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中編3
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ヨーロッパの夜景

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だいぶ前の話です。

成人になりたての頃、イギリスに旅行に行く事になりました。

まだ慣れない海外。しかも初のヨーロッパ。ワクワクと不安が心を揺らします。

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僕は自分の運転する車以外の乗り物に乗ると、すぐに寝てしまいます。

人の運転する車も、電車も、飛行機も。

この日も、離陸前には、もう熟睡していて、食事も摂らず映画も見ないで何時間も経ちました。

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トイレに行きたくて目が覚めた時はもう食事も終わり、みんなが寝る時間になってしまった様で、真っ暗になっていました。

慣れない飛行機。真っ暗な機内。起きたての寝ぼけまなこ。まだ脳みそも働いていません。

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トイレに行こうと席を立ち、誰も起きていない機内を歩きます。

トイレは一番後ろにありました。

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トイレも終わって席に向う途中、搭乗口ドアにある少し大きな窓から、遠くの方に街の灯が小さく見えました。

黒しかない漆黒の世界に、幻想的なオレンジの光。

搭乗口ドア付近には座席もなく、少し広くなっていて、ゆったり夜景を見られました。

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オレンジの光のかたまりから、放射線状に伸びる光の線もまたほんのりオレンジ色で、街と主要道路がかろうじて判る程度の夜景に何故だか魅せられました。

かすかな街の灯に、初のヨーロッパを感じたのでしょうか。寝起きの僕は何も考えずに何分も見ていました。

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しばらく経ったとき、CAさんが話し掛けてきました。

金髪でキレイな女性でした。英語で話し掛けてきます。

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「どうしたの?」

「トイレで起きたんです。もう席に戻ります」

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「ずっと寝てた子ね。お腹空いてない?」

「大丈夫です。それよりあの街の灯は、どこですか?モスクワ?」

「あれは『リガ』よ。ラトビアの首都。私の両親の故郷だわ」

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その他、これから僕が行く旅行の予定など、いろいろ話しました。

食事もしないで、映画も見ないで、ずっと寝ていた僕には、とても楽しい時間でした。

「みんなが起きてしまうから、もう会話は終わりね。おやすみ」とCAさん。

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寝起きで、まだ夢の中の僕は、寝ている友達の隣に戻り、また夢の続きを見始めました。

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zzzzz......

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機内アナウンスで起きました。もうロンドンに着くとの事。

一緒に行っていた友達に「食事もしないで寝っ放しだったね」などと言われながら、ロンドン着陸です。

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荷物を持って飛行機を降ります。

その時、あのCAさんが居ました。僕を見付け、また英語で話し掛けてきました。

「○○○.○○○○○○○○?」

全く判りません。

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そうです。なぜなら僕はその時、英語なんて全く話せなかったのです!!

もし起きていても、食事の「beef or chicken?」も聞き取れないし、もし判っても、何て答えれば良いかも判らない程でした。

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話し掛けてくれたCAさんには申し訳なかったけど、笑顔で「サンキュー、バーイ」と返し、急いでるフリをして飛行機を出ました。

明るく返答が来ると思っていたCAさんは、下を向いて逃げるように出ていく僕を、不思議そうに淋しそうに目で追っていました。

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あの夜の、リガの夜景を見ながら話した10分は何だったんだろう。

しっかり会話をしたんだ。話せないはずの英語で。

何を言っているかも判ったし、ちゃんと返す言葉も出て来た。

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夢だったのかな。起きてなんてなかったのかな。その割には内容を詳しく覚えてる。

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でも話せないのは事実。しかも友達が言った「寝っ放しだったね」も気になる。

本当はずっと寝ていて、夢で話したのかな。

でもあのCAさん、最後にまた話し掛けてくれた。

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赤ちゃんに前世の記憶がそのまま残り、両親さえ行ったことの無い国の言葉を話し出すことがあるって聞いた。

寝ぼけて半分夢の中の僕の、脳みその奥の方から突然出てきたのかな。

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旅行中は、一度も覚醒せず、英語なんて判らないままの旅でした…。

あんな不思議な体験は、後にも先にも、あれきりです…。

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