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中編4
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貰い物

コロナが出た年の夏だった。

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その日、俺は大学時代の先輩3人と一緒に広島の某山にキャンプツーリングに来ていた。

俺は広島出身だったから、市内の観光地やら郊外のマイナースポットやら色々案内しながらバイクを走らせ、17時前にキャンプ場に着いた。

そこは無料キャンプ場、と言っても小汚いトイレと小さい水場があるくらいで、余り管理の行き届いていない感じの場所だった。しかしだからこそ客が少ないし、サイト自体は雰囲気が良いのでお気に入りのキャンプ場だった。

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くだらないバカ話からやれ仕事はどうだ彼女は出来たかなど一通り語り合い、23時頃各々テントに入った。

怪異はその深夜に起きた。

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耳障りな音で目が覚めた。

何処からともなく、何か金属を叩くような音が聞こえてきたのだ。

「カンカンカン、カンカンカン」と一定のリズムで、何か軽い金属製の皿を棒で叩くような、そんな音だった。

俺は、アニメに出てくるような食堂のおばちゃんが、鍋とお玉を叩き合わせてカンカン鳴らしているのを想像した。

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先輩の誰かか?

でも夜中にそんな迷惑行為をするような人ではないと思うし、そんなにベロベロに酔っ払ったようにも見えなかったが...

しばらく聞いていると、段々音の出処がわかってきた。

山の斜面の方からだ。

しかも段々こっちに近づいている。やはり先輩か?しかしトイレも水場もそちらとは逆方向のはず。何故そちらから来ることがあるのか?

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寝起きの頭が高速回転してこの現象に付けるべき説明を探したが答えは出ない。

取り敢えず先輩に連絡しようとスマホに手を伸ばすと突然通知が鳴り、心臓が飛び出るほど驚いた。慌ててマナーモードにし、メッセージを開いた。

直感だが、この金属音の主に存在を悟られるのは良くないと判断したのだ。

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メッセージは先輩からだった。

「起きろ」

「聞こえるか?」

「化物にしろ人間にしろ絶対やばい奴だ」

「武器になりそうな物用意しとけ」

「他の皆も気づいてる」

「下手に刺激するな。俺達に何かしてきそうなら、合図するから一斉に外に出て逃げるぞ」

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俺は薪割り用の斧を握りしめて音に注意を向けた。

明らかにこちらに近づいている。

「カンカンカン、カンカンカン」

一定のリズムの合間にゴボゴボと別の音も聞こえる。何かぶつぶつ呟いているようだ。

「カンカンカン、...カァ、カンカンカン、カア」

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「やろうかあ」

「やろうかあ。やろうかあ」

野郎か?ちがう。やろうか?くれるってことか?

言葉の意味を逡巡するが分からない。

「カン!カン!カン!カンカンカンカン」

もうめちゃくちゃに金属音が鳴り響いており、もはやすぐこの場所を逃げ出すべきなのは明白だった。

またスマホが鳴り、メッセージが届いた。

「にげろ」

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斧と懐中電灯を持ち思い切りテントから飛び出した。

バイクの方に駆け出しながら、先輩達が出てくるのを待った。しかし出てこない。誰も出てこないばかりか、テントの中で動く気配すらない。

何やってんだよ早くしろよと思いながらスマホを開きメッセージを確認するが、さっきの先輩とのやりとりも、にげろの文字も何処にもない。どうして

金属音は俺の真後ろで鳴り響いている。

「やろうかあ」

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俺は奴を見てしまった。

見たからと言って都合よく気を失うこともなく、はっきり今でも目に焼き付いている。

月明かりもほとんどない闇の中で、そいつは手に錆びたブリキの缶のようなものを持ち、それを太鼓のバチのような物で叩いて「カンカンカン、カンカンカン」と一定のリズムを刻んでいる。

手足は緑でドロドロのスライムにニキビが沢山できたような爛れた表面、体は神社の神主が着るような形の薄汚れた白い服を着ており、顔は四角く大きいブツブツした豆腐の表面に、俺の顔くらいはあろう巨大な目と口がついたような様だった。

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そいつはまた俺に向かって

「やろうかあ。やろうかあ」と言った。

俺は「くれるんだったらくれてみろ」と言った。

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それから、俺が家にいようが道を歩いていようが車を運転していようが、ふと気がつくと隣に白い潰れた豆腐の様なものが落ちている様になった。

これはあいつの一部だろうか。

あいつはこの先いつまで、この得体の知れない贈り物をくれるつもりなんだろうか。

俺はもう、たとえ親しい間柄であっても貰い物は絶対にしないことにしている。

何を渡されるか、わかったものじゃないから。

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