中編3
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あちたちったくなうね!

埼玉の知人から聞いた話です。

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私には舞という4歳の娘が居ます。

「あちたになったやまいちゃん大きくなれう?」

それは明日になってみたいとわかんないねー

「じゃーあちたちったくなうね!○○ちゃんにお願いすうー」

えー?明日舞ちゃん小っちゃくなっちゃうのー?

「うん!○○ちゃんにお願いすうー」

そういった他愛の無い親子の会話でした。

「おはおーママちったくなったったー!ポテトチップスいっぱいだお!でもこえちょっとしょっぱいお!」

翌朝、掌程に小さく体の縮んだ舞がポテトチップスを美味しそうに頬張っている姿を見て私は卒倒しました。

その日は舞が危篤だと言って徹夜仕事だった夫を会社から呼び戻しました。

家に戻った夫も最初は事態が飲み込めず混乱しきりでした。

夫もこれはこの世の理で理解出来る様な尋常な事態では無いという結論に至りました。

私は舞の言っていた○○ちゃんにお願いすると言っていた言葉が気になりました。

○○ちゃんは他愛の無いお人形です。

変な事に舞がお願いしていた○○ちゃん人形はいつの間にか家から消えていました。

医者や霊脳者に見せるべきかどうか夫と話し合いましたが「シュレディンガーの猫では無いけども、この状態の舞をビデオ撮影しない方が良いのでは無いか?」と言われ私も何とか自力で舞を元に戻す方法を模索する事に決めました。

特に○○ちゃん人形がどこにも見当たらない事に得体の知れない不安を感じていました。

舞は小人の姿が気に入っているらしかったのですが、小人のままだと病気になって死んじゃうから大きくなろね!

何でも好きなものを食べさせてあげるし何でも好きな玩具も買ってあげるから明日は絶対に大きくなろうね!

大きくなれる様に神様にお願いしようね!

何でもお願い聞いてあげるから大きくなってね!

と何度も何度も説得しました。

グズらない様に普段小人になったらやりたいと言っていた事を飽きるまでさせてあげました。

トイレットペーパーの芯を潜る。

アイスクリームの上で走り回る。

ピザの上のチーズを掬って食べる。

人生ゲームの盤上で遊ぶ。

ミニサイズ折り紙を折る。

○○ちゃんハウスで遊ぶ。

これらを思う存分堪能させてから眠らせました。

この一日精神的にかなり疲労困憊していた夫と私は舞と一緒に眠ってしまいました。

それが良かったのかどうか分かりませんが翌日、舞は元の体型に戻っていました。

不思議な事に小人になっていた時の記憶は全て忘れている様でした。

○○ちゃん人形を持っていた事も忘れていました。

そもそも私は○○ちゃん人形を舞に買い与えた記憶がありません。

夫も私が買い与えたものだとずっと思い込んでいたそうです。

夫と一緒に昨日舞が遊び回ったピザやアイスクリームを恐る恐る確認してみました。

残されていた足跡は明らかに舞のものではなく○○ちゃん人形の均一で扁平な足跡に見えました。

それ以来我が家では数年間小人と○○ちゃん人形に関連するワードは完全に禁句となりました。

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