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金縛りの逆襲───或る不器用な夫の場合

中編3
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金縛りの逆襲───或る不器用な夫の場合

叫ぼうにも、喉を締め上げられた感じで声を出せないのが金縛り。

で、私が寝ていて何だか身体は寝ているのに意識が起き出して、勿論身体を動かそうにも動かせない。

見張られている?では、怖いけどその姿を見せてくれたまえ。何で出て来ないの?やーい、お前の〇〇デーベソ、ならぬお前腹壊しちゃえ。

そうしたら、奥方が私の足先で鬼の形相で睨み付けているではないか。

えっ!!奥さんの仕業か!うちのカミさんがね………なんて、一見冴えない刑事の真似なんてしている場合では無い。ゴミ出しを忘れたからか、弁当を持って行くのを忘れたからか、「有難う」を言い忘れたか………って、ことごとく忘れた事ばかり思い起こして、土下座したいけども身体がオヤスミナサイしているので、脂汗ばかり浮かぶ。御免なさい………もだけど、察するだけの脳味噌が無いから、指摘や言って貰わねば、こっちも分からないよ。あっ、これ唯一の私の我がまま。

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翌朝、飯を喰い終わって、「御馳走様」を言おうとしたら、奥方の顔が腫れている。

「大丈夫?私の鼾(いびき)が酷いのかな。御免ね」と謝って見るが、奥方は力無く「うん、大丈夫」と返すだけである。

寝ている際に、私が夢遊病状態で暴力を振るっていたら嫌だなァ。

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私は、又身体が寝ていて、意識が目覚めている状態で金縛りに遭う。

足元を見ると、奥方は般若(はんにゃ)の面を着けた女子プロレスラーみたいな身体付きの良い女性にビンタされているではないか。

耳を澄ましても、ビンタしている般若の面からの言葉は聞けず、休日昼に満員の食堂の様なガヤガヤザワザワを、大音量で聞かされている様な耳鳴りで、大変に耳障りである。

「やめろ!やめてくれ!彼女が何をした!」と般若の面に言おうとしても、「や、あ、が、あ………」と絞り込む様な声しか出ずに、動かない身体に「馬鹿めっ!!さっさと起きるんだよ無能がっ!!ギーっ!!」と罵声の如き命令を下す。

スポンと音のする様な感じで金縛りが解けて、メニョリと変な感覚が襲う………よりによって、弱々しい蹴りで私の足裏が、般若の面にクリーンヒットしてしまったのである。

顔を覆った般若の面は、もがき苦しむ感じでのたうち回って消えてしまう。

「わあああああ………!」

解放された故か、いきなり私が酷い目に遭わせていた相手に変な技を繰り出してしまった姿が余りにもショッキングだったのか、奥方は泣き出した。

フラフラしながらも、私は「嫌なら拒否して」とボンヤリ言いながら、奥方に寄り添って抱き締める。

あれ以降、金縛りは無くなったが、一応不平不満が有ったら話して見る取り決めが出来て、どうやら私の鼾が嫌で、念を送っていたのが分かった。だが、般若の面を着けた女子プロレスラーみたいな良く分からない存在に技を決められたり、ひっぱたかれたりして、挙げ句にあの怖い面越しに睨まれて説教をかまされたりして、すっかり憔悴し切ってしまったとの話である。

早く言ってくれたら、鼻テープで工夫したりしたのだけど………然し、般若の面を着けた女子プロレスラーみたいなあの人は、一体誰だったのやら。

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