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中編4
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みえないこども

私の中学校の時の同級生A子から聞いた話です。

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 A子は東京のS区に住んでいます。S区は公営住宅が多く、東京の中でも低収入家庭や母子家庭が多い地域を抱えています。A子自身は夫と共働きで、子供が2人、特にお金に困っていなかったのですが、互いの職場からの距離などを考えて、ここで暮らしていました。

 A子の下の子どもが小学校に上がった年、近所のアパートにL子が引っ越してきました。東京とは言え、近所付き合いは少しはあって、噂話にL子は母子家庭らしいなどという話が聞こえてきました。当のL子は、黒っぽいブラウスと焦げ茶のスカートと、同じ服ばかりを着ている印象で、肩くらいまで伸ばしている髪の毛もよく手入れがなされおらず、なんとなく生活に疲れているように見えました。

 A子とL子はほとんど接触がなかったのですが、何かのきっかけで話すことがありました。話を聞いてみると、自分より10も歳上だと思っていたL子が、実は自分と同じ歳で、確かに母子家庭であり、都内の中小企業の経理をやりながら、2歳になる娘を一人で育てていることなどがわかりました。そうなると同じ子育てをする母親同士、会えば「2歳になる娘が最近言うことを聞かなくて困っている」「うちもそうだったよー」などと、互いの子育ての悩みを話すことが多くなりました。A子と話すようになってから、L子はちょっと明るくなったようでした。

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 L子が引っ越してきて1年ほど経ったころ、A子はL子について、「おや?」と思うことがあったと言います。

ー随分おしゃれになったな・・・

最初はそういう印象でした。

 着ている服もピンクやベージュなど明るい色が増えました。化粧もパッと人目を引く感じです。最初は地味な印象でしたが、こうしてきちんとお洒落をすると、なるほど年相応、むしろA子よりも若々しくさえ見えるほどでした。

 ある日曜日、L子に誘われて、A子は初めてL子と食事をしました。子どもたちの面倒を夫が見てくれるということで、A子も久しぶりに羽根を伸ばせるので楽しみにしていました。L子との食事自体はちょっと高めのフレンチレストランでのディナーコースを食べ、2人でワインを一本飲むという、ごく普通の会食でした。その中で、今お付き合いを知ている人がいることがわかり、A子は、L子が最近きれいになった理由に得心がいったのでした。

ー恋をすると、人って変わるんだな・・・

ニコニコと話をするL子を、ほろ酔い気分で眺めながら、A子は微笑ましく思ったそうです。

 夜も9時を回った、その日の帰り道、最寄駅から帰ると、まずはL子のアパートに差し掛かります。L子のアパートの直ぐ隣には、2つ3つの遊具が申し訳程度に置かれている小さな児童公園がありました。街灯が少ない上に、植え込みや立木が作る影が更に暗さに拍車をかけており、仕事が遅くなったときに通りかかる際も、若干不気味でA子は余り好きではありませんでした。

ーやっぱり不気味な公園ね・・・

 L子と話しながら、見るとはなしにその公園に目をやると、立木からもれる街灯の明かりの下に子どもがいます。

ー女の子?

 2〜3歳でしょうか。薄青色のジャンパースカートをはいて、腰までのボサボサの髪をそのままに垂らしている、女の子のようでした。うつむいており、髪の毛の影で表情は見えませんが、じっとこちらを見ている様子でした。

 9時過ぎに、小さな子がたった一人で公園に佇んでいる。

 その光景に、A子はゾッとしたと言います。思わず、

「あれ・・・」

と声が出てしまいました。

「何?」

L子もA子が見ている公園に目をやりましたが、

「どうしたの?なにかいた?」

と言うのです。

女の子は相変わらず佇んで、こっちを見ています。

微動だにしないで・・・

ー見えていない?

A子は「あれが見えないの?」という言葉をぐっとの見込み、「なんでもない」と請け合いました。

なんとなく、これ以上触れてはいけない、と思ったのです。

その後、L子は自分のアパートに帰り、それを見届けて、A子は逃げるように家に走り帰りったということです。

ーあれは一体何だったの?

夫に相談しようにも、どう言っていいかわかりません。自分に見えていた子どもが、もう一人の人には見えていなかった。下手したら正気を疑われかねません。

結局、A子は誰にもその時のことを話すことが出来なかったそうです。

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数週間後、事態は意外な結末を見せました。

L子が警察に逮捕されたのです。

地方紙の隅でしたが、「T中L子」という名前を見つけました。

容疑はネグレクトの末の衰弱死、「遺棄致死」とのことでした。少なくとも数カ月に渡って、ろくな世話をしなかったと推定されたそうです。ちょうど、L子が彼氏と付き合いはじめて、お洒落になっていったころでした。

A子がもっと驚いたのは、掲載されていた長女「S実ちゃん」の写真を見たときでした。

髪の毛の長さ、背格好が、あの公園に佇んでいた女の子に思えてならなかったのです。

あの時、すでに、S実ちゃんは亡くなっていたのではないか、自分が死んだことを誰かに知ってほしくて、公園でじっと自分を見ていたのではないか。

あの食事に行った日も、おかしいと思うべきでした。

3歳の子供を持つ母子家庭の母親が、休日の夜9時過ぎまで食事に行かれるわけがない。

子供が邪魔だと思って無視することで彼氏ができたのか、彼氏ができたので子供の世話をしなくなったのか、どちらかわかりませんが、L子はS実ちゃんを「いないもの」として扱ったのです。

そして、いないものとして扱っていたS実ちゃんが幽霊となって現れたとしても、L子には、やはり目に映らなかったのです。

Concrete
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@Y・Y さま

私も同じく感じました。
怖いけど切ない話です。

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