長編8
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魔境

昔、俺が6、7歳位の餓鬼だった頃の話。

俺の実家近くのイリオンとかいうゲーセンの私道には

子供達が雑貨屋とか駄菓子屋で買った

白い石とかでよくゲームキャラとかを落書きをしてあったんだが、

それが何故かいつも私道のマンホールの穴の中にまで続いていたんだよね。

落書きがあると

マンホールの蓋もいつも空けられている。

何度蓋を閉めても

いつの間にか落書きと共に蓋が空けられているんだ。

いつも気になっていたから、

ある日そこに入って調べてみる事にした。

錆びた細い梯子を伝って穴を降りて行くと

下水道の中は真っ暗で

チビりそうになる位に怖かった。

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急いで懐中電灯のスイッチを入れて照らすと

黒色壁に白い落書きがいっぱいにびっしりと描かれていた。

床には鉛筆や破れた紙片に

空缶やら菓子の袋やらが

汚ならしく散乱している。

壁に光を戻す、

描いては消し描いては消すを繰り返したその壁面は

さながら落書きの学校といった感じだった。

呆然としながら落書きに魅入っていた。

少し奥へと進む。

多分Hな落書きも少しあったと思うが

スプレーでチーマーとかが描く様な類いの落書きは少なかったと思う。

5分は歩いたか?

地上やマンホール入り口にある小さな落書きの様に消される事は無い

巨大な絵がそこには延々と続いていた。

今になって思い出してみても

本当に子供達があれを描いたのだろうか?

と思う。

少なくとも当時の友達で

あんな凄い絵を描ける奴を俺は知らない。

これはきっと大昔の子供が描いたのかも知れない、

当時の俺の知ってるゲームキャラよりも

空想の機械とか大昔の口から光線を吐く怪獣や

それと戦う光の巨人とかの絵の方が多かったからだ。

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そこには何か空想とフィクションの混淆した様な

宗教画の壮大さを感じさせた。

暗闇への恐怖と絵に対する感動とが内混ぜになった好奇心が

俺をじりじりと奥へ進ませた。

奥に行けば行くほど

絵がどんどん精緻になっていく。

それは少年誌のサイボーグ戦士の体内図解にも見える。

もう、どれだけ歩いただろうか?

相変わらず壮観な絵は

壁一面を埋め尽くしていた。

ゲームや漫画の絵は減り

次第に幾何学模様や抽象的図形の絵が増えていく。

もう暗闇への恐怖は消えていた。

俺の貧弱な語彙で申し訳無いが

それらは最早落書きと呼ぶ事が出来ない位の、

そこら辺の現代アートが霞んで見える位の凄まじい偉容を湛えていた。

更に奥へと進んでいく。

するとぼんやりとした薄い鬼火りが見えて来て

心臓をぎゅっとされる位ビックリした。

だが今度も好奇心が勝り

鬼火に近づいていく…

それは豆電球だった。

壁が錆びているのか

赤地に真っ白い線が引かれ幾重にも重なり、

それが豆電球の赤い光に照らされている様は

もうさながら太古の曼陀羅の様だった。

どんどん奥へ奥へと曼陀羅を辿っていく。

無限曼陀羅回廊の最央部…

その行き止まりの先に

1つの錆びたドアが

まるで玉座の如く聳えていた。

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その中央には比喩でも何でも無く

"如来"そのものがぼんやりと虚空に浮かぶ様に座していたのだ!

ゾクッとして、

いくら何でも出来過ぎでは無いか?

