これは日系ブラジル人の方から聞いた話です。
ポルトガル語が喋れる日本人の友人に翻訳して貰ったのでもしかしたら誤訳が有るかも知れませんが。
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これはだいたい3年前、南米某国に滞在していた頃の話だ。
俺はカタギじゃない。
俺はメキシコ野郎と連んで人には言えないビジネスをしていたって言やぁ馬鹿でもわかんだろ?
そこで忘れられない体験をした。
その時はメキシコの荒くれ者共と、ある男の護衛を任されていた。
自分が死神に狙われてると信じて疑わないコイツはブラジリアン柔術とジャンクガンを極めた俺の力がゴーストバスターに必要だと本気で信じていた。
何でもオキニの糞ペテン師が一週間以内に悪霊が死神を差し向けると予言したそうだ。
その糞ペテン師が有名人である俺を用心棒として指名した。
つまりこれはブゥードゥーとかニューエイジだとか変な妄想に取り憑かれたヤク中ノイローゼ男の介護だ。
俺は神も悪霊も信じて無いがこのノイローゼ野郎は金払いが良いのでこの盛大なオママゴトに付き合ってやる事にした。
そこである男に出会った。
どうやらノイローゼ野郎が雇った用心棒仲間らしい。
サングラスを掛けたスキンヘッド野郎だ。
日本人の仏教徒という事だった。
つまりあの糞ペテン師野郎のご親戚って訳だ。
はじめまして。
東洋の神秘で俺達を護ってくれるんだってな?
そいつぁ心強いこって。
こちらのごあいさつには見向きもせすブッディストは屋敷の散策を始めた。
何ヵ所かシキを打たれている。
これはかなり強力な術者の手によるものだろう。
これからケッカイを張る。
邪魔はするな。
死人が出るぞ。
男はカタコトのスペイン語でそう言った。
俺達はケッカイとやらを見物させて貰う事にした。
黄金に輝く斧、装飾過剰な刀剣、クールなデザインのトライデント、奇妙な呪文、軽快なビートを刻む髑髏の様な打楽器、拝火教の様な祭壇。
やっぱりな。
これ全部ガキの頃にチャイニーズ映画で見たぜ。
確か田舎の婆ちゃんも言ってたな。
アジアのマジックスクエアは四角いんだろ?
つまり私有地を紐で囲んで礼儀正しく「悪霊さんは立ち入り禁止」って訳だな?
流石アジア様は一味違うぜ!
ヒャッハーハー
ブッディストは俺達の嘲笑にも全く動じなかった。
煙草をくゆらしならが俺達はブッディストのありがたい呪文に聞き入っていた。
3分位経った頃だろうか。
突然、仲間のメキシコ野郎の一人がもがき苦しみ出した。
最初は愉快な演技かと思ったがいきなり黒い血を吐き出した。
狼狽する俺達をよそにブッディストはありがたい呪文を唱え続けながら黄金に輝く斧を手に取ると奇声を発しながら苦しむ仲間に向かって振り下ろした。
落とされた首は仲間のものでは無かった。
それは山犬の髑髏そのものだった。
ブッディストが叫ぶ。
仲間に連絡しろ!
まだ生きているかも知れない。
連絡を入れると死体の持っていた携帯は鳴らず本物の携帯に繋がった。
どうやら家でサボリがてらトリップ中らしかった。
今日は一度も屋敷には出勤していないと言う。
仲間に化けていたモノはドロリと溶けて跡形も無くなった。
その様子を見ていたメキシコ野郎全員が次の日には仕事を辞めていた。
俺とノイローゼ野郎とブッディストだけが屋敷に残された。
冗談じゃねぇ!
俺はこんなエクソシストゴッコやるなんざ聞いてねぇぜ!
