中編3
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姪の写真

四国の友人から聞いた話です。

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私には姪が居ました。

いや、居ましたと言っても厳密には彼女はまだ存命です。

これから私はどうすればいいのか分かりません。

本当の事を弟夫婦に伝えるべきなのかどうか。

両親と弟夫婦とで一緒に旅行に行った時に話は遡ります。

写真が趣味の弟は自慢の一枚である姪の写真を旅行先の旅館で見せびらかしていました。

「かわいい子ですね」

「いやぁ親馬鹿でして・・・」

他愛も無い会話でした。

そこに何か違和感を放つ長髪の顔の見えない不気味な女が割り込んで来たのです。

「あら・・・本当にかわいい猫ちゃんですね・・・」

女は確かにそう口にしました。

ん?姪がかわいい猫?それは一体どういう意味だろう?

思えばこの違和感を感じた時にすぐに私が何か行動に移していれば或いはこの不気味な女の目論見を防ぐ事が出来たのかも知れません。

今となっては全てが後の祭りとなってしまいましたが。

「そうでしょう!」

弟が即座に答えます。

「この子、今何歳なんですか?」

「4歳です」

「はぁ・・・人間で言えば30歳位ですね・・・」

不気味な女がそう口にした瞬間、軽い地震が起こった事を記憶しています。

それと同時に私は激しい頭痛に襲われ1分位その場に倒れ込みました。

両親と弟夫婦も同様でした。

震度3位だったと思います。

その場で観たテレビのニュース速報を覚えています。

弟が言いました。

「結構揺れましたね?それでは、失礼します。あの子に餌をあげに行かなくてはならないので・・・」

私は弟の言葉に心臓を握り潰された様な衝撃を受けました。

今迄の人生の中で感じた事の無い嫌な予感に襲われました。

この女何かやりやがった!

弟が姪が眠っている部屋に向かうよりも先に私は走っていました。

しかし私が戸を開けるほんの1秒前・・・

「にゃーん」

私は猫の鳴き声を聞いてしまいました。

私はその場に転倒し突っ伏しました。

クソオオオッ

何故かこの時、身体中の力が抜けていきました。

「大丈夫か兄貴?」

弟が戸を開きます。

「カナコちゃん!ご飯だよーん!」

「にゃーん」

その姿は明らかに見慣れた姪ではなく4歳位の成猫でした。

クソオオオッ

嗚咽する私の横にはあの女が立っていました。

「にゃーん」

女は嘲笑する様に猫の鳴き真似をしました。

それは先程聞こえた猫の鳴き声そのものでした。

女が弟の写真を床に放り投げました。

写真に写っていたのは姪ではなく部屋に居た白い成猫でした。

「・・・!」

シュレディンガーの猫・・・まんまとやられた!

頭の中でぐるぐる回っていた不安の正体が言葉となって具現化しました。

私は再び激しい頭痛に襲われ床に嘔吐していた。

女がどんな呪詛を使ったのか・・・どんな恨みを弟に抱いていたのか・・・

動機なんて素人の私には見当も付きません。

しかしオカルトなんてものを信じていなかった私の人生観を180度根底から破壊する事件でした。

狼狽する弟に介抱されながら私は・・・

不気味に笑いながら天井を四つん這いで走り去っていくあの女を朦朧とする意識の中で見ている事しか出来ませんでした。

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