中編6
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缶詰め

「ふぅー疲れた。」ケイコはいつものように旦那が仕事に出かけた後、リビングに掃除機をかけていた。

今はひとしきり綺麗になったので一休みしているところだ。

ソファの手前に腰掛けて何となく自分が今掃除したところを眺めていた

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「あれ、何かしら?」ケイコはそう呟きテレビ台とタンスの間に目をやった。

リビングの明かりに反射してキラッと光る何かがあった。

ケイコが近づいて確認してみると、一つの缶詰めが挟まっていた

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ケイコはそれを手に取り眺めてみた。何の柄もついていないただの銀色の缶詰めだった。

「なんでこんなところに?」とケイコは疑問に思った。

缶詰めの蓋は指を引っ掛けるタブが無く、缶切りで開けるタイプのものだった

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ケイコはその缶詰を振ったり、蓋を叩いたりしてみたが特に目立った音が立つこともなく中身は分からなかった。

ケイコはゴミ箱に捨てようと思いゴミ箱へ放り込もうとしたが思い止まった。

「あの人の大事なものが入っているのかもしれないわ」

そう思ったからだ

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ケイコは缶詰をリビングの机の上に置き、引き続き家事をしながら旦那の帰りを待つことにした。

掃除や洗濯物をしながらケイコはふと缶詰の中身を想像していた。

「もしかしたらお金が入っているかも」「旦那から私へのプレゼントかもしれない」「いや、大したことのないものかもね」

そんな風に考え出したらキリが無いもので一日が早く終わった。

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「ただいまー!」旦那が帰ってきた。ケイコは「おかえりー!」と出迎えながら片手に持った缶詰を旦那の前に差し出した。

「それ、どうしたんだい?」

「掃除したら出てきたの、あなたの物かもしれないと思って開けずに帰るのを待ってたのよ」

「そうだったのか、でも僕のものじゃないと思うなぁ。そんな缶詰め見たこともないし、普通缶詰めってサバとか柄があるだろう?」

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「私もそれは不思議に思ったわ。家事している間も中身が気になって仕方なかったのよ?」

「開けてみれば良かったじゃないか。それにしても今日の部屋はとても綺麗になっているね」

「缶詰めの中身はあなたと確認しようと思ったのよ。それを楽しみにしていたら一日があっという間だったわ」

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「そうか、それは良かったね。じゃあご飯食べた後、中身を開けてみようか」

「そうね。じゃあご飯用意するから着替えて待ってて」

やがてケイコと旦那はご飯を食べ終わり、缶詰めを開けることにした。

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「いよいよね、何だかドキドキするわ」

「そうだね、小判でも入っていたら家宝になるよ」

旦那が缶切りの刃を入れてゆっくりと蓋を開けていった。

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蓋を取ると缶詰の中にびっしりと茶色いペースト状のものが詰まっていた。ちょうどスーパーのミンチ肉を敷き詰めたような感じだった。

その上に一枚の紙が乗っていた。

「何これ?」

ケイコは当然持つであろう疑問を言った。

「分からない、紙は折られているようだから中身を確認してみよう」

旦那は家の引き出しから軍手を出して手につけてから紙を取り出した。

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ゆっくりと紙を開いていくと、ケイコと旦那は「うわ!」と軽い悲鳴を上げた。

その紙にはこう書かれていた。

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「この子に血をあげて下さい」

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「え?この子って誰のこと?」

ケイコは旦那に尋ねた。

「僕にも分からない、ただ気持ちの悪いモノであることは確かなようだ。急いで捨てよう」

旦那は袋を取りに少しだけ席を外した。その時

「あなた!これ見て!」ケイコが大きな声で言った。

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「どうしたんだい!?」急いで旦那が席に戻ると、ケイコは震えながら缶詰めを見つめていた。

「これ、紙が置かれていたところをよく見て!」

旦那が言われた通り見ると、茶色いミンチ肉から人の爪のようなものが無数に生えていた。

あまりに気持ちが悪いので旦那はすぐに袋に詰めて縛り、近所のゴミステーションの中に放り込みに行った。

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旦那はすぐに帰宅してケイコの元へ駆け寄った。ケイコは恐怖で震えていた。

旦那は妻の不安を軽くさせるために人が多いところに移動することにした。

旦那は妻を連れて自分の実家へ車を走らせた。

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実家に着いてからピンポンを押した。夜遅くになっていたが母が出てくれた。

「どうしたの?こんな夜遅くに」

「母さん、とりあえず中に入れてくれ。話はそこでするから」

中に入り旦那は実母にワケを話した。その日の夜は泊めてもらうことにした。

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「あなた!あなた起きてよ!」朝早くに妻の声で起こされた。

「どうしたんだい?」寝ぼけた声で返事をしながら身を起こした。

「あなた、大変なのよ。早く台所に来て!」

あまりに妻が慌てているので旦那は急いで台所に向かった。

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父も母もテレビに釘付けになっていた。

「父さん母さん、どうしたの?」

「コウシロウ(旦那)、ニュース見てみぃ」父が低い声で言った。

旦那はニュースを見て恐怖で固まった。

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「速報、昨日深夜に起きた〇〇町の猟奇殺人」

というタイトルで場所は自分の家の近所だった。

しかも犯人は近所にいる顔馴染みのAさん(男)だった。ニュースキャスターが詳細を話していた。

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「昨夜にA容疑者は〇〇町で道を歩いていた、二十代の女性の首を絞めて殺人しました。

その後、Kさん宅(コウシロウ宅)に侵入し料理を始めていた模様。

台所の小窓から外へ酷い異臭が流れ近隣の住人が警察に通報したことでA容疑者は逮捕されました。

警察は猟奇殺人として取り調べをするとのことです」

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「コウシロウこの事件って昨夜あんたが話していた缶詰めと関係あるんじゃないの?」そう母が言った。

ケイコもコウシロウも「きっとそうだ」と思っていたが、それを口にすることはできなかった

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Aさんがコウシロウ宅に侵入したことを不審に思った警察はコウシロウに電話をかけて事件の参考人として事情聴取を行った。

コウシロウは昨夜あった缶詰のことを話した。すると警察は「その缶詰とAさんは関係しているかもしれない」と話した。

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警察によるとAさんは殺した女性をコウシロウ宅のキッチンでミンチ肉のようにしていた。その中には自身の爪を混ぜ込んでいた。

さらに取り調べの時にAさんは「あの子に血をあげられた、あの子に血をあげられた」としきりに言っていたそう。

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コウシロウの話とAさんの行動が関係しているように思えるが、コウシロウもAさんも殺害された女性との面識はなかったためコウシロウに殺害動機は無いものとされた。

その他、コウシロウからAさんへ女性を殺すように頼んだ証拠もないため、コウシロウはすぐに帰宅できた。

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警察はコウシロウが言っていたゴミステーションへ行き缶詰めがあるかを調べたが見つからなかった。

またそこを担当しているゴミ収集車の人に連絡を取り、不審なものが無かったかと尋ねたが一切なかったと言われた。

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署に帰った警察は驚くべきことを聞いた。逮捕したA容疑者が留置所で窒息死したらしい。

留置所には縄などの首を絞められるものが一切なく、自分で首を絞めた跡も見当たらなかった。

警察はコウシロウの話と照らし合わせて、缶詰めが関係していると直感した。

警察はそのことも含めて検察へ書類送検したが、検察は窒息死した理由として缶詰めが関係しているとは考えなかった。

よってAさんが殺害したことに缶詰めが関係しているかどうかは迷宮入りとなった。

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不審な缶詰にはご注意を

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