日常怪談「蛇口」

私の最近の悩みといえば、偶にではあるが、家の蛇口に「目」が見えることだ。

家の洗面所の蛇口は公園の水道に見る三角形のタイプではなく、昔ながらの銭湯にあるようなもので、白いドアノブみたいな2つの突起に赤と青の丸印がそれぞれついていた。

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つまりそれは温水と冷水の区別を表しているのだが、その赤の方の蛇口に、人間の目みたいなのが浮かび上がる時があるのだ。

最初はその蛇口を触ることさえ躊躇ったが、ある日の私は化粧を落とさずに寝るのが嫌で、蛇口に目があってもお構いなく捻ってみた。

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瞬間、ぐうぁ、みたいな声が響いて、蛇口の目は白目を剥いた。

そして少ししか蛇口を捻っていないのに、大量の赤い水がどばどばと出てきて、それは蛇口の向きをもとに戻しても止まらなかった。

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業者を呼んで修理してもらうのが面倒だったのと、その時ひどく酔っていたのもあって、私は赤色の水でも構わず、顔を洗ってしまった。

その水はなんだかぬるぬるしていて気持ち悪かったが、思いのほか化粧が綺麗に落ちたので、今ではメイク落としの代金が浮いて助かっている。