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中編4
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「トランプ」

俺は大学で知り合った3人の友人と一緒に、トランプ遊びに没頭していた。

まさか大学生にもなってトランプなんかにハマるとは思っていなかったけど、一緒に盛り上がってくれる友人の存在はとてもありがたかった。

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彼らは俺より年上で、3人とも留年しているみたいだった。

なんでも、その理由は「まだ遊び足りない」かららしい。

大学生活が長い分、彼らはキャンパスライフのイロハを知っていて、彼らとの日常はいつもワクワクに溢れていた。

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そんな彼ら3人との出会いは、入学式の会場だった。

偶然話しかけられたことから意気投合し、それ以来講義のない夕方には誰かの家に集まって、テレビゲームや麻雀をして暇を潰していた。

しかしそれにも飽きた今、俺たちの中での流行は、トランプ一色になっていた。

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この日も友人の1人であるAの家で、夜遅くまで円卓を囲んでいた。

机の上にはお菓子や飲み物が用意され、時々その上を真っ白な腕が行き交った。

俺たちは夏休みなのにひたすら家にこもっていたから、みんなもやしのような腕をしていた。

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「うわー!また最初からババかよ!」

この日10周目のババ抜きがスタートすると、今日だけで5回も負けているAがそう叫んだ。

お前それ言っちゃうのかよ、と周りからは冷やかしの声があがった。

俺はふと、手に持っている絵柄のカードと目が合った。

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真正面を向いているJの顔を見て、俺はたとえ大人になっても、このトランプの絵柄と白い腕を思い出すのだろうなと、感傷に浸る気持ちになった。

いや、まだ大学生活は始まったばかりだ。いまはこの時間を楽しもう。

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そう思って俺もまた、「今度こそ勝てよ!」とAに向かって声を飛ばした。

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帰り道、俺は充実した気分を味わいながら歩いていた。

空はぼんやりと明るく、遠くに顔を出した朝日がハートのエースに見えてしまって俺は思わず苦笑した。

結局俺たちは、朝までずっとババ抜きをしていた。

それでも、徹夜明けの眠たい目で講義を受ける心配はなかった。

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いまは、なんたって夏休みなのだ。

その夏休みは、まだ1ヶ月近くも残っている。

俺は、これからも続く毎日に胸が高鳴り、大学生になれたことに感謝した。

大学であの3人に出会えて、本当に良かった。

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俺は歩きながら、無意識のうちに3人の顔をそれぞれトランプの絵柄に当てはめていた。

散々見てきた絵柄の顔は、これまた散々顔を合わせてきた3人のものと重なった。

あのお調子者のAがクイーンは似合わないか。そう思って吹き出したとき、ふと俺は寒気のようなものを感じた。

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俺は、自分の思考の寒さに呆れたのではなく、一晩中見てきたトランプの絵柄の、あるおかしな点に気づいたのだ。

というのも絵柄の顔、つまりJ・Q・Kの顔が、どれも真正面を向いていた。

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普通は、ある程度は横を向いてたりするものではないか?

あるいはすべての絵柄の顔が真正面を向いているというトランプもあるのだろうか?

俺の記憶の中では、今日見た絵柄のすべてがまるで自分を見つめているようにこちらを向いていた。

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だからこそ、俺は友人たちの顔を、図らずとも絵柄の顔に当てはめてしまったのだ。

俺は急に怖くなって、トランプの絵柄を確認してもらうためにAに電話をかけようと思った。

そしてポケットからスマホを取り出したとき、ひらひらと何かがアスファルトに落ちた。

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俺は拾い上げずとも、それがトランプであることを知った。

しかしそれは裏を向いていて、何のカードかはめくってみないとわからなかった。

このカードはたまたまポケットに入っていただけで、それによってもしかしたら絵柄の謎を解消できるかもしれないと、俺は前向きに捉えることにした。

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そして俺はカードを拾い上げ、ゆっくりとめくってみた。

そのカードは、ジョーカーだった。

カードの中央では踊っているような格好のピエロが、笑顔でこちらを見つめていた。

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そのピエロは、何かを言った。

次の瞬間、俺は後頭部にすさまじい衝撃をうけた。

そして俺はろくに手もつけずに、アスファルトに顔から倒れこんだ。

うつ伏せの俺の目の前には、ピエロの顔がひらひらと降ってきた。

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「今年のババは、お前だよ」

今度の声は、はっきりと聞こえた。

そして背後では、俺のよく知る3人の笑い声が起こった。

「まだ遊び足りないから」

彼らの留年の理由の本当の意味を、はじめて知った気がした。

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それでも俺は、その笑い声は目の前のピエロのものなのだと思った。

楽しかったはずの思い出を振り返りながら、必死にそう、思い込んだ。

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