「あなたに催眠術の力を授けましょう」
「なんだあんたいきなり」
「僕が誰かなんてそんなことはどうでもよろしい。催眠術の力、欲しくないのですか?」
「催眠術ってあれだろ?相手を自分の思い通りに動かせるって事か?」
「思い通り、という訳にはいきません。そんな事が出来たら世界がめちゃめちゃになってしまいますから。催眠術をかけられた相手が嫌だと思っていることは出来ないのですよ。例えば催眠術をかけた人を使って殺人をさせる‥なんてことはできません。とはいえ、持っていたら便利な能力でしょう?」
「まぁ持っておいて損はないのか。いただくとしよう」
「はい。これであなたは催眠術の力を得ました。注意事項を。催眠術をかけられた相手は基本的にかけられた事を記憶していません。都合の良い様に記憶は捏造されます」
「めちゃくちゃな能力だなあ」
「催眠術を解除するには本人の顔の前で手を二回叩いて音を聞かせてください拍手みたいな感じですね。では私はこれで。くれぐれも悪用しないように‥」
「わかったわかった。って消えちまった。本当に催眠術なんかできるようになったのだろうか‥」
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「色々試してみたが、案外使い道がないなぁこの能力。同僚に俺の仕事を代わりにやらせようとしたが、催眠術が効かなかった。みんな他人の仕事なんてやりたくないんだろうな。なんとかしてうまい活用方法を‥ん‥待てよ?本人が嫌がらなければ良いんだよな?よし。試してみるか」
「作戦はこうだ。まず俺の家の鍵を家の前に落としておく。そうしてそいつに催眠術をかける。『鍵を拾え。拾った鍵を使って中に入れ。そうして机に置いてある金を自由に使って遊べ。ただし金は使いきれ』とな。鍵を拾うこと自体を嫌がる理由はないし、家に入れるだけだから何の問題もないだろう。金は俺の所持金だし、金を使って遊ぶことを嫌がる人間はいない‥いやいるにはいるだろうが大多数はそうじゃない。これなら催眠術は効くはずだ」
「え?自分の金まで出して人を遊ばせる意味がわからないって?これにはちゃんと意味がある。確かに当人は催眠術にかかっている。しかしこれを第三者の視点で見たらどうなる?落ちていた鍵を使った人間が家に入って、その家に置いてある金を奪って逃げて、その金で遊んでいる様に見えるだろうな。俺は家に入ってきた人間が金を持っていく様子をビデオに収めて、そいつをゆすりにでも行けばいい。出した金なんざすぐ回収できるさ。完璧な計画じゃあないか!」
「おい、ちょっとあんた。人から取った金でなにをしてるんだ?」
「見りゃわかるでしょう。服を買ってんのよ。てかあなた誰?いきなり何よ」
「つべこべ言わずにこの映像を見ろ。俺の家に侵入して金を持っていくあんたの姿だ。これを持って警察に行けばあんたはおしまいだ。今からそうしてもいいんだぜ?」
「ご、ごめんなさい‥鍵が落ちていたのよ。たまたま入った家で、目の前にお金が置いてあって、しかも自由に使っていいって言われた様な気がして‥お金はお返ししますから、どうか警察には‥!」
「まあ出来心というものもあるから、考えてあげない事もないが‥俺は精神的に不快な思いをしたわけだ。その埋め合わせをしてくれないと困るよ。口止め料をよこしな。それで黙っててやるよ」
「分かりました‥2、3日待ってください」
「よし。これで手打ちだ」
パンパン
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「はっはっはぁ!こんなに上手く行くとは思わなかった。まとまった金が手に入ったし飲みにでもいくか!足りなくなったらまたおんなじことをすれば良い。これで俺は大金持ちだ!‥なんだ?こんな時間にだれだ?」
「こんばんは。夜遅くにすみません。ちょっと言いたい事があるんですよ」
「なんだ?あんた誰だ。こんな時間に家を訪ねてきて。要件はなんだ?」
「この映像見てほしいんです。この前僕が行った店で変なことを話してる人がいて、それを録画したものになります。やっぱりあなたでしたか。あ、勿論音もちゃんと入ってるんですよ。ゆすりって奴じゃないですか?これ。しかもほら。これは別の日にあの女性があなたにお金を渡してる映像。これはいかんでしょう」
「なんでこんなものが‥!」
「僕はねぇ。わりと勘が良い方なんですよ。どうせ彼女に催眠術でもかけたんでしょ?催眠術は本人が嫌がってることはできないけど、そうじゃなければ出来る。上手いこと考えましたねぇ。でも悪事はいつかばれる物です。天罰って奴ですよ。では私はこれから警察に‥」
「ちょっと待ってくれ!遊ぶ金が欲しかっただけなんだよ!み、見逃してくれないか‥?何でもするからよ!」
「まあ出来心というものもありますし、あなたの人生を壊したって僕にはなんの得もありませんが‥しかしね。このまま黙っておくというのもねぇ」
「彼女から貰った金は返す!あとあんたへの口止め料も払うから!」
「そこまでおっしゃられると‥いいですか?あなたは自分の意思で口止め料を払うわけです。僕が恐喝したとか、嫌がるあなたに無理に払わせてるわけじゃないのですよ?」
「ああそうだ。これは俺の意思で払う金だ!だからそのビデオテープを‥」
「わかりました。そうおっしゃるならビデオテープはお渡しします。もう彼女の顔は見たくないでしょう?私から渡しておきますから。そこのお金全部渡して下さい。どうせ彼女のお金でしょう?‥はい。これで手打ちというわけですね」
パンパン
「お邪魔しました。もう二度と会うことは無いでしょうが、悪いことはしてはいけませんよ」
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「全く‥ひどい目にあった‥有り金が殆どなくなっちまった‥上手くいくと思ったんだけどなぁ。どっからバレたんだろう。‥やっぱり催眠術なんて悪用するもんじゃねえなぁ‥あれ、そもそも俺、彼女にどうやって催眠術をかけたんだ‥?俺は催眠術のかけ方なんか知らないぞ‥!?」
作者嘘猫
最近時間がなくてレギュラーメンバが登場しない短い話しか書けないんですよね‥また活躍させてあげたいのですが
それはさておき、皆さん今回の話は理解できましたかね?