中編7
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手が冷たいから、、、

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この話は、私が大学時代に、

お盆で、実家に帰省しようとした時の話です。

ほぼ実話ですが、脚色あります。

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その日、私は、

新幹線が通ってる駅に向かう為に、

ローカル線のホームにいた。

さすがに、お盆の時期。

暑い。

蒸し暑い。

しかも、何故だか、

プラットフォームは、余計に、暑い気がする。

皆さん、ご承知の通り、

私は、こんな性格ですので、

暑さで、イライラする。

電車にでさえ、イチャモンをつける。

(あーーーっ!!

遅っせぇんだよっ!!あと12分、、?

はぁー!?

待たせんなよっ!!

電車は、速いんだろうが!!

こっちは、金、払ってんだよ、、、?)

もはや、意味不明。

などと、

イラつきながらも、

ホームのベンチに座り、ボーッとしていた。

不意に携帯が鳴る。

「 、、何っ?」

仕方無く、電話に出てやる。

( 何て、偉そうな、、)

「プーッ、

ヒャーハッハッ!!

お前、何で機嫌悪ぃの? ププッ、」

それは、

私の1個上の先輩だった。

「うるさいなー、何っ?」

「あー、

いつ、こっち戻るんか聞こうと思って、」

「一生、戻りません。」

「まぁまぁ、Kよー、

そう、怒んなよー、でー、いつ?」

「あー、明後日の夜には、

こっちに戻るよ、実家にいてもヒマだし、」

「あいよー、

じゃ、明後日、

オレが駅まで、迎えに行ってやるわ。」

「、、えっ?

その親切、気味悪いんですけど、、、」

「あー、気にしない、気にしない、

ほいじゃあのー」

急に、電話が切れた。

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そうして、

ホームのベンチに座っていると、

目の前を、男の子が横切って行った。

男の子と言っても、中学生くらい。

うーん、、、

今、思い出せるのは、

黒いズボン、

淡い水色のカッターシャツを、

きちんとズボンに入れて、黒いベルトを

していたような、、、

制服のような感じに見えた。

そうして、

大きな黒いリュックを背負っていた。

顔は、、、

色白で、黒い短髪しか覚えてない。

少し、ぽっちゃりしてた気がする。

私は、特に気にせず、

( つーか、普通、気にしない )

ベンチに座り、

目を瞑りながら、イライラを抑えていた。

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気付いた。

誰かが、私に話し掛けてる。

( 、、は?)

目の前を見る。

さっきの、リュックの男の子が、

目の前に立っていた。

私が、話そうとする前に、

男の子が、また話し掛けて来た。

「、、手が、冷たいの、、、

握ってくれる、、?」

私は、障害を持つ子のようにも思えた。

大学で、勉強していた分野だった、

と言う事もあり、少しは、知識があった。

「手、冷たいん?なんで?」

私は、聞いてみた。

「分かんない、、」

男の子は、手を差し出す。

駅員を探したが、見当たらず、

私は、

とりあえず、その手を、握ってみた。

その瞬間、

( 、、、あ、間違えた、、)

私は思った。

まるで、吸い込まれるようだった。

彼の、、、

少し肉付きの良い、白い手しか、

見えなかった。

その感覚は、白い手と相まって、

ラードに溶け込むような、感覚だった。

( 手、冷たいから、握って、、、)

その、

中学生とは思えない、子供のような声が、

また聞こえた。

( あー、そうか。

あー、握っちゃったね、私は。)

私は、何故だか、

なるべく、何も考えないようにしてみた。

彼に対する、

様々な考え、思い、感情を。

いつもなら、

意味不明のそんな相手には、腹を立てて、

かなりブチ切れているはずなのに、

不思議な感覚だった。

『怒り』の感情が、まるで、無かった。

むしろ、

『可哀想』と言う、感情。

そうして、私は、

きっと、思ってはいけない事を、

思ってしまったんだろう。

( お母さんは、いないの、、、? )

迷子の子に、聞く感覚だ。

どこからか、

( いない、、。)

と、聞こえた気がした。

( なんで、いないの?)

私は、再び、思ってはいけない事を、

思っていた。

返事は、、無い。

もう、潮時だと思い、優しく言う。

( あなたの手が冷たくても、

私には、暖める事はできないから、、、

ね? 分かる?)

すると、いきなり、

耳に劈くような、鳴り響くような声が。

( だってっ!!

冷たいからっ!!

手がっ!!手が、冷たいからっ!!

握ってくれないから、イヤなんだよっ!!)

私は、黙った。

そうして、彼は、

また、話し掛けて来る。

今度は、寂しげに、話し掛けて来る。

( ねぇ、

誰かに、手を握っててもらうと、、

安心するんだ、、、

だから、、手、握ってて、、、)

私は、黙った。

出来るだけ、何も考えないように。

男の子は、言う。

( 手、握っててって、言ってるのに、、、

何で、分かってくれないの、、?

ねぇ?

