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中編3
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ホンを求めて

「本と言うのは人類が長い年月をかけて積み重ねてきた知識の宝庫である、と誰かが言っていた」

「はあ」

「近年は電子書籍なる物が流行っているそうだな。漫画もそれに取って代わられるとか」

「そうっすね。月一定のお金を払えば読み放題になるシステムもあるみたいですし。そりゃみんな利用しますよ」

「出版業界は厳しいみたいだ」

「それは余計なお世話ってやつじゃないですか?」

「時に、君は付喪神っていう概念を知っているかね?」

「長い間使われている物に魂が宿るっていうあれですか?」

「それだけ知っていれば十分だよ。有名所では刀とか鎧とか。変わり種で言えば爪楊枝が踊りだしたなんて話もある」

「へえ」

「本に魂が宿るっていう話なんかどうだろうか」

「あの。今は現代ですよ。刀とか鎧なんかこの時代にないでしょうが。付喪神の話自体が太古の遺産みたいなもんですよ。現代には合わないと思います」

「この話を読んで、呪われた人間には特定の文字が浮び上がって見えるっていう洒落た話があったなあ。フォントが変わってるだけっていうネタが解かれば大したことないんだけどさ」

「子供だましですね」

「いや、そう馬鹿にしたもんじゃないよ。例えばさ。図書館に置いてあるような本は色んな人間の手を渡ってきた訳さ」

「そうですね」

「その本を手に取った人にはそれぞれの人生がある。その本はその一部になっている訳だ。本人がその本を読んだことも忘れたとしても、本はきっと自分を読んでくれた人を忘れない。うむ。我ながらロマンチックだな」

「自分で言ってて恥ずかしくないんですかそんな台詞」

「うるさいな。たまにはこんな夢物語に浸りたくなるんだよ」

「電子書籍ではこんな話は作れないからな。やっぱり本とか漫画は紙でこそだよ。あのページをめくる感覚がないとどうもね。どうせ古い存在ですよ私は」

「結局電子書籍が嫌だって話がいいたいんですか?」

「いや、私普通に電子書籍は良いと思うぞ。漫画とかデータにして持ち運べるし。便利な時代になったもんだ」

「なんだったんですかこれまでの話は」

「さっき、人の手を渡ってきた本について話をしたじゃない?」

「はあ」

「仮に、本に魂が宿るとして」

「はい」

「中にはもう随分長い間読まれていない、誰にも見られる事の無い本だってあるわけだ。そういう本達は何を思うのだろうか」

「うーん。あんまりこんな事いいたかないですけど、読まれなくなった本ほど虚しい物ってないっすからね。やっぱり悪い物に化けて人間を襲ったりするんじゃないでしょうか」

「君はそう思うか。私はちょっと違うかな。うむ。たとえ、今は読まれなくなった本でも、昔は必ず誰かが読んだはずなんだよ。前にも言ったが、おそらく本は自分が読まれる瞬間が一番嬉しいはずだ。だから読んでくれた人間を忘れないんだ。だから、今はどうしてるかも解らないその人が幸せになる事を願いながら、そこにあり続ける。そんな本が沢山ある図書館では、多分それだけ似たような魂が多いんだよきっと。だからそこに存在するだけで、神聖な場所になるし、そこにあるだけできっと価値があると思うんだ」

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「とはいえ流石に我々みたいなのは居ないようですが。これからどうします?」

「いやあこんな事例は聞いたことがないね。どっかの創作漫画ではよくある設定かもしれないけれど」

【すいません。この本を借りたいんですけど】

【あ、こちらは廃棄図書になりますね。返却の必要はございません】

【え。そうなんですね。貰っていいって事ですよね?ありがとうございます】

「これはこれは」

「これからどうなるんでしょうかね」

「解らないよ。だけどこんな事は初めてだ。とりあえずは我々の事を知って貰わないとだな。どこまで伝わるか‥」

【なにこれ?文字が勝手に‥】

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