思わず口に出そうになったが金は欲しい。
ブッディストは言った。
今夜が山だ。
何か強い力が作用している。
これは人間にどうこう出来る力では無い。
こんなデタラメな力を扱うならば早晩術者も無事では済まないだろう。
護りに徹すれば我々に分がある。
死力を尽くすが万が一という事もある。
死にたくなければ貴方は逃げた方がいい。
その日の夜空は見た事も無い位の深い闇に覆われていた。
田舎だから星の眺めは良い筈なんだがな。
ありがたい呪文が響く。
俺は子供の頃に祖母と観たチャイニーズ映画を思い出していた。
祖母はブラジル育ちで日本語は喋れなかったがいつも熱心にアジアの文化について俺に教えてくれていた。
俺は頭が良くないせいかあまり覚えてはいないが。
ただ、あのチャイニーズ映画に出て来たミイラの顔だけはよく夢にまで出て来て忘れられなかった。
トラウマってやつか。
そのお陰で俺はホラー映画が大嫌いになった。
そんな事をぼんやりと考えていた時だった。
ゴマダンって祭壇に妙な仮面が浮き上がってきた。
かなり巨大だ・・・
お、おい、ブッディストありゃ何だ!
ブッディストのありがたい呪文が止まった。
これは驚いた。
邪悪な気配はしない。
むしろその逆だ。
恐らくこの辺りのチンジュなのだろう。
我々に力を貸してくれるのか?
おいブッディスト!
そのチンジュとは何だ?
日本語で土着神や守護神の事だが?
ふざけんなブッディスト!
今すぐに呪文を唱え続けろ!
そいつは敵だ!
何だと?馬鹿な!
聖なるものは人の敵になどなりません。
ブッディストの驚く様の真後ろで祭壇が巨大な骸骨の握り拳によって叩き潰された!
その刹那、仮面野郎の目玉に俺は自慢のM513ジャッジ・マグナムを3発ブチ込んでやった。
バケモンに効いたかどうかは分からない。
バカヤロォオ!
お前はこの国で起こっている事が何も理解出来ちゃいない!
この国の先住民だの土着神とやらに俺達のクライアントが一体何をして来たと思う?
こいつぁ・・・
仮面野郎の拳骨は幾度も容赦無く屋敷に振り下ろされる。
ケッカイを破ったソイツはバカみてーにデカかった。
奴がノイローゼ野郎の寝室へと向かっている事は分かる。
糞ったれが!
ヤケクソになった俺はノイローゼ野郎のオカルトコレクションのガラスケースを叩き割りやたらめったらアンティークの槍や石斧やらの呪物を片っ端から仮面野郎に投げつけてやった。
そらぁ!起きろてめぇら!ラグナロクの勃発だァ!いつまで寝てやがる!アイツを殺せ!
その時だった。
ゴオオオオオオォォォ
轟音の様な悲鳴と共に仮面野郎は動かなくなった。
ブッディストと共に近付いていくがそこには小柄なミイラが横たわっているだけだった。
身体装飾からしてさぞかし高貴な身分のミイラだろう。
成る程、頭が下がるね。紀元前のノブレス・オブリージュ様って訳だ?
ミイラの胸には俺の投擲した先住民族の槍が深々と刺さっていた。
それはノイローゼ野郎のコレクションの一つだった
何となく見当は付いていた。
俺達に問い詰められたノイローゼ野郎の告白によれば若い頃に多国籍企業に雇われて山岳地帯の村を幾つか襲撃した事があったという。
ブルドーザーに乗り機銃掃射で脅し強制的に村人を立ち退かせた。
その頃からノイローゼ野郎は悪夢に魘され不眠症を患う様になった。
悪夢から逃れようとヤクに依存する様になったが悪夢は余計に悪化したという。
と言うか思った通りだ。
ブッディストによるとこの先住民ミイラも槍も文化財として貴重なものらしかった。
ブッディストがクヨウした後にノイローゼ野郎は槍が刺さったままのミイラをこの国からリオまで運んで地元の国立博物館に寄付したそうだ。
畜生、こんなの誰も信じねぇだろうな。
冗談キツイぜ・・・まさかこの歳でウ○トラマンと戦う嵌めになるたぁな。
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