ぼく『手、握ってて』って、

何回も、言ってるよね、、、?

、、、、、、、、っ、

何回も、言ってるだろーっ!!

握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!握ってよっ!!)

彼が、怒り出した、

ちょうどその時、駅のアナウンスが流れた。

「次に、2番線に入る列車は、

13時21分発、○○行きの列車です、、、」

( あ、電車来た。)

私は、そう思い、

彼に言う。

「乗る電車が来たから、

もう、手を握る事は、出来ないから。

じゃ。」

私は、ラードの中から、

するりと手を、抜き出そうとした。

しかし、

ラードが冷えて、固まるかの様に、

いつしか、その、私の手も固まっていた。

( 手が、抜けない、、、)

焦る。

私は、イラつきながら、聞く。

( 何で、手、握ってて欲しいのっ!?)

暫く後に、

( だって、安心するから、、、)

と、聞こえた。

あー、こりゃダメだ、面倒くせぇーよー、

こいつに一体、何があったんだよ、

まぁ、駅だし、電車事故に遭ったか、

何かだろうけど、、

、、、、、、、

、、あ、

そう言えば、母親、、、。

『お母さん』は、たぶん禁句。

敢えて、言ってみた。

( あなたのお母さんに、

ずっと、手を握ってて、もらいなさい。

私は、あなたのお母さんでは無いので、

頼らないで下さい。

あなたの手は、暖められませんし、

仮に、私が握っても、暖まりません。

何も出来ません。

大声や、脅しは、通じません。

私は、次の電車に乗りますので、

邪魔をしないで下さい。

あなたは、

安心するかもしれませんが、

あなと手を握っている私は、不安です。)

そう、言ってみたものの、

それでも、

手を離さない彼に、

私は、イライラし出した。

うん、暑かったせいもある、たぶん。

、、、、、、、、

( つーか、うぜぇし。

いつまでも甘えてないで、

さっさと、失せろ。

誰も、助けてはくれんよ? この先も。

あんたが、ツラいだけだし、

ま、私には、どーでも良い事だけど?

そうして、

ちゃんと、この先の事を考えなさい?

あなたは、まだ若いんだから、

こんな所を、彷徨いてんなよっ!?

この若造がっ!!)

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暫く後、声がした。

( ぼく、悪い事、したの、、、?)

これだから、子供の類いは困る。

( あー、したね、

これからも、するでしょーよ。

やめなさい。

あなたは、此処には、存在しない。

あなたのお母さんも。

理解しなさい。

あんた、死んでんの。

だから、手、冷たいの。

あなたのお母さんが、握らなければ、

暖かくは、ならないの。

他人に、助けを求めんなよ、)

すると、彼は急に、

さも、機械が話しているかのような、

無機質な話し方になった。

( だっておかあさんどこかにいっちゃったんだもんぼくをおいて)

私は、思う。

弱ったな、、、

更に、かなり、面倒臭い事になってきた。

( あー、そう。

あんたを独りぼっちにさせるような、

そんなお母さんが、あんたは、好きなの?)

彼は、言う。

( すき )

( じゃあ、大好きなお母さんの所に行きなさい。

お母さんは、此処にはいません。

あんたなら、

お母さんが何処にいるか、分かるはずだよ?

頑張んな?

あと、、、

他人に迷惑は、かけんなよ?

分かったか?)

( ぼくどうしたらいいかわかんないたにんにめいわくはかけんなよわかったか )

「私にしてるような事だよっ!!」

私は思わず、大声で叫んでいた。

そうして、

少し落ち着いて、私は言う。

「後は、自分で、考えなさい。」

私の歴史史上初、相手に考えさせてみた。

何故なら、面倒臭いから。

何故なら、早く電車に乗りたいから。

結局は、

生者も死者も、

自分の事しか考えて無いのだ。

特に、今回は、

私にしか関係の無い事だったし、

これが、知り合いが困ってる事であるならば、

こんな決着は付け方はしないだろう。

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暫く後、

返事の代わりに、ラードが溶けた。

何となく、ぼやけている視界の目の前には、

私の乗る電車の入口があった。

そうして、

電車に乗り込む。

電車の窓から、

さっきまで居たベンチを、振り返る。

黒いリュックの背中が見えた。

( まだ、彷徨うのかな、、、)

そう思いつつも、電車は動き始めた。

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予定通り、

2日後の夜、実家から戻って来て、

予定通り、

先輩に迎えに来てもらった。

駅からの帰りの車中で、私は、先輩に聞いた。

「ねぇ、何で、

私を迎えに来ようなんて、思ったの?」

「え〜?

分からんけど、迎えが必要かなと思って。」

私は、何となく黙った。

「おぃ、このオレが、

せっかく迎えに来てやったんだぞ?

何か奢れー!!

あー、何だか、

無性に、ラーメンが食いたいなぁー 」

そんな、

クソ恩着せがましい先輩に、私は言う。

「頼んでねぇし。」

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