と自分の目を疑い目をゴシゴシと擦った。

再度瞬きと共に目を凝らす。

やはり如来だった。

それはどうやら如来像のプリントされたステッカーの様だった。

極彩色のチベット風味な青い如来の絵の下に

漢字で「魔境」その下に

小さいアルファベットが印字されていた。

よく覚えて無いのだが

「Shambalah」と印字されていたんだと思う。

その錆びたドアを開けてみる。

すると…

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そこにはゲーセン経営者の息子である中学生の青さん

(当時ハマった赤、緑、青、黄4色な某○○堂ゲームにちなむ)

が居た。

青さんは子供好きな人で

ゲーセンの子供達によく菓子をおごってくれたり

ゲームの裏技や攻略法を教えてくれたり

メダルをバラ撒く事で餌付けしており

近所中の子供達から慕われていた。

マンガ、アニメ、ゲーム、フィギュア、ガレキ、菓子、

映画やアイドルのポスター、基盤、菓子のゴミ、

その他意味のわからない種々のガラクタや

謎の機械でゴチャゴチャした部屋の中心部の青い座布団に座って

テレビゲームをしていた青さんが俺に気付き後ろを振り向く。

ん?おおー?

なんだみょん脅かすなー♪人間か?

っておめー俺君坊主じゃんか?

何勝手に人ん家に入って来てんだみょん。

出てけ。

出てけんと割礼剥けリンガにしちゃるけんの!

いきなりそう言うと

錆びたカッターと五鈷杵を手に持ち

ちょこちょこと近づいて来る青さん。

過去にブチキレた青さんが

悪ガキの局部を切断したという都市伝説を思い出して

"恐愕"した俺は

「あのーここは何なんですか?」

と聞いた。

んー

俺の部屋だみょん?

ってか、

お前一人でここまで来たのかに?

よく怖くなかったなーお前?

普通のガキンチョなら来れない筈なんだが

…何も無かった?

「あれ、でも青さんの部屋って

イリオンの地下ニ階ですよね?

こんなとこにも部屋ってあったんですか?」

んだんだ!

おいらの秘密基地シャンバラなんだみょん!

じゃーもうここの存在は他言無用だにょ?

「でもここゲームでいっぱいですよね!

何で秘密なの?」

だってこれ全部呪われてるから。

「え?」

ここにあるゲームとか

本当にヤバいやつばっかだからね。

まあ、オヤジ殿が色々と仕入れて来るんだけれど、

あの人ゲームの知識とか無いからね。

いわくつきのヤバいバグゲーとか掴まされて来る時が結構あんのよ。

店じゃ出せない代物だし

こうして俺様が有意義にお祓いしてやっているという訳なのよね。

「呪われてるの?」

例えばお前の足元にあるそこのパズル。

それ完成させたらどうなると思う?

足元に視線を落とす俺。

ピカピカ光る金属製の青色に輝く魚のオブジェと

赤色に輝く鳥のオブジェと

六芒星みたいな魔方陣が書かれた円盤が

無造作に床に置いてあった。

触ろうと手を伸ばす。

「触るな!絶対に触るな!地獄に堕ちるぞ」

「え?」

メカニズムは不明だが、

それ自体がこの世に開けられた地獄へ続く穴になっている。

それを2つとも完成させて

その台座に組み合わせると

地獄に繋がる仕組みだ。

俺はビビってブルブルッと震えた。

じゃあ、今度はそっちの筐体をちょっとやってみ?

勝つとメダルじゃなくて大昔の古銭がな…

「え?あ、ああああの別にいいです」

ははっ

ここのヤバさが分かればいーのよ。

分かったら二度と来るんじゃねーぞ?

勝手に入んなよ?

(今度はデューク東郷風味な声色)

さー帰れ帰れ!

んまいぼーやるから!ほれほれ?

消えろくそがきんちょー!

