「あんよが上手」
生後十二ヶ月の赤ちゃんが、おぼつかない足取りで歩いている。
「あんよが上手、あんよが上手」
餅のような頬を赤く染めて、時々手を振ったりして歩いている。
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「それ、もう少し」
部屋の壁から壁まで五メートルの冒険、ゴールはもう目の前だ。
「よく頑張った、えらいねー」
赤ちゃんは満面の笑みで、まるで誰かとハイタッチするみたいに壁を叩いた。
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部屋の片隅で、母親は唖然とした表情で座っていた。
我が子の驚くべき成長を目の当たりにして、腰を抜かしたみたいだった。
赤ちゃんは体の向きを変えると、再び壁へと向かって歩き出した。
鼻にかかった幼いかけ声が、二人だけの空間に響き渡った。
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「あんよが上手、あんよが上手」
作者退会会員
渋滞につかまったので暇つぶしにひとつ…