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長編9
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ハンマーヘッド

ウチの近くの中学校、市立K中のウワサなんだけど何年か前の先輩の頃がすっごい悪かったらしくてその頃のウワサがまだ残ってる

小学生のときだからざっくりしか聞こえてこなかったけどヤンキー達がいじめられっ子をボコボコにして事件になったらしい

かわいそうにいじめられっ子は最後はハンマーでアタマを殴られて死んだ

それからその学校では頭がボコボコになったハンマーヘッドの幽霊が出るってウワサだ

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僕はそういうウワサもあるし、親に勧められたのもあって地元から少し離れた中高一貫の進学校に通ってた。

でも僕の学校は川向こうにあってK中学校は川の手前、川沿いにあったから通学のときにはよく小学校の友達とすれ違ってあいさつくらいはしてた

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去年の大晦日の晩、ウチの近所はみんな近くの神社で集まる

子どもは甘酒とお菓子をもらえて、大人はお酒がふるまわれる

久しぶりに小学生のころの友達の顔も見れるかな、好きだったあの子は来るかな、なんて楽しみにして深夜0時の手前に神社に着いたんだ

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神社の境内、ドラム缶で焚いたかがり火のまわりに大人も子どもも輪になってかたまってる

家から神社まではそう遠くはないけど僕もこごえるほど寒かったから引き寄せられるようにかがり火に向かった

そこに友達の背中を見つけた

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小学校でも特に仲の良かった三人だ

仮にA、B、Cとしておく

Aは三人の中でもやんちゃなヤツでAを中心に遊びに行くことが多かった

「おおい、ひさしぶり!」って声をかけようとしたけど三人の様子がなんだかおかしい

かがり火から少し離れたとこでボソボソとないしょ話をしているようだった

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ちょっとビックリさせてやろうと思って、抜き足差し足で三人の後ろにピッタリ近寄ると三人の話がかすかに聞き取れた

「……おい、やっぱりおはらいしてもらおうぜ」

「……でもそんなにお金もってないよ。明日ならお年玉あるのになぁ」

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なんだかおはらいしてもらうかどうかで迷ってるみたいだった

ウチの近くの神社は普段は神主さんもいない小さな神社だ

でも大晦日だけはどこからか神主さんがきて新年のおはらいをしてくれる

大人たちは紅白の水引のついた封筒にお金をいれておはらいしにお堂にはいるんだけど、多分あの中には五千円とか一万円くらいは入れてあるんだと思う

お金のない中学生にはちょっと払えない金額だ

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そのままこっそり三人の話を聞いてると、思ったより深刻な話だった

どうやら中学に上がった彼らは何がキッカケかわからないけど、ある男の子をいじめていたらしい

それだけでも僕は驚いたんだけど、話はそれで終わらなかった

いじめてた子が学校に来なくなって、それから三人におかしなことが続いたみたいなんだ

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かがり火の炎でチラチラと照らされて三人の顔が揺れるように見える

三人ともそれぞれ頭にケガのあとがあった

特にAはおでこにデカいガーゼを貼って少し血が滲んでいた

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みんな頭にケガをして、それが自分たちのやってたいじめに関係してるんじゃないかと思ってる様子だった

そこまで聞いてて話の方向が「そもそもAがいじめ始めた」とか「Bだってむかついてたって言っただろ」とかケンカしそうな雰囲気になったから

意を決して声をかけた

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「……おう、ひさしぶりやな」

Aが返事をくれる

「あの、悪いんだけどちょっと話し聞いちゃったんだよね。えーっと、詳しく聞かせてくれんかな?」

三人も大人には話せないし誰かに聞いて欲しかったんだろう。かがり火から遠く離れて人気のない真っ暗な集会所の裏手で詳しくワケを話してくれた

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いじめられていた子を(仮にD君と呼ぶ)D君はちょっと人付き合いに難がある子だったらしい

4月の入学と共に転校してきて友達もいない彼を三人も最初はクラスの集まりに誘ったりとか仲良くしようとはしてたようだ

僕は少し安心した。ホントは三人とも良い奴らなんだ

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ほとんどが小学校からの繰り上がりのクラスではその子の居場所はだんだんとなくなり誰とも喋らず過ごしていた

