僕には本が大好きな友だちがいる。
その子は休み時間になると黒色の本を持って外に行き、校庭に生える大きな木の下で読んでいた。
どんな本を読んでいるのと僕が聞いても、彼は何も答えずに本から目を離さなかった。
その様子があまりにも楽しそうだったから、その子の後ろにこっそりまわって本の内容を覗いてみた。
本のページには細かい暗号のような文字がびっしりと並んでいて、僕には一文字も読めなかった。
彼は僕が見ているのに気づかず、にやにやしながらページを指でなぞっていた。
彼はどうしようもなく本の虫なのだと思った。
それ以降その子のことが気味悪くなって、彼と仲良くすることはなくなった。
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ある日の放課後、忘れ物をした僕は誰もいない教室にひとりで取りに行った。
無事忘れ物をロッカーの中に発見し、教室を出ようとした時、自分の机の上に何かが置いてあることに気づいた。
机に近づいてみると、それはあの子がいつも読んでいる黒色の本だった。
僕は興味津々で本を開いてみた。
開いたページには、やはり僕には読めない細かい文字が並んでいた。
しかし、実際に本を手にとって、はじめてそれが文字ではないことに気づいた。
読めない文字だと思っていたのは、等間隔で潰された蟻の死骸だった。
背中をぞっとするような寒気が走り、手に持っていたものを放り投げた。
それまで下側になっていた本の表紙が目に入り、タイトルが日本語で書かれていた。
そのタイトルは、「本の虫」だった。
まばらな黒色の上に浮かびあがる、白色の文字のタイトルだった。
作者退会会員
子どもの頃食べたそれは、ちょっと酸っぱかったです。