一本だけ貰ったんまいぼーを頬張りながら

何か釈然とせずに

また入口まで戻る事にした。

少し歩いたが後ろを振り向く。

部屋の光が漏れている。

ドアを開けたままにして青さんはまた

ゲーム画面を食い入る様に見ていた。

すると突然に奇っ怪な電子音が響いた後

おっしゃー!けつばんゲットォー

という青さんの雄叫びが響いた。

それが妙に怖く感じて

急いで入口へ走った。

相当部屋から遠ざかったのに

まだけつばんの鳴き声が聞こえている。

恐怖で泣きじゃくりながら走った。

壁はもう見ていない。

だが、嫌でも目に映る。

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落書きは何故か行きとは違って不気味だった。

模様は生贄に捧げられた

古代アステカ戦士の内臓図の様にも見えた。

かわいらしさの微塵も感じ無い

ずっと見てると気が狂う様な醜悪な化物の絵ばかりだった。

けつばんがずっと後ろから追いかけて来る様な感じがして

絶対に後ろだけは振り向かなかった。

それから先の記憶は曖昧で覚えていない。

何とか入口の所にまで付いた。

懐中電灯で入口を照らすと

赤錆びて所々腐った梯子が見えた。

「嘘だぁ!

入った時はこんなにボロボロじゃ無かったぞ!」

と涙声で叫んだ。

狂った様に一心不乱に梯子を登った。

中程まで差し掛かると

バキッっと嫌な音を発て梯子が外れてる。

涙目でぐちゃぐちゃになった視界が

スローモーションの様に

ゆっくりと体が落ちていくのを捉えていた。

はぁ!?俺ここで死ぬの?

本当にそう思った。

ドサッ

痛みはあまり感じない。

多分痛みを感じる間もなく即死したんだろうか?。

嫌だなぁこんな所で。

地縛霊になりたく無いなぁ…

そんな事を考えながらゆっくりと目を開けると

俺は青さんの手腕の中に居た。

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「何やってんのお前?」

「青さん?」

馬鹿だろお前?

もしやと思って来てみたけど、

お前この梯子古くなってるから

すっげーアブねーんだぞ?

このナイスな梯子使え!

アホだろお前?

「ずっと追いかけてきてくれたんですか?」

は?

「ありがとうございます。」

いやいや、

部屋からお前を見てたらよ。

いきなりぶつぶつ言いながら

いきなり奥に走り出したかと思えばよー

梯子を登りだしてアブねーって思ったから。

「え?」

部屋から見えたって…

どういう事だろうか?

もしかして青さんは霊能力者なんだろうか?

不思議に思って不意に下水の奥を覗く。

「えええ?嘘だろ?」

入口からすぐ側に見える所に

あの豆電球の灯りと共に

あの魔境から漏れている光が見えた。

ええ?あんなに走ったのに!?

あの魔境部屋が入口のこんな近くに?

そんな事…信じられない!

「こ、これも呪いなんですか?」

青さんは言った。

こっちも見てみ!

青さんは魔境とは逆の方向を指差す。

俺が走って来た暗闇が広がっていた。

「むしろこっちが聞きたいんですけど?

何で入口じゃなくてあんな奥の暗い道にずっと走ってったの?

あんな真っ暗で入り組んでる所俺でも行かねーよ。

迷って死ぬっしょ」

当時は青さんの言葉が理解出来なかった。

今にして思えば信じ難い事だが

地上への入口は魔境のすぐ近くにあったという事なんだろう。

つまり簡単に言うと

下水道は直線では無くて

「∞」な風に曲がり入り組んでいたのだ。

マンホール入口から降りて左側は魔境へ、

右側は例の落書きのある下水道に続いていたのだ。

何で一番最初に魔境に気付けなかったのか?

何で帰る時に入口に気付かずに

通り過ぎてしまったのか?

そして、落書きのあるルートに迷い込んで

どうして同じ場所に生きて戻って来れたのか?

今でも分からない。

俺は青さんにおんぶされたまま外に出た。

外に出ると安心したのか、

そのまま気を失ってしまったらしい。

青さんのお母さんのチャリのチャイルドシートに乗せてもらい

家まで送ってもらった。

そのせいでしばらくは

チャイルドという不名誉な渾名を付けられた事は

今では懐かしい黒歴史だ。

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