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中編3
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日常怪談「タオル」

仕事終わりの俺は疲れを微塵も感じさせない、溌剌とした表情で夜道を歩いていた。

今日は待ちに待ったハロウィンの夜だ。どこの家にもオレンジの明かりがともり、お菓子や豪華な夕食に囲まれる一晩は、子どもだけでなく大人も楽しめる最高の行事だと俺は思う。

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この日のために用意したお菓子が、カバンの中で今か今かと出番を待っている。といっても俺に子どもはなく、誰かにお菓子をあげる予定なんてなかったけど、それでもハロウィンの気分に浸っていたくていろんな種類のお菓子を奮発して買った。

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ハロウィンといえばお菓子だけではない。俺は歩きながら自分の幼少期を思い出した。

あの頃はわずかなお小遣いの範囲で、色々な仮装をしようと頭を悩ませていたっけ。なるべくお金を使わなくていいように身近にあるものを工夫して衣装に見立て、その出来栄えを周りの大人に褒められた時は特別に嬉しかったことを覚えている。

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遠い昔が懐かしくて泣きそうになりながら歩いていると、ある賑やかな家の前にたどり着いた。洋館のような佇まいのその家からは十人どころじゃ済まない人のどんちゃん騒ぎが聞こえてきて、俺は自分の孤独も忘れて愉快な気持ちになった。

できることなら輪の中に混ざりたかったがそうもいかない。それなのにこの家の前から足を動かせずにいると、玄関の扉がゆっくりと開いて一人の男の子がこちらへと走ってきた。

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「トリック、オア、トリート!」

俺は思わず泣きそうになった。こんな光景、物騒な今の世の中ではもう絶対に見られないと思っていた。

その男の子は白色のタオルを顔にぐるぐると巻いていて、おそらくミイラ男の仮装をしているのだろう。子どもの発想はすごいなと、これもまた泣きそうになりながら感心した。

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「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ!」

幼いその声に嬉々としてカバンを開くと、用意していたチョコやクッキー、キャンディーにポテトチップなんかを、差し出された小さな両手に持てるだけ持たせてやった。

彼はびっくりした様子で何も言わずにこちらを見ていた。顔中タオルでぐるぐる巻きにされているからその表情はわからないが、きっと喜んでいるに違いない。

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「よかったね」

しかし彼がそう言うので、今度は自分の方がびっくりしてしまった。

よかったのは俺ではなく君だろう。そう言いたかったが、すぐに彼は玄関を開けて家の中に戻ってしまった。

なんだか恩を仇で返されたようで、大人げなく腹が立った。興醒めな気持ちでその家の前を去ろうとした時、ふとある違和感に気づいた。

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果たして彼は、前が見えていたのだろうか。

俺のいる門の前から玄関の扉までは、くねくねと曲がる幅の広い低い階段でつながっていて、あんなに顔をぐるぐる巻きにされては、前なんて見えるはずがない。それなのに彼は段差に躓くこともなく、軽やかに家の中へと戻っていった。

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それともうひとつ。彼が背を向けて遠ざかって行く時、彼の頭のどこにもタオルの結び目がないことに気づいてしまった。

タオルは彼の顔の形を浮かび上がらせるほどにきつく巻かれていたが、あそこまで綺麗にタオルを巻くことはできるのだろうか。第一、それだと彼は息がしにくいどころか、あんなにもはきはきと話せるはずがない。

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彼の身なりは、果たして仮装なのだろうか。

また、俺は彼の最後の発言を思い出し、その意味を理解して身震いした。

「よかったね」

彼は言葉通り、俺が彼にお菓子をあげることができてよかったねと言っていたのだ。もし俺がお菓子を持っていなかったら、どんな「イタズラ」をされていたのだろう。

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もはやあの男の子が人間であるとは思えず、一刻も早く立ち去ろうとしたその時、家の中から大きな笑い声が、まるで示し合わせたように一斉に聞こえてきた。

その化け物じみた声に思わず声のする方を見上げると、家中の窓から様々な顔が、こちらを見て笑っていた。

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