた地面の亀裂、光も届かない程深いその場所に落ちた私は、俯いたまま動かない身体を諦め、反対に捻れた首で燦(きらめ)く夜を見上げる。

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視界の端にはチラチラと、煙の様な何かが漂っている。

それは極めて人間に近い見た目のモノも居れば、首だけのモノも、左半分が丸々欠損したモノもいる。

よく見えるモノに、幽かにしか見えないモノ。

成る程、彼ら異形は夜空の星々のように文明の発展と共に観測されなくなっていたのだ。

それが、この場合に落ちた途端に認識出来る様になってしまった。

きっと、大きなものから小さなものまで沢山いるのだろう。

それこそ、星の数ほど。

そして私もじきに、その1つとなるのだろう。

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薄れゆく意識の中で、私はこの景色を写真に収めたところで人類は彼らを認知するのかと思いを巡らせた。

そして、少しだけ彼らを憐れに思った。

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