それは彼の容姿から来るコンプレックスのせいだったのかもしれない。彼はおでこにひどいアトピーがあり、それを隠すように前髪を伸ばしていた

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ある日、いじめの発端になる事件が起こった

詳細は三人とも詳しく語ってはくれなかったけどその中心に三人がいたのは間違いないようだった

その事件をキッカケにD君は三人を中心としたクラス中からいじめをうけるようになった

とくにハンマーヘッドのウワサ話にからめて額のアトピーを指して「ハンマーヘッドが出たぞ〜」なんてやっていたらしい

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「最初は軽くいじっとっただけやってん……でも今思うとひどいことしたと思っとる」

Cがそう言うと

「いや、やっぱり言い出したのはオレやけん。オレに一番責任があるんや」

Aが神妙にそう言った

今さっきまでの言い争いの雰囲気は無くなっていた

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去年の夏休みが明けてすぐD君は学校に来なくなった

そこから三人に不思議な事故が続いたそうだ

Aは野球部の練習中にすっぽ抜けたバットが額に当たり

Bは通学中にチャリで転んで頭を打ち、額がおろし金で削られたようになり

Cは学祭の準備中に看板が落ちてきて眉毛の上がぱっくりと裂けている

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どれも狙ったかのように額をケガしているのが不気味で三人はハンマーヘッドの呪いなんじゃないかと疑っているのだ

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それも夏休み明けに一日だけD君が登校したときに「おまえらをハンマーヘッドの呪いにかけてやる」なんて言われていたからなおさらだ

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ごーん、ごーんと除夜の鐘の音が響いた

気付けば0時をまわっていたらしい

「もうお堂には入られんなぁ」

残念そうにBがつぶやく

0時までに入っていればおはらいも出来たが、今年はこの一回のおはらいで打ち止めらしい

途端に暗くなる三人をみて僕はこう言った

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「ほんまにハンマーヘッドの呪いなんてあるんかな?」

「へっ?」

三人ともキョトンとしている

「みんなのケガはようある話っちゃ話だし……それよか自分らが後悔しとることの解決が先やないかな?」

「解決って、どないすりゃ解約やねん」

Aが少し不安そうに聞く

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「そりゃあまず謝りにいかんと、D君に。なんぼなんでも全部呪いみたいに考えるんも違うと思うけどそこをスッキリさせなずーっと続く気がせん?」

みんなは黙り込んで、そのうちAがうなずいた

「よっし、せやな。お前の言う通りかもわからん」

そうして三人の都合のつく明後日に謝りに行くことに決めた

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そういえば僕の兄貴はあの中学の出身だ

まあ、みんなの気のせいだと思うけど一応ハンマーヘッドの呪いについて聞いてみると話してその晩は三人と別れた

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一月一日

「なあ兄貴、元旦にする話やないんやけどハンマーヘッドの呪いって知っとる?」

それを聞いた兄貴は噴き出した

「ハンマーヘッドの呪い?なんやそれ?」

僕が事情を話すとポカンと何かを思い出すようにして兄貴は答えた

「あー、それならTの話が間違って伝わっとんかなー」

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兄貴によると同級生にTというヤツがいて、いじめられっ子というよりクラスの人気者みたいなポジションだったそうだ

Tは自分の目が離れてるのをよくネタにして『魚類シリーズ』とかいう謎の持ちネタをしていたのだが、ある時ハンマーヘッドシャークのモチーフで頭をかがめてすくいあげるように上半身を起こす動きをしていると、偶然通りかかった女子のスカートに頭を突っ込む形になり、盛大にビンタされたというのが元の話らしい

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「そこからハンマーヘッド〜ってやるのがウチのクラスでも流行ってさ。Tもあえてフリして女子にビンタされる流れは面白かったな」

