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中編6
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食べたい〈3〉(完結)

 真愛が智を食べてから四ヶ月後、地元を離れ、地方の大学に進学した真愛は一人暮らしを始めていた。

 真愛は、大学では料理研究会に入ろうと決めていたため、入学式が終わった後早速その大学の料理研究会の見学に行った。

 真愛の大学の料理研究会は、全員で二十人ほどだが授業やアルバイトのスケジュールが会員ごとに違うため、月に二回のミーティングと月に一回の実食会以外は全員集まることはほぼなかった。料理研究会の説明会後、新入生歓迎コンパが行われたのだが、真愛はそこである人物の姿を見つけ驚いた。彼女も真愛に気づいたようで一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真愛がよく知っている笑顔で微笑みかけてきた。

「お久しぶりです。朱音先輩」

 真愛は、朱音に話しかける。

「久しぶり、真愛ちゃん。しばらく会わないうちに、ずいぶん大人っぽくなったわね」

 朱音は微笑みながら真愛にそう返す。

「朱音先輩は、全然変わりませんね」

 その後、二人はこれまでにあったことや互いの近況について話し、新入生歓迎コンパは終わった。

 ある日、真愛が授業の課題のための資料を図書館で探していると、朱音と出会った。

「あっ、朱音先輩。こんにちは」

「あら、真愛ちゃん。こんにちは」

 二人は挨拶を交わして話し始めた。

「何か調べものですか?」

「ええ、調べものと言うほどでもないんだけど、卒業論文のテーマをもっと具体的に決めるように先生に言われたから、そのためにね。真愛ちゃんこそ、何か調べもの?」

「はい、授業の課題のための資料を探しに来たんです」

 そこで真愛はふと気になったことを朱音に質問する。

「そういえば朱音先輩は、なんでこの大学を選んだんですか?」

「勉強したかった分野の研究で有名な人がこの大学の教授だったからよ。真愛ちゃんは?」

 朱音はそう答え、真愛に聞き返す。

「私はカニバリズムについて知りたくて、この大学にはカニバリズム研究で有名な教授がいると知ったからです」

 そう真愛が答えると、

「あら、それなら私と同じじゃない」

と朱音は答えた。

「えっ、そうなんですか?」

 朱音からの思いがけない言葉に真愛は驚いた。

「そうよ、私もカニバリズムについて勉強したくてこの大学を選んだの。ふふふ、何か運命的なものを感じるわね」

 真愛もこの偶然に運命的なものを感じ答える。

「そうですね。やっぱり私たちの間には何か特別な絆みたいなものがあるような気がします」

 朱音はそこであることを思い出した。

「そうだ、真愛ちゃん。カニバリズムについて知りたいなら、おすすめの資料があるの。雑誌論文なんだけど、この大学の図書館にあったはずだから一度読んでみると良いわ」

「そうなんですか。なんていう論文ですか?」

 真愛は朱音からその論文の題名と掲載されている雑誌の名前を教えてもらい、図書館で読んでみた。そこには実際のカニバリズムの事例とそこから考察されるカニバリズムが象徴するものが述べられていた。その中でも特に真愛が感銘を受けたのが、パリ人肉事件の犯人である佐川一政が食べたいという欲求とともに、食べられたいという欲求があったということであった。

 論文を読み終わったとき、真愛の頭の中はこれまでにないほどクリアになっていた。これまで自分の中で言語化できなかったカニバリズムの意味がこの論文を読むことで一気に言語化され理解することができたのだ。それと同時に彼女は自分が本当は何を望んでいたのかを理解した。彼女が望んでいたことは愛する人を食べることで同一化することではなく、自身が愛する人に食べられることで同一化することだった。

 翌日、真愛は朱音に会っていた。

「朱音先輩、前に言ってましたよね。愛している人とずっと一緒にいるためにはその人を食べるか、その人に食べられるしかないって」

 朱音は微笑みながら答える。

「ええ、確かに言ったわ。ふふ、覚えていたのね」

「それで、朱音先輩にお願いがあるんです」

「そうなの?どんなお願いかしら」

 真愛は頬を赤くしながら言う。

「朱音先輩……私を、食べてください」

 朱音は真愛からの思いがけない頼みに少し戸惑いながら話す。

「唐突ね。真愛ちゃん、とりあえず理由を教えてくれる?」

 真愛は理由を話した。

「はい、高校三年の時に二つ下の男の子を好きになって、彼を食べました。でも、私が感じたのは虚しさだけで、どうして満たされないのかそれからずっと考えてました。でも、この間朱音先輩が教えてくれた論文のおかげで私が本当に望んでいたのは愛する人に食べられることだって気づいたんです」

 真愛の答えを聞いた朱音は確認するように尋ねる。

「それで、私に食べられたいって思ったの?」

「はい」

 その答えに朱音は先ほどよりもよりゆっくりと確認するように尋ねる。

「つまり、あなたは私のことを愛してるって受け取ってもいいのね?」

「はい」

 その答えを聞いた朱音は、満足げに微笑みで話す。

「ふふ、やっぱり私たちは運命の赤い糸で繋がっていたみたいね。真愛ちゃん、私もあなたのことが好きよ」

 朱音のその言葉に真愛は驚いたように聞き返す。

「本当ですか!?」

 朱音は普段は見せないような笑顔で答える。

「ええ、だから私に食べてほしいって言うお願い、聞いてあげる。むしろ私の方から食べさせてってお願いしたいくらいよ」

「ありがとうございます!」

 朱音はまるで旅行の予定を決めるような口調で真愛に尋ねる。

「それで、早速だけれどいつにする?」

「私はいつでも良いですけど、できるだけ早めが良いです」

 その答えを聞いて朱音は提案する。

「そう、じゃああなたの誕生日はどう?たしか来月だったわよね」

 朱音の提案に真愛はすぐに賛成する。

「それすごく良いです!そうしましょう」

「じゃあ、その日にあなたの家で」

「はい、楽しみにしています」

 真愛の誕生日当日の夜、朱音は真愛の家の前に来ていた。朱音は真愛の部屋の呼び鈴を鳴らす。

──ピンポーン──

「はーい」

 すぐに返事があり、真愛が出てきた。

「こんばんは、真愛ちゃん」

「こんばんは、朱音先輩。どうぞ上がってください」

 朱音は真愛の雰囲気がいつもと違うことに気づき話しかける。

「あら、真愛ちゃん、ずいぶんおしゃれしてるじゃない」

「はい、今日は記念すべき日なので、頑張りました。どうですか?」

 朱音は微笑みながら答える。

「とっても可愛いわ。素敵よ」

「えへへ、ありがとうございます。それじゃあ、私の準備はもうできてるんで早速……」

 落ち着かない様子の真愛の言葉を遮って朱音が話す。

「真愛ちゃん、待ち遠しいのは分かるけど、せっかくだから二人きりで誕生日パーティをしない?ケーキを買ってきたの」

 そして、真愛と朱音は二人きりで誕生日パーティを行った。二人きりの誕生日パーティを十分に楽しんだ後、朱音は言った。

「それじゃあ、真愛ちゃん。そろそろやりましょうか」

「はい、お願いします。朱音先輩」

 そして、朱音は用意していた縄を使い真愛の首を絞めた。

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 テーブルの上にはたくさんの肉料理が並んでいる。そしてその中央には幸せそうな表情を浮かべた真愛の首が鎮座されていた。朱音は並べられた肉料理を一口ずつゆっくりとかみしめるように食べるのであった。

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