1:蘭(あららぎ)ユウジは休日のある日、部屋でくつろいでいた。
出勤時間より少し遅めに起きたユウジは、テレビの深夜番組を見ていた。
彼は休日に特に観たい番組が無ければ、チャンネルを適当に回して何となくでテレビを観る事が多い。
しかし、その日は特に興味を惹く番組も無く、ゲームでも始めようと思った。
日付が変わるには、かなりの時間があるその時、ユウジの携帯電話が着信を告げた。
別天津神(ことあまつかみ)タルパからだ。
「もしもし、こんばんは、ブラザー。どうしたん?」
『こんばんは、良かった起きてたんだ。ねえ、ブラザー。飯は食った?まだならさー、今から駅前のファミレス来れない?』
起きてからは何も食べてない。
そもそも、ユウジは起床して、1時間ほどは食事はしない考えだ。
ユウジは、シャワーを浴びてからすぐに行くと伝え、電話を切った。
支度を済ませて、家を出て指定されたファミリーレストランへ向かう。
受付のスタッフに待ち合わせと告げ、店内へ進む。
ユウジとタルパは喫煙者である。
昨今の状況として、全席禁煙。
隔離された喫煙室を店内に設ける店は多い。
この店もそうだ。
喫煙室は店の奥にある為、その近くにタルパが席を確保してるとは予想出来たが、念の為、店内を回る事にした。
すると、カップルだろうか?女はただ泣いている。
それをただ、見守る男がいる席があった。
兄妹、もしくは姉弟にしては、心の距離は近そうにみえるし、カップルにしては心の距離は遠そうに見える。
良く分かりにくい2人だが、こんな深夜のファミリーレストランに来てる事を考えれば、親しい仲であろう。
それを見たユウジは心の中で
(何、女泣かせてるんだよ。痴話喧嘩は俺の視界の外でやれ)
と思った。
しかし、嫌な予感がする。
タルパから呼び出された、客もまばらなファミリーレストランでそんなものを見た。
これは悪い予感しかしない。
そう、何か厄介事に巻き込まれるような…。
タルパはやはり、店の奥。喫煙室の近くに席を取っていた。
ユウジに気付くと手を振って来た。
ニット帽を被った男と同席だ。
ユウジに向かって頭を下げた。
嫌な予感は見事に的中。
彼は、タルパの会社の後輩の六畳院(ろくじょういん)キヨマロ。
25歳のフリマアプリを使い、ピンポイントで呪われた物品を購入してしまう問題児だ。
2:キヨマロが初めて、呪われた物を購入し、タルパに見せたのは、冬の寒い時期だった。この日は夜勤。
タルパの会社は警備会社だ。
大手で社員も多い。
複数で警備する場合、待ち合わせ場所を決め集合してから現場へ向かう。
タルパに挨拶するキヨマロ。
上着に、ミリタリー物のジャケットを着ていた。
タルパの本物レーダー。鳥肌が発動した。
『キヨマロ、その、ジャケットどうした?』
「フリマアプリで買ったんすよ。どうすか?良くないすか?めっちゃ安かったんすよー。いやぁ良い買い物しましたよ」
『……。なあ、キヨマロ。今日仕事の後予定あるか?』
「え?午前中に歯医者の予約してますね」
『分かった。よし、お前、仕事上がりにコンビニ行くぞ。確か、蘭さん今夜は夜勤だからな。会いに行こうぜ』
「はい…」
タルパは、警備業界ではかなり有名人だ。
各種資格を持つのもだが、現場全体を把握出来る。
効率良く、仲間に指示をだし、時には、土木作業を手伝う。
しかも腕も良い。
人手不足が解消し、その日の作業が早く終わる事が多い。
別天津神隊長を指名する業者は、けして少なくない。
その日も予定より、2時間早く終わり、そのお礼として、ユウジの務めるコンビニエンスストアの前まで、車で送って貰えた。
その頃ユウジは、作業を終え事務所でゆっくりしていた。
来客を告げるチャイムで、店内に出る。
店内はさほど広くは無いが、事務所、イートインスペースは店の入口からは見えない。
店内に出て来客が誰か分かった。
「おー、いらっしゃいブラザー。あれ?今日はキヨマロ君も一緒…」
言葉を濁す。
『こんばんはブラザー、うん。今日はキヨマロも一緒』
「こんばんは、お久しぶりです」
「う、うん。久しぶり、キヨマロ君。そのジャケット何?」
「え?蘭さんも、それ言うんですか?別天津神さんにも言われたんすよ。何かヤバいんですか?」
「うん。そんだけの怨霊憑いてて、平気なキヨマロ君が凄いと思う」
そう。ユウジには、詳細までは分からないが、
キヨマロが買ったジャケットに、怨霊が取り憑いている事が分かった。
『良かった。本物の怨霊が憑いてるのは感じたけど、俺じゃ分からないからさ。ブラザーに浄化お願いしたいと思って連れて来た。最悪、焼いても良いよ』
それを聞いてキヨマロは青ざめる。
「いや、そこまでしなくて良いかな。これ位なら、俺の能力(ちから)で浄化はギリ可能」
ますは、ユウジは、キヨマロにジャケットを脱ぎ、イートインスペースのテーブルに置く様に言った。
そして、ガムランボールを取り出して鳴らし始めた。
そして、印を結び、地蔵菩薩の真言を唱えた。
ジャケットに取り憑いた怨霊を祓う事に成功した。
『ブラザー、いつの間にそんな事出来る様になったん?』
「ん?あぁ、眷属になった水霊(みづち)の美月(みづき)のお陰だよ」
眷属となった美月が、ユウジに力を貸してくれそうな存在が他にもあると指摘した。
思い出してみると、近所に住んでた年上の男を真似て、地蔵像を見つけると頭を下げていた事を思い出した。
更に美月は、それらへ感謝と、力を貸して欲しいと念じれば、力は弱くても、ユウジが唱えれば、効果はあると教えられた。
ただし、修行をしていない為、ちゃんと修行したプロの霊媒師程の力は無い為、注意が必要だと。
その後、キヨマロはピンポイントで怨霊憑きアイテムを買い、ユウジの店に連れ出される事が増えたのであった。
3:テーブル着くとユウジは言った。
「で、キヨマロ君は今度は何を買ったんだい?」
『まぁ、それより先に飯にしようぜ』
タルパは呼び出しボタンを押して、店員を呼んだ。
タルパは、サーロインステーキのセット。
キヨマロはハンバーグのセットを頼み、ユウジの番だ。
「タルタルチキンのセットで」
その場の全員が、固まる。
そんなメニューは、メニュー表に無い。
すると、店員の口が開いた。
「チキン南蛮のセットですね」
店員はメニューを復唱確認して、下がった。
「あれで伝わるんですか?」
『伝わったねぇ』
「言い間違えただけなんだけどね」
食事を終え、キヨマロが床に置いた大きな鞄から出した物は20cmほどの木枠に収まった『大黒』と『恵比寿』をかたどった金属製の像だった。
作者蘭ユウジ
突如作者の脳内に溢れ出す存在しない記憶。
第2弾です。