「それじゃあ、いじめられっ子が殺されたみたいな事件は?」

「ないない、てゆーかT生きてるし、同窓会で会ったとき結婚したとか言ってたで。多分、ハンマーヘッドの話を後輩にテキトーに盛って話したやつの作り話だろうよ」

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なんだ、やっぱりそんなことか

僕は三人に話して安心させてやろうとグループラインで送っておいた

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一月二日

その晩、BとCがウチに来た

ドアを開けると深刻な顔をして立っている二人

「どしたん?ラインで送ったやつ詳しく聞きたいん?」

黙ったまま首をふる二人

なんだか事態がつかめないがとりあえず自分の部屋に上がらせた

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「……Aが、死んだ」

「はあ!?えっ?なんで?」

一昨日会ったばかりのAが死んだという

突然のことに混乱したが順を追って話を聞くとまるで不気味な別世界に迷い込んだような気分になった

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一月一日

A、B、Cの三人は僕からのラインを見てひとつ安心はしたものの、やっぱり拭い去れない不気味な心地が残ったようで三人で街の大きな神社にお守りを買いに行った

無事お守りは買えたもののその帰路で三人とも奇妙なものを見たらしい

それは三人が夕暮れ時に信号待ちをしているとき後方から自転車で追い抜いていった

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赤信号から青に変わる瞬間、三人を置き去りに追い抜いた人物の顔はまるでハンマーでボコボコに殴られたように赤黒くいくつもの腫れ物があったそうだ

そこからAの様子がおかしくなった

「ああ、俺だ……俺の番なんだ、ううぅ」

いきなり狼狽し泣き出すAに事情を聞いたが要領を得ない

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そのまま三人で自転車を降り、歩いて帰った

Aの変貌ぶりに不気味さを覚えたBとCだったがその不安は的中する

夜中Aの母から電話があった

Aがいない、と

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Aの母の頼みもあってBとCは三人でよく行く場所を探し回った

しかしどこにも見つからない

次はどこを探すか悩んでいると二人は同時に思い付いた

「もしかしてD君の家に行ったんじゃないか?」

「俺も思った!なんか様子おかしかったし先に一人で謝りに行ったんじゃ……」

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まだD君と仲良くしようとしていた頃三人はD君を誘って一緒に帰ったことがあった

その頃の記憶をもとに二人はD君の家の周辺にたどり着いた

「たしかここらへんがDん家だよな」

冬休みとはいえ中学生が夜中に住宅街をうろうろしているとあやしむのも当然で

「あんたら何しとる」

近くに住むおじさんに声をかけられた

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おじさんにいじめの件はごまかして事情を話すとおじさんも心配してくれてD家に連れて行ってくれることとなった

ただ、おじさんは言いづらそうに

「君らが捜しとる……そのD君やけどな。亡くなったって聞いたで」

「そのあと親御さんも引っ越してしもうたから、いまから行くんは空き家ゆうことになるけどええんか」

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BとCは愕然とした

D君が死んだなんて先生もそんなこと言ってなかった

おじさんの先導で元D家に近づいて行くと、何かを打ち付けるような鈍い音が近づくにつれてだんだんと大きく聞こえてきた

ゴッ、ゴッ、ゴッ

門扉をくぐり先にD家の敷地に入ったおじさんが叫んだ

「なにしとる!」

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そこにはD家の玄関の前でぶつぶつと呟きを繰り返しながらコンクリ敷の玄関框にアタマを打ちつけ続けるAの姿があった

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

おじさんに羽交締めにされるように起こされたAはずっと謝罪の言葉を繰り返すばかりで目の焦点が合っていなかった

その額はまるでハンマーで執拗に殴られたように腫れていた

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「それから俺がAのかあちゃんに連絡して、救急車が来たりいろいろあって入院したんだけど、さっきAが死んだって連絡きたんだ」

Bは息を続かずあえぐようにそう言った

「だから今日、Aの通夜なんだ。お前も来るよな」

Cが後を継ぐように言葉をつないだ

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正月早々に鯨幕が張られたA家はイヤでも目立つ

「……よう」

A家の前でBとCに合流した

当たり前だが二人とも元気がない

なんと声をかけていいかわからない

僕とBとC、お互いに黙ったまましばらく経った

ひゅう、と風が吹き鯨幕がめくれ上がる

ちりん、ちりん

自転車のベルがどこからか聞こえた

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「いまさっきのアレ、見たか?」

僕はBとCに言ったつもりだったがちゃんとした返事は1人分しか返ってこなかった

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結局、ハンマーヘッドの呪いはこうやって始まったんだ

Concrete
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