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短編2
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虎炎(こえん)

これは私、幹岳久康(みきたけ・ひさやす)が、天雲寺(てんうんじ)の先代住職より御聴きした話。

当時ライバルの寺か生臭坊主かの寺で猛獣を飼っておりそれが逃げ出すと言う騒ぎが、1978(昭和53)年前後に起きたと言う………勿論、同時期に起きた虎騒動で住職が、殺生の話をした事で猟友会の怒りを買った顛末とは、又違う御話である。

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或る女学生が、父親が投資詐欺に遭ったとの事で、その際にこさえてしまった借金で生活が苦しくなりつつある時分に、足取り重く天雲寺の近くの神社の石段を登っていたのだと言う。

────アルバイトをしようともしたが、父親が大丈夫と取り合ってはくれなかった事情も有る。

その際、綺麗な玉がコロリコロリと転がり落ちて来て、ビー玉より大きく当時も既に有ったろう、いわゆるスーパーボール位だったそうな。

触れようとした際、何故かその玉は熱く、触れようとした女学生は火傷をしたかと思って、自らの指先を見たが、爛(ただ)れてもおらず、ましてや赤くもなっていなかった。

気を取り直して、自身の目の前で落下をやめた透明な玉を拾い直すと、先程の熱い感覚は無くなっている。

彼女は神社に関連したものだと感じて、賽銭箱の下に置いて、賽銭箱に小銭を入れて父親の借金が無くなる事や、投資詐欺の犯人が捕まる事を願って、その場を後にした。

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1ヶ月経つか経たないかの話だったろうか、投資詐欺の犯人が捕まるどころか、竹林で喉を裂かれた上、生きながらにして焼き殺されると言う凄惨な最期を遂げたなんて事件が起きる───有ろう事か、投資詐欺の犯人が生臭坊主で、加担した関係者、そして生臭坊主と同じく、喉元を喰いちぎられた目付きの凶暴な虎迄もが、再会した飼い主と共に心中するかの様に焼け死んでいた。

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犯人は不明、然し高飛び直前の軍資金を押さえる事が出来た為、全ての額面と迄は行かなかったが、生活の立て直しや女学生の進学費用も賄えるだけの金銭が戻って来る形になって、彼女や父親含めた一家は、喜ぶよりも驚いていたと先代住職は述べている。

住職が女学生に直接聴いた話に依ると、生臭坊主の焼け死ぬ事件の起きる数日前に、何故か炎に身を包んだ虎が出て来て、彼女の目を見て頷いて消えたのだと言う………だが、眼光は威圧感をもって睨み付けるで無く、何処と無く穏やかですらあったと。

恐らくあの優しい眼差しは、玉を持ち去らなかったのが良かったのだろう、持ち去ってしまっていたら凶暴な眼光で睨まれて焼き尽くされてしまっていたかも知れないと、今更ながらゾっとしていると証言していたそうな。

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