1:今までは不安定だった蘭(あららぎ)ユウジの霊感が事件を解決した事で、安定して起きた弊害
それは、この世に残した未練を持つ霊のお悩み相談が増えた事だ
職場であるコンビニエンスストアに来るとそれは起きる
ある時は、息子の誕生日にケーキを買って帰る途中で事故死した男性と息子の代わりに一緒にケーキを食べた
またある時は、上司のパワハラ、セクハラを受けていた疲労から倒れた所、打ち所が悪く亡くなった女性が愚痴り足りないと言う
その女性に酒を買い、その愚痴を仕事中のユウジはコーヒーを飲みながら聞いた
その様に心残りがある霊達がユウジに助けを求めて集まっている
以前、店内に客が居るのに騒いだ霊もいた
客が居なくなった瞬間、すわった目で眷属である水霊(みづち)の美月(みづき)に言った一言
「美月。さっきから騒いでる奴ら全員食っていいよ」
ユウジから放たれた殺気が凄まじく、皆逃げた
当然、それを言われた美月も驚いた
それもそのはず
ユウジは普段絶対にそんな発言はしないからだ
(しかし、ユウジ。貴方すっかり、幽霊達の癒し系よねぇ)
「そうゆうのはアイドル並みルックスの美少女の仕事だと思うんだけどなー」
(ルックス良くて霊感が強い女性なら出来そうだけど、若い子じゃ厳しいかも。人生経験は必須よ?相手を理解してあげなきゃ)
「俺の人生経験で相手を理解してるかは分からんが、これって癒し系なのか?それになるには、おばあちゃんが作ったミザンガに『おばあちゃんに会いたい』なんて棒読みの不協和音を奏でなきゃ駄目だろ…。俺はそんな事してないぞ」
もうすぐ日付けが変わろうとしている時、美月とその様な会話をしていると、防犯カメラのモニターにノイズが走った
ユウジの助けを求める霊が来た際によく起こる現象だ
事務室から出るとユウジはカメラの場所へ向かった
ピンク色の布が落ちている
納品された商品を陳列した際にはそんな物は無かった
ユウジは深くため息を吐くと、ポケットから使い捨てのビニール手袋を取り出し装着
親指と人差し指を使いその布をつまんだ
それは、女性物の下着だった
そして、喫煙室に入ると灰皿の上に置き、ライターを使って火を付けた
ガムランボールを鈴(りん)の代わりに鳴らし、両手を合わせる
すると、ユウジの後ろから悲鳴が上がった
ユウジの後ろに現れたのは、膝丈スカートのブレザー着て短く髪を切り揃えた女子高生幽霊の鈴本(すずもと)リナ
「何するんですか、蘭さん!」
「何って、怪現象が起きたからお焚き上げしてるに決まってるだろ?」
「せっかく私が生前持ってたので一番可愛いの出したのに」
「何の為にそんな無駄な努力してんだよ…」
「もちろん、蘭さんの為です!」
「全然為になってねー」
2:リナは10年前にイジメを苦に自殺した
リナの話では、死んだ後迎えが来る
邪念が強いままで天に上がると、生まれ変わる際の査定にマイナスに働く
その為、怨念を捨てる目的で現世に留まる者も少なく無い
その決断をするのが、世に言われる「49日」である
リナは49日現世に止まり、決断した
自分をイジメてた主犯格八上(やがみ)アキに取り憑き恨みを晴らす事で怨念を捨てる
しかし、49日を迎えた日
アキは親の急な転勤で引っ越してしまい、リナはアキを探し彷徨う事となる
そして、10年の月日が流れた時に幽霊達の心残りを解決してくれるコンビニ店員の噂を聞き、ユウジの元に現れた
霊感に関しては天賦の才があると言われてるとはいえ、名前だけでその人物を探す事は不可能に近い
その為、断られた
しかし、10年彷徨い歩いたリナにとって最後の希望だ
何度も食い下がる
暫く、ユウジを見ていた
現実の仕事をしながら、来る幽霊の話を親身になって聞き、時には幽霊の為に買い物もする
そんな誠実さに惹かれ始めてきた
ユウジの気を引く為、無理難題のワガママを言ったり、悪戯をし始めて現在に至る
3:「で?お前は何しに来た」
「蘭さんに会いに来たに決まってるじゃないですか」
「JK相手では色々と問題がある。百歩譲って問題解決したとしても、せめて生きてる時に来てくれ」
「もう死んでるから無理です。どうして私ばかりいじめるんですか?」
「無茶言ったり、下らない悪戯ばかりしてるからだ。マジ祓うぞ?」
以前リナがユウジの肩を叩き、振り向いたユウジに血塗れ姿で脅かした事がある
恐怖を感じたユウジが、不動明王の加護を無意識発動
リナを炎が襲った
ダメージを受けた事で、ユウジの祓うと言う言葉は不動明王の加護を使用する
一度受けた攻撃で、リナには恐怖を感じる
もちろん、ユウジに危害が無ければ不動明王の加護は発動しない事をリナは知らない
「そんな事したら化て出ますよ?」
「いや、もう化てるだろ…」
「それもそうですね」
「大体な。霊感強い人はリナの事視えるんだぞ。あのコンビニの店員は深夜にJK連れ込んでるなんて言われたら洒落にならん」
「でも、蘭さん。ここに来る人で霊感強い方って、22時半位に来る美人さん位ですよ」
「あー。あのタチ悪そうな幽霊にストーキングされてる人か。美月が出てその霊を牽制してるね。何?あの人って美人なの?マスク外してるとこ見た事無いし、名前すら知らないんだけど」
「外ではマスクしてない事あります。蘭さんの好みかは分かりませんが、美人だと思います」
「最悪だ。リナと店に居たら、あの人にロリコンで龍を連れてる変な奴だと思われるじゃん」
「えぇ、私も見られちゃ駄目だと思って蘭さんの自宅に出ようと着いて行ったんですけど、玄関で弾かれました。結界張ってます?」
「いつの間にか尾行されてたのかよ!結界なんて張ってないぞ。…嘘だけど」
「あれれ?張ってないんですか、って、やっぱ張ってるじゃないですか。解いて下さい」
結界の張り方を教えたのは言うまでもなく美月である
「結界を解くと俺の安眠が無くなるから却下だ」
「私が蘭さんの家に住み着いて座敷童子になってあげますよ」
「座敷童子って誰でもなれるの?」
「知らないです」
「知らないのに座敷童子になるって言うな。とっとと成仏しろ」
「あっ、成仏で思い出しました。蘭さん、一つお願いがあるんです」
「てか、重要な事を忘れるな。俺が出来る範囲内か?」
「仕方ないじゃないですか。蘭さんとの会話が楽しすぎるんですよ。安心して下さい。蘭さんしか出来ないです」
「一応聞こうか」
「蘭さん。明日私とデートして下さい」
「は?」
リナから予想外のお願いが来た事に、ユウジは驚きを隠せなかった
作者蘭ユウジ
あるCDの特典映像を見ていて、突如作者の脳内に溢れ出した存在しない記憶。思いの外長くなったので、前後編に分けます。