ある時を境に、俺は眼鏡をかけると妖怪の類が見えるようになった。
そういうのはよくある話なのかもしれないが、俺の場合は少し特殊だった。
というのも、俺のかけているのは、伊達メガネだった。
nextpage
つまり、俺の眼鏡にはレンズは入っていないし、裸眼でも1.2見えてしまうからその必要がなかった。
その眼鏡は、ただオシャレとしてかけているだけだった。
nextpage
もうひとつ、眼鏡をかけている時だけにあらわれる現象がある。
それは、眼鏡をかけると、俺の目が鏡に映らなくなるということだ。
俺の姿自体がではなく、眼鏡の縁の中にあるはずの、目だけが消えて無くなるのだ。
nextpage
目のあった位置には真っ黒な眼孔があるわけではなく、また、あるはずの瞼ものっぺらぼうのように肌で塞がれていた。
もちろん、眼鏡を外した時には元通りの位置に目は戻ってきた。
ただ、それならば、眼鏡をかけている時の俺は、どうやってモノを見ているのだろうか?
nextpage
そして、眼鏡をかけている時の俺は、周りからどのように見えているのだろうか?
俺はコレクションしていた伊達メガネを全部捨てて、それ以降眼鏡の類を身につけることはなくなった。
nextpage
あの時、眼鏡をかけた俺に見えていた妖怪たちは、みなが人間の目玉を喰っていた。
幸いその妖怪たちと目が合うことはなかったけど、もしお互いに気づいていたら、俺の目玉も喰われていたかもしれない。
nextpage
そう思うと、いまでも身震いしてしまうのだが、最近は眼鏡をかけてもいないのに、妖怪が見えるようになった。
そしてある日、俺の目は眼鏡なしでもついに鏡に映らなくなった。
nextpage
でも、俺はなぜかモノが見えた。
なによりいちばん恐ろしいのは、最近俺の視力が落ち始めているということだ。
仕事柄、俺は部長にコンタクトの着用を勧められているが、いくら説得されようと、理由も説明せずに断り続けている。
nextpage
ちなみに部長は、最近俺のことが妖怪の類に見えてしまうと言ってきたが、どうせそれは、気のせいだろう。
